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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
5章
143/219

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改めてヒトガタになったサヨと自室のテーブルを挟んで向かい合う。

「何て言うか。ゲームがユーザーが楽しむ為の展開なのはわかった。もうその辺の疑問は目を瞑るよ。ぐだぐだ言っても仕方ないし」

「ルイの言いたいことはわかるわ。神の視点でプレイしてるとスタートできて、やった!て感じなんだけど、リアルで考えるといきなり破壊が始まるんだもの。本当にやってられない気分よね」

これから、事態は悪くなると宣言されているようなものだ。

「それで。ヒロインのコレット嬢は、間違いなく救国の力を持つ聖なる乙女ってことでいいんだよな?」

ゲームの所謂スタートボタンが押されたというならば、確実なのだろう。結局ルイとの出会いはあれでOKということか。

「そうでなきゃ困るし、そう見て良いと思うけど」

「けど?」

少し迷うようなサヨの口調は気になる響きを持っている。

「どうなんだろ。今夜の鐘塔の崩壊。ルイがヒロインと会ってから、一週間以上経ってたものね。ちょっと判断が出来ないわ」

サヨはあやふやな言い方をする。

「コレットがヒロインなのは間違いない。でも塔が崩れたのが遅すぎるのよ。これもズレなのかどうなのか」

そこで、サヨははっと息を飲んだ。当たり前だが、ヒトガタだと鳥の時よりいろいろ感情がわかりやすい。

「?どうした」

「ねえ。もしかしたらだけど」

「ああ?」

ためらいがちで要領を得ないサヨの言葉に続きを待った。

「明日、シャルロットに聞いて」

「何を」

「ヒロインに会ったかどうか」

「──え、つまり」

ルイは慌てた。サヨが想定している考えに思い当たったからだ。


「シャルなのか?」

ルイ達の預かり知らぬところで、シャルロットかコレットに会った。それが契機となってゲームが開始されたのでは。

その可能性を、サヨは指摘している。

「わかんないけど。有り得るかなって」

淡々と話すそれは、言われてみれば確かにと頷ける話だった。

つまり、性別が変わってもシャルロットがシャルル王子の立ち位置のままなのか。


じゃあ、俺は?


嫌な想像をしてしまいルイは顔をしかめた。また自分の立場があやふやになる。足元が揺らぐような不安定な気分。

察したサヨが手を伸ばしかけてやめた。唇を湿して、言葉を選びつつ語りかける。

「会ってたとしても、それでシャルがってわけじゃない。そんな単純なものじゃない」

「でも」

「悪いけど。ルイが考えてる線の方だったら話はむしろ簡単だから。でも多分、事はそうシンプルじゃない」

それからもう一度、大事なことを告げる。

「まずは、明日、シャルに確かめてよ」

「わかった」

「私はこの部屋で休んでいるから」

そう言ってサヨはルイにもう休むよう寝室を指し示した。

もう夜中をかなり過ぎていた。

だがベッドに横になったが、ルイは眠ることは出来なかった。




ルイはまんじりともせず朝を迎えた。寝れぬまま、ごろごろとシーツの上を移動して時を潰してしまった。

朝日が差すのを待って、ベッドから下りた。早過ぎるのはわかっていたが、もう一度横になる気にはなれなくて、着替えを済ませてしまう。続きの居間に行くと、サヨが呆れたように見守る中、シャルロットが起きる時間になるまでじりじりと待った。


「来た!」

隣の部屋の扉が開く気配を追って、ルイは扉の取っ手に飛びついた。

ガチャ、と大きな音を立てて扉が開くのと、ルイが廊下に転がり出たのはほぼ同時だった。

「ひっ。なに、ルイ?」

寝起きのぼんやりとしているところに、大きな音を立てて兄が飛び出て来たのだ。シャルロットは壁に張りつくようにしてルイを見た。

「おはよう、シャル」

弾む息を取り繕うようにルイは言った。

「おはよう?」

上目遣いで窺いながらもシャルロットが応える。しかしルイの背中から、もう一人顔を出した。

「ほら、挨拶してないで聞いて」

「──サヨ。わかったって。あのさシャル」

「なに、またサヨは来ていたわけ?アンヌにバレたら怒られるよ」

天敵の姿を認めて、シャルロットの口調が棘をまとう。ここでサヨとシャルロットの軽い応酬がいつもは為されるのだが、今朝はそれを待つ余裕はない。まずは大事なことを聞くのが最優先だった。

「シャルが黙ってくれたらバレないよ。それより、聞きたいことがあるんだ」

自分の言葉を無視されて、シャルロットは不満そうに頬を膨らませた。だが聞きたいこと、に興味が引かれた。

「なに、私にわかること?」

「シャルにしか聞けないことだよ。あのさ、昨日とか最近なんだけど。校内で誰か一年生の女子に会わなかった?初めて見るような知らない子。すれ違ったとかじゃなくて、ちょっと顔を合わせて話したとかさ」


具体的には、ピンクがかった金髪の特待生の新入生。ヒロイン、コレット・モニエに。


とは聞けないので、とても大まかにぼかして訊いた。

「は?学校で会った子なんていちいち覚えてないよ。一年生?そんなの…」

意外な問いかけだったのだろう。シャルロットは目を瞬いてぼやいた。

ルイはがっかりすると共に少しだけ安心した。が、シャルロットの藍色の目がくるりときらめいた。

「あ。昨日、女の子に会った」

「いつ!どんな子よ?」

ルイが口を開くより早く後ろからサヨが叫んだ。

「昨日、昼過ぎ?教室移動してたら、下を向いてて柱にぶつかりそうな一年生がいてさ。危ないから肩を引いて助けたよ」

「どんな女子だった?」

「え?ピンクっぽい髪のかわいい子だったけど、なんか私の顔見たら泣き出して。慌てちゃった」

「──」

間違いない。そっと背後を振り向くと、サヨが言った。

「ビンゴ」

「だな」

顔を見合わせて頷きあっていると、シャルロットに髪を引っ張られた。

「なにしてんの」

「いや、ちょっと。離してシャル」

「その子がどうかしたの」

「いや、俺も一週間くらい前に会ったから。怪我してて処置室に来たんだ」

「あ、そうなんだ」

シャルロットはぱっと摘まんだ髪を離す。

ルイが彼女──ヒロインの心配をしていたと勝手に納得したようだ。

「そうか、でもどこか怪我してる感じは全然なかったよ。処置室の治療でちゃんと治ったんじゃない?」

「泣いてたって言ったけど」

「んー?体が痛いとかじゃないよ、多分。私がいきなり掴んだから、びっくりしたのかも。でも怒ってなかったし、良い感じの子だった」


やっぱり。


自分以外にはきちんとした態度をとれる、まともな少女なんだ。

ルイは落胆したが、仕方がない。嫌われる立場なのだからと自分に言い聞かせる。

「?名前は確かコレ…、えと、コレットさん」

「そうだな…」

駄目押しの名前まで出されて肩が落ちるルイを、サヨが背中から小突いた。

「しっかりして。確かめられたから良かったでしょ。ほら、もう時間ないから」

「あ、ああ」

サヨの言う通りだ。ここでずっとぐだぐだしているわけにもいかない。朝食を取って学校に行かねば。


「用ってそれだけ?」

朝から待ち伏せまでされていた。それで聞いてきたのが、どうでもよさそうな一年の女子生徒一人のこととあって、シャルロットは拍子抜けしたようだった。

「変なの」

呆れた目で妹が見ているのはわかったが、ルイは返す答えを持っていない。

「ルイ」

サヨの目配せにルイは頷いた。

視界の隅で、シャルロットが拗ねたように唇を尖らせたが構っていられなかった。

「取り敢えず、私は一旦消えるから」

「わかった、また後で」

「うん」

挨拶もそこそこに、サヨは鳩に姿を変えて開け放った窓から去った。ルイは黙って見送る。

「二人だけで通じあっちゃってさ」

シャルロットが不満げに言う。

「違うよ。ちょっとサヨ、忙しいんだよ」

「何それ」

「本当に。なんか学校で起きたみたいでさ」

「え、なになに」

シャルロットの追求を躱す為に、夜半の塔の崩壊を匂わせる。あくまで知らぬ体でサヨから聞いたと話した。細かいことはわからないんだよ、と。

「へー。それでサヨが昨夜来たんだ」

食堂へ向かいながら、適当に事件が起きたと説明すると、シャルロットは容易に信じてくれた。

嘘でも間違いでもない。ただその先を言っていないだけ。

「そうなんだよ」

心の中でシャルロットに謝って、ルイは食堂の扉をくぐった。


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