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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
4章
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ルイは皆が下校する時間になっても教室に戻ってこなかった。魔法学の選択科目がまだあるのだ。

初めて下校時間が違うとわかった日、ルイは大急ぎで教室に駆け込んで来てシャルロットにその旨を告げた。だが二回目以降はそれもない。先に帰ってて、と朝一緒に馬車で登校する時に言われるだけだ。

シャルロットは、授業が終わった解放感でさざめくクラスメイトから逃げるように帰宅の途についた。馬車で一人で帰るのにも慣れてしまっていた。




学校から帰宅して、私室の扉を開けたシャルロットは、見慣れぬ存在を目にして眉を跳ね上げた。

「何してるの」

部屋の張り出し窓に、ごろんと灰色の鳩が転がっていた。

「あー、お邪魔してるわ」

鳩が当たり前のようにしゃべる。もちろん普通の鳩ではなく、半魔の擬態で正体は魔鳥のサヨだ。黒い鳥の時よりはるかに小さくきちんと普通の鳩の大きさになってるのは謎だが、そんなことはどうでもいい。

「ここはルイの部屋じゃないんだけど。本当に、ここで何してるの?」

ずかずかと近づいて、窓枠から鳩を雑に払い落とす。

「ちょっ。乱暴!」

ばさばさっと羽ばたいて、鳩は部屋の真ん中にあるソファに舞い降りた。

「飛べるんだから平気でしょ。っていうか、この部屋に居着く気なんだ」

「んー、最近、魔道庁の防御が強化されててね。用心の為に昼間に動くことにしたの。夜鷹より昼間の鳩の方が平凡じゃない」

「だったらルイのとこに行けば?」

ここしばらく学校で落ちた気分を引きずっている。今、サヨといると余計なことを言ってしまいそうだ。さっさと目当ての部屋に行けばいい。腹立たしいが、この魔鳥が用があるのはルイだけだ。

「そうしたいんだけど。さっき人が掃除に来たから。見られると面倒くさい。変にあそこで隠れてると、バチバチやっちゃうんだよね。だから夜まで避難させて」

サヨの言うには、人目につかない昼からルイの部屋に居るのだが、折悪しく清掃に来た使用人とかち合ったらしい。気づかれぬよう部屋を抜け出して隣のシャルロットの部屋に転がり込んだという。まあ、邸の中に見慣れぬ鳩がいたら追い出す一択だろう。

さらに例のジュールの魔法がよく効いていて、帰宅したルイと不意打ちで会うと距離感を誤って、高確率で魔法にかかって酷い目に合うらしい。

ちょっとだけ、ざまあ、と思うが口にはしない。


ここまで聞いて、行き場のない魔鳥を追い出してやっても良かったが、シャルロットはそうしなかった。

魔鳥にクッションを投げて休戦を告げる。

「追い出さないの」

「私の話を聞くなら居ていいよ」

小さく言うと、鳥はするりとヒトガタになった。

「どうしたの」

ソファに腰を落ち着けて静かに問う。行儀悪く片膝をついているがこちらに向ける目は真摯で、こういう所が悔しいが敵わないと密かに思う。自分達より大人な気がする。

「あの、さ。大したことじゃないんだけど、」

「うん」

下を向いて。段々声が小さくなるのにサヨは急がせるでもなく相槌をうつ。

「学校で、上手にやれてない」

誰にも言えずにいたこと。

「本当にひどいんだ。それで、楽しくないから行きたくなくなってる」

「ルイは知ってるの?」

「ルイには言ってない」

「言えばいいのに。あの男、頭は良いけど意外に鈍いんだから」

「ルイは。マクシムもだけど、私がこんな風になるなんて考えもしてないから。言えない」

足元を見つめるシャルロットの頭の上で、ぱさり、と音がした。きっと魔鳥が白い手で長い黒髪を背中に跳ね上げたのだ。

と、サヨはシャルロットを覗き込んだ。

「詳しく話して」

黒い、真っ黒い瞳がこちらを静かに見ていた。こちらを惹きつける、吸い込まれそうな色。魔鳥だからかもしれないけれど、今この時はシャルロットの気持ちを落ち着かせた。

「うん、クラスの子達のことなんだけど」

そこでシャルロットは、なるべく細かく、順序立てて話し始めた。


入学当初からの違和感。

ルイと二人でいる時から遠巻きに見られていたのに、こちらから話しかけてもまともな返事が返ってこないなど。

特に態度が変わったのは、選択授業が始まってから。

さらに選択した剣術の授業での疎外感。

女子であるからか王女であるからかわからない、おかしな特別扱い。その不満を剣にぶつけようというのに、動きを邪魔するお淑やかな制服。

それから、クラスの女子達の態度に話を戻す。

彼女達はシャルロットを無視してはいない。ちらちらと視線を投げているのに、こちらが見ると急いで顔を逸らしたり目を背けたりする。都度、とてもダメージを受ける。なるべく平然として見えるように顔を上げているけれど。

もうニ週間も経つのだ。自分なりに努力して話しかけてるのに、誰一人まともに口を利いてくれない。


延々と愚痴を語り続けてしまった感覚がシャルロットを恥じ入らせた。だが、それ以上にここ最近の鬱憤を人に吐き出せて、気持ちが軽くなった。

相手は魔物なのに、クラスの女子達よりはるかに話しやすい。

「あー」

聞き終えて、サヨは何故だか訳知り顔で頷いている。悟ったような態度が腹が立ってきつい口調で咎めた。

「なに。わかってるなら言ってよ」

「うーん、話を聞いた限りだけど」

「うん」

「シャル、多分嫌われてないから」

「えー?」

思い切り不信感丸出しの声が出た。

「本当だって。むしろ好かれてる。皆、シャルが気になって仕方なくて見てるんだと思う」

「嘘。でも、話しても逃げるよ」

サヨは少しだけ笑った。

「気になる相手だから、どうしていいかわからなくて逃げてるんだって。誰かが一度話したら、全部ひっくり返る筈」

「何言ってるのかわかんない」

「そう?でも当たってると思うけどな。もう少し経ったらいろいろ変わるわよ」

「そんなこと言って。それじゃサヨに言っても何も意味がなかった!」

訳知り顔で、結局のところもう少し待てば、なんて。そんなの、役に立たない大人の助言だ。

シャルロットはひどくがっかりした。

話してすっきりしたのに騙された気分だ。


うっかりサヨなんかに詳しくしゃべって、馬鹿みたい。


自分にそう心の中で罵声を浴びせる。

ぎゅっと、胸の前で両手を握り締めて気持ちを落ち着かせる。


「うん、だからさ。出来るとこは直しちゃわない?」


「は?」

目の前に放り投げられた言葉に、思わずサヨを見直した。

「クラスの女の子?達は取り敢えず放っておいて。剣術の授業に邪魔なその服、何とかしたらいいんじゃないの」

「服。制服?」

ぼんやりとサヨの言っていることを把握する。

そうか、剣術の方の話もちゃんと聞いていたのか。

「だけどルイは何してたわけ?あの男はこの二週間、何にも気づかなかったの」

「ルイは今忙しいんだよ」

「っても、あんたが剣術やってるくらい知ってるでしょ。ドレスで剣なんか振れるかっての。そういう細かいところに気が回らないんだから。朴念仁」

サヨは容赦なくルイを扱き下ろした。

言葉はよくわからないが、随分とひどい。

「ぼくね、ん、ん?よくわからないけど、ルイのこと悪く言わないでよ」

「あーはいはい、面倒くさいわこの双子」

ルイの悪口は聞きたくないからそう言うと、サヨは上を向いて嘆いた。だが怒っているのではなかった。一回声を出して気が済んだのか、黒髪をかき上げて肩を竦めた。

「わかったわよ。だから、こっちでなんとかしちゃえ。学校には私服の生徒もいるんでしょ?だったらお姫様が剣術出来る格好で登校したって許される筈だって」

「無駄にお金のかかることは、やめたい」

「了解。贅沢しなくても何とかなるわ」

小さく主張すると、サヨは馬鹿にすることなく請け合った。思わず、釣り込まれた。

「どうするの」

「有能な侍女様、いるでしょ」

言われて思い出した。

確かに。

「助けてもらおう」


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