表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
4章
133/276

131


男に与えられたのはこの国に伝わる宝の一つ、宝玉の捜索、奪取だった。


数年前、宝の獲得は目の前にあるかに思えた。

「あの折にめでたく宝玉を手中におさめておればな」

数年前の地下での失敗を思い出してか、主は嘆息する。言っても詮ないこととはいえ、諦めきれないのだ。

「我らが先んじて玉を得られたなら大事は成り易かったのだが。魔鳥を玉の力で我らの虜にする。しばらくの後に再び玉を使って魔鳥を完全体にすれば、何より優れた使い魔になったであろう」

それが、当時思い描いた最善の未来だった。

王居と学校を隔てる森の狭間の地下。口伝を頼りに探索してあの辺りに聖なる宝玉の痕跡を感じ取った。闇に潜む彼らの崇める存在が、偉大な魔力で感じ取った成果だ。

だが、魔道庁の目を掻い潜りつつ丹念に近辺を探したが発見はならなかった。対象が地下故に探しきれなかったのもある。

そんな最中、魔物共が騒ぐ先に黒魔鳥を見つけたのは僥倖だった。王居の空を飛ぶ黒い鳥。あの魔鳥に宝を探させれば事は上手く行く。そう確信したのだ。

魔鳥が宝玉を見つけたところで横取りしようと企んだ。

理想はもちろん、実現が困難なことはわかっていた。魔物が這い出る防御壁の隙間は細かく点在していて、さらに巡回する魔道士の目から隠れなければならない。彼らの監視の対象は王居や学校、王都へ立ち入ろうとする魔物だが、警戒区域を不用意に不審人物が彷徨けば、即疑われてしまう。場所を変え、時をずらして、その瞬間が来ると信じて待った。

だがあの日、魔鳥が魔物の集団に囲まれて地下に潜った場は、前日に魔道士が魔術を強化した箇所だった。それ故に、手の者の配置は遠く、事態の把握が遅れた。


魔鳥に惹かれた魔物の集団は、強化された防御魔法の狭間をぬって地上に這い出した。魔鳥の引力はそれ程強いということだ。そして、魔鳥と魔物の攻防に気づいた時には既に舞台は地下に移っていた。点在する防御魔法の残滓を除けながらの魔鳥と魔物の魔力のぶつけ合いの跡を辿る作業は、ひどく難渋する羽目になった。崩落と魔物の群れに襲われたのだ。

そして、彼らが行き着いた先では全てが終わっていた。

宝玉も、魔鳥もいない土塊の山だけを目にしたのだ。

丹念に現場を調べると素性不明の魔道師の関与が明らかだったが、その痕跡は丁寧に消されていた。自らの術跡を消去するのではなく、痕跡から個人を特定する要素を完全に潰した見事な手際だった。故にこの時関わった魔道師を追う線は断たれた。捜索の初めから断念せざるを得なかったのだ。

他方、黒魔鳥が宝玉の力で完全体になったところを押さえる、その為にかなり強大な魔力の網を構築した計画も不発に終わった。

宝玉は発現するどころか所在不明のまま。

強大な魔物として生まれ変わった黒魔鳥を捕らえるという野望も潰えた。

宝玉があの地下に本当にあったのかさえ確かめられぬまま、時だけが過ぎた。

「あれから、黒魔鳥も見ぬな」

「は、王都周辺を見回っておりますが残念ながら」

男としては難航する捜索に歯噛みする思いであった。そして密かに他の二つの宝を捜索している者の進捗が気になっていた。


国の伝説の聖なる宝は三つ。

宝玉の他は剣と盾。

剣は王都のうちに所在の兆しが見えたと、かなり以前から耳にしていた。外野の自分にも聞こえてきた確率の高い手掛かりだったが、その後見つかったという噂はない。

出来れば、我らが最初に得る宝は宝玉であって欲しい。

それは主も同じだった。

「他の二つは我らには扱えぬ故な。人は動いているが後回しでも良い。優先すべきはお前の務めだ。宝玉を得られれば何よりの力となる」

「ははっ」

「まずは、王都に潜んでいるであろう魔道師を炙り出さねば」

やはり、地下の事件の折に居合わせた魔法使いが所持しているとの判断だ。男もそれ以外有力な見方はないと考える。

「隠し持っているのなら、表に出さざるを得ない状況にするしかない。宝玉の力を使わねばならぬ事態を引き起こすのだ」

「しかし、魔鳥を出し抜いてまで宝玉を秘匿した者が、そう容易く玉の力を使いましょうか」

何しろ国をも傾ける、聖なる宝だ。

「理性を失わせる規模の災厄を起こすのよ。この国の支配者層の心が折れる程の、な。それを戻せるのは宝玉のみとなれば、な」

多額の褒美が得られるとわかっていながら王にも差し出さず隠し持っているのだ。相当の野心家に違いあるまい。

「宝の持ち主が、得られる栄誉や褒賞を計算したら迷わず使うであろう」

「それを」

「奪う」

主の短い言葉は、最早計画ではない。近い日に起きる絶対の現実だった。

ならば自分達の為すべきことは決まっていた。

近い日、を上と謀った主が決めたら、その日に向けて全てを動かしていく。前準備、裏工作。増やすべき味方と減らすべき敵の操作。ターゲットを取り巻く人の配置の差配と非常時事の救援を阻害する最小限の種の仕込み。

要所で操る魔物も用意せねばならない。そちらを担当する者を、主に引き合わせてもらわねば。

「急いてはならん。失敗は許されぬ故、慎重にな。まあ、『その時』までまだ時はある」

「既に、お心積りが?」

「奴らを狼狽させるには王家を突くのが最善。ただ、王居のうちで大々的に事を起こすには、まだ我らの力は足りぬ。しかしな、あと少しで第二王子が王居の外に出る」

はっ、と男は瞠目した。

王立学校は、王居より護りが落ちる。出入りする者は多く、騎士はいない。

「王子ならば。王家と公爵家、双方に結構な打撃となろう」

「確かに」

頷いて、思いつきを口にする。

「側室腹の王子が、学校に在籍しておりますが、こちらはよろしいので」

「公式に披露もされていない、日陰者だ。そちらを害しても、王妃が喜びこそすれ、宝玉の欠片すら拝めぬであろう」

ふん、と鼻を鳴らさんばかりに言い捨てられ、男はもう一人の王子への関心を放棄した。


主の意向はしっかりと掴んだ。

森の狭間の監視は継続するが、主たる任務は来るべき『その時』を完璧に作り上げること。第二王子の学校入学に併せて、準備しなければならないことはいくらでもある。次の訪いを約して、男は廃れた館を辞した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ