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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
144/226

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いつも通りに二人で馬車で登校すると、学校は大騒ぎになっていた。

ルイの言葉が裏付けられたと知ったシャルロットは、好奇心いっぱいで馬車から飛び降りた。そのまま野次馬の多い方へ向かって走っていこうとするのを、ルイは両肩を掴んで急いで止めた。

振り返ったシャルロットは不服そうだったが、そこは自身の身分を思い出してもらった。さすがに王女が制服の裾を乱して物見高く見物に行くのはよろしくない。

視界の隅に、怖い顔をしているマクシムが見えた。近寄らないように、と目で強く示している。了解の目配せを送ると、強い頷きが帰ってきた。

「ちぇー。つまらないの」

隣でよろしくない愚痴が小さく聞こえたが、ルイは無視した。シャルロットの気持ちもわかる。ルイとて夜のうちに見ていなければこの目で確かめたいと思うだろう。

悪いと思いつつ、去りがたい風なシャルロットを連れて教室に向かった。

クラスに着いても常とは違うざわつきに満ちていた。だがそれも教師が来て簡単に夜の出来事を説明したお陰で表向きは静まった。


学校の見解はこうだ。

昨夜、鐘塔が崩落した。今のところこれ以上倒壊することはないと見られているが安全を最優先し、危険なので規制で張った縄の中には入らないように。特に用もなく周囲を彷徨いたりするのも禁止する。魔道庁、政府の役人、衛兵が調査中なので邪魔する行為は控えること、栄えある王立学校の生徒に相応しい振る舞いを維持するよう望む、と。

ルイが昨日、遠目で確認した以上のことは判明していないのか、生徒達には明かす気がないのか。

ただゲームの設定通りなら、この現象自体を調べても無意味なのだろう。シナリオ開始の狼煙でしかないのだから。

まずはサヨに報せて様子見。

それから、気は進まないが主人公の行動を確認だろう。



終日、落ち着かない雰囲気の校内で日課を終えると馬車で帰宅した。サヨとの相談に首を突っ込もうと追いかけてくるシャルロットを何とか振り切って、ルイは自室に飛び込んだ。

扉の向こうでなにやら叫んでいる声が聞こえたが、今日はもうすぐマクシムが宮に来る。早めに支度をする必要があるから、いつまでもルイの部屋に張りついてはいられない。

扉越しに耳を澄ませていると、クレアの声がしてシャルロットの気配は遠ざかっていった。


ナイス、クレア。


侍女に連れていかれる姿が頭に浮かぶ。一時は不満だろうが、シャルロットにとって楽しみの上位にある剣の稽古が待っている。マクシムとの時間が始まってしまえば、ルイとサヨが内緒で話していようとどうでもよくなるだろう。

しばらく部屋の向こうが静かなことを確認してほっと肩の力を抜いた。


「お疲れ」

顔をあげると、部屋の壁際にサヨが立って手を振っていた。

「待たせて悪かった。着替えてくるから、そこに座っていてくれ」

定位置のソファを指差して、ルイは寝室に入った。

制服から平服に着替えて戻ると、テーブルを挟んだ位置でサヨと向かい合う。

「学校は大騒ぎだった」

「何か原因みたいなの言ってた?」

「いいや。皆は勝手に噂してるけど学校からは調査中、原因究明はしてるってだけ」

「学校はそう発表するしかないわね」

曖昧な学校の見解は予測していたのか。特に驚きもせず受け入れてサヨは肩を竦めた。

「これってゲーム通りでないわけか」

「時間がズレてるって意味ではそう。でも、とにかくスタートしたんだから、これから魔物が出るわよ」

「いつ、どこで?って聞いても意味がないんだろうな」

「細かい攻撃はちょこちょこ来ると思うけど。ほとんど王都から離れた地方の辺鄙な処だから。学校では、つまりゲームではほとんど話題にならない。最初のうちは魔道庁が対処してる感じかな。その間に平穏な学校でヒロインは攻略対象者と親しくなるの。そういう段階」


確かに今の状態で学校に魔物──森の小鬼や地下で遭遇した化け物のような食虫植物が現れたら、とんでもないことになる。上級生はともかく、入学したばかりの魔法学の初歩の初歩しか学んでいない一年生は何も出来ず逃げ惑うだろう。

ゲームでは、主人公達にあまり関係ない地域、防御の薄い辺境や地方都市が襲われるらしい。しばらくは王宮の役人や魔道士らで事足りるものなのか。

ジュールの意見も聞かなければ。それからアルノー経由で国──ロランがどう対応するのかも知りたい。

頭の片隅で押さえておくべき点をマークする。


「ヒロインとはあれから会った?」

「ないよ」

ヒロイン──コレットは物語の最重要人物だ。

ルイが第一王子である以上、彼女との交流は避けて通れない。しかしあの出会いのひどさから、今後もまともな会話さえ成立しなさそうだった。

先の展開を思えば、ヒロインの考えや能力開花は知っておきたい情報だ。だが本来なら親しく言葉を交わして得られる筈のそれが、全て頓挫しそうなのだから頭が痛い。

「無理はしなくていいけど。機会があったら逃げないで」

「了解」

ルイの気持ちを慮ってか、サヨがかなり緩い提案をする。

いつもは容赦ない彼女の譲歩にそれ程事態が悲惨に見えているのかとも思うが、ここはありがたく受け取っておく。今の状態でこちらからコレットに接触する気力は湧いてこない。


ルイは話を変えた。

「ラスボスってどんな奴?」

「魔法使い。強大な魔力を持って魔物を国の中枢に仕掛けようとする」

「鐘塔が崩れて出てきたってこと?」

「それは関係ない。元からナーラ国に潜んでいた、王国を転覆しようとする強大な魔術師って設定よ」

「それってどこから出てきたんだよ」

アルノーの元でこの国の歴史や最近の政情などを学んだが、そういった兆候に触れたことはない。前魔道庁の士長だったジュールからも聞いたことがない。

そう告げると、サヨが肩を竦めた。

「あのね。このゲームって女性向けなの。ラスボス倒すのも大事だけど、基本女性が自分を投影したヒロインを使って、キラキラな男子とイベントクリアして仲良くなるのが肝なのよ。魔法とか宝とかも大事だけど、それは所詮彩り。ヒロインが力を使って敵を倒すのも攻略対象者癒すのも、素敵な男子と絆深める、ただのアピールなの」

「身も蓋もないな」

「だから一応、きちんと敵がいて世界を救う展開だけど、細かい設定が詰めきれてないのよ。製作会社は裏設定とか作り込んでいたかもしれないけど、ゲーム上には出てこないの。プレイヤーもそこまで知らないでもできる仕様だったから」

ゲームをプレイするのに必要ない情報、設定は表に出ない。プレイヤーの元には落ちてこない。

「でもゲームの世界が現実になると、そういうわけにもいかないってことか」

「そう。だからラスボスの出現や背景に意味が有るかもしれないし、無いかもしれない。バックグラウンドがあってもこれまでの展開のせいでゲームでも設定からズレてるかもしれない」

「あー」

「聖剣や宝玉みたいにね」

今、意図せずに手元にあるものを指摘されてルイは反応に困った。

イレギュラーな自分が、シナリオから外れた時期に勝手に、ゲームでは重要アイテムらしい宝を二つも手に入れてしまっている。

探し回ったわけでもないのに、何故か目の前に転がり込んできた伝説の宝(複数)。

放り出すわけにもいかず保管しているが、ヒロインも現れたこの世界で、どういった役目を果たすのか。


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