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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
4章
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今日のシャルロットはひどくご機嫌だった。

平静を装おうとしていたが、ルイから見たらばればれだった。

登校する馬車の中で、シャルロットの身に何が起きていたのか、かいつまんで教えてもらいひどく驚いた。

男子ばかりの剣術の授業で、除け者にされているとか。大問題だった。

不埒な同級生と、気づかずにいた自分に強い憤りを感じた。シャルロットによれば、それで制服の改造?をしたらしい。こんなものでなんとかなるのかと疑問だった。本人が喜んでいるのでルイは様子見に徹した、のだ。

しかし肝腎の剣術の授業では、動きやすい姿になっても皆とは別の扱いのままだったらしい。

なんだそれはとルイは落胆したが、シャルロットは特に気にしていないようだった。むしろいつもより楽しそうで、首を傾げた。選択教科の為にサヨ達にいろいろ手間をかけさせて、不発だったのに何故?


今も、女子生徒が二人、もじもじとシャルロットの前に立って話しかけている。驚いたような、嬉しそうな顔で妹は一言二言返している。

上機嫌と言ってもいい。

シャルは女子生徒から制服について問われて改変したことを伝えた。

大騒ぎして制服を作り直して、結果はそれだけ。

なのにとても楽しそうだ、


あれ?


ルイは違和感を感じた。


シャルが、シャルロットが学校で笑ったことってあったか。


脳裏で精査して、一度もなかったと気づく。そんな馬鹿なと思い返すが、今さっきのような自然な笑みが、記憶の中では見つからなかった。

そこまで考えてルイは、入学以来、自分のことで手一杯でシャルロットを顧みてなかったと思い知った。



学校から二人揃って帰宅する。

宮に着くと、馬車が止まるのを待ちきれぬようにシャルロットが扉を開け放った。顔に浮かぶ笑みを隠そうともせず降り始める。切れ目のあるスカートで足運びが楽なのか、タラップを踏むのも軽やかだ。

続いて馬車から降りたルイは、そこで車寄せの陰に潜むサヨに気がついた。人目につかないようひっそりと身を縮めて隠れている。

ルイはシャルロットに軽く手を上げて先に行かせると、サヨの元へ駆け寄った。こういう時、使用人の少ない環境はありがたい。

「サヨ」

小声で呼ぶ。サヨは手を伸ばしてルイの手首を掴むと、早足で建物の壁に沿って人のいない奥へ向かった。

しばらく無言で歩いて誰にも見られない庭に着く。サヨは手を放して振り返った。

「どうだった?」

自信満々で送り出したものの心配だったのだろう。尋ねるのはもちろん今日の首尾だ。

「うん、選択授業の方は相変わらず、仲間外れのままだったみたいなんだけど。クラスでさ」

「うん」

「制服変えたせいで同じクラスの女子に話しかけられて。それだけなんだけど、シャルはすっごく嬉しかったみたいなんだ」

「へえ」

「それで俺、思ったんだけど。もしかしてクラスで上手くいってなかったのかなって。俺は別行動が多かったから知らないんだけど、女子とあまり話せてなかったのかも」

訥々と学校で感じたことを語る。サヨの応えは素っ気ない。

「やっと気づいたか」

冷めた目線から、ルイの鈍さを責めているようにも見える。

「朝、言ってくれたら良かったのに」

「言ったらルイ、大騒ぎするでしょ。そんなになったらいろいろ滅茶苦茶になる」

「それは」

否定できない。シャルロットが嫌な思いをしていると知ったら、元凶が罪のない同級生といえども厳しい目で見るだろう。

「何か切っ掛けがあればね。学校には馴染めると思ってたんだ」

「なんでわかるんだよ」

「いや、普通女子に好かれるタイプでしょ。お姫様。ルイと一緒だから様子見になってただけで、本性見せて振りきれたらどう見ても、ねえ」

「?そう、か」

「そうなの。だからちょっときりっとさせただけで、クラスの女子が話しかけてきたんでしょうが」

「ああ、うん」

「そういう弾みって大きいのよ。あのまま放っておいても、そのうち我慢できなくなった女子の誰かが声かけたとは思うんだけど。シャル様かなり参ってたから、そこまで保たなかったかもね」

ルイには全く気づけない見方だ。だが違うとは言えない。前世で人間関係の汚さや暗部を散々見てきたであろうサヨの見解は、いろいろと深い。


「ルイはどう考えてる?」

「なんだよ」

「あのね。放っておいたら、シャルは多分学校行かなくなったと思う」

「そんな」

サヨの言葉に、そこまでシャルロットが悩んでいたと悟る。自分が何も知らずにいたことも。

「そうしたらゲームの設定に近くなったけど。ルイはそうした方が良かった?」

「!そんなこと、思うわけないだろ」

はっとして強く否定した。サヨは目を細めた。

「そ。じゃあ私、昨日シャルの為に動いて正しかったみたいだわ」

そうだ。大事なことを言わなければ。

「ありがとう、サヨ」

サヨの表情がもう少しだけ柔らかくなった。




「サヨ、シャルには会っていかないのか?」

「あの侍女様達に報告してるでしょ。だから私はいい」

「でも。サヨが話を聞いてくれたお陰だろ」

「糸口は作ったけど、でも後は侍女様達が張り切ったからね」

このまま去ると言う。

「このくらいの距離感でいいの。多分、次に会ったらまた喧嘩する」

「いや、仲良くなってもいいんだぞ」

「シャル様も御免だって言うわ」

肩を竦めたサヨを止める気持ちはなくなっていた。そこまで言うなら、二人はこのままで良いのだろう。


窓を大きく開けると、一歩下がって見送る位置に立つ。

サヨは鳩になって夕方の空に飛び立った。



ルイは邸に戻ってシャルロットを探した。

サヨの言う通り、サロンでメラニーとクレアに囲まれて今日の成果を嬉しそうに話していた。制服を着たままな辺り、気に入っているのだろう。

「シャル」

名を呼ぶと、シャルロットはルイの周りを見てから尋ねた。

「サヨは?」

「帰った。今日のこと話したらそれで良いって。シャルロットとはこれ以上仲良くならないってさ」

シャルロットは目を見開いた。それから笑って大きく頷いた。

仲が悪いという主張とは裏腹に、二人の間に流れる空気はすっきりしている。存外気が合っているようにルイには思えた。


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