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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
4章
114/277

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夜半、羽根を目印に夜鷹が飛ぶ。

窓をコツコツと叩く音に、待ちわびていたルイが枠に手を掛けて開いた。

「サヨ」

窓の開いた隙間から身を潜らせた夜鷹がルイと擦れ違う。


「痛っ!」

「っー!」

バチン、と弾くような音と共に、2人の体に電流が走ったような衝撃があった。

小さい雷に撃たれた感じかもしれない。

「いったー」

「何なのもう…」

床に転がってもがく鳥。ルイは顔を歪めて全身を擦る。

「……聞いてたよりずっと痛いんだけど」

「うん。威力強過ぎだよな」

はあ、と溜め息を吐いて振り返り、そこでヒトガタになったサヨと鉢合わせた。

バチバチバチ!

「~~~~!」

二度目の電流も、慣れるどころかさらに痛みを感じて悶絶した。床に這って顔だけを上げると、同じく床に懐いたサヨがいた。

「ちょっと、離れよう」

「うん、さすがにもう一回来るのは勘弁…」

互いを見ながらそろそろと距離を取る。

テーブルを挟んで向かい合うソファの背中にそれぞれ体を預けて、ようやく息をついた。

「ここまで空ければ大丈夫かな」

「うん、近づける限界が知りたいところだけど、今は試す気力がないわ」

ジュールにかけられた距離で発現する魔法は、想定よりはるかに容赦なかった。ルイが、そしてサヨも事前に承諾したが、ここまでのものとは想定外だ。うっかり頷いた自分達を呪うばかりである。

痺れが治まりつつある腕を揉んでほぐすと、ソファに腕を置いた。


「取り敢えず、いよいよ明日、入学ね」

「うん、」

「シャルはどう?」

「ちょっと緊張してる。宮からあんまり出たことないから外の世界にも慣れてないし、人もさ」

「確かに。文字通り箱入りって育ちだものね」

「そう。俺は学校ってものを知ってるから深く考えないけど。って、この学校、俺の想像してる感じのと違わないよな?」

目の前の魔鳥はゲーム内で学校の中身を知っている筈だった。サヨは頷いた。

「ま、そうね。ゲームを作ったのは日本人だから、概ね”学校”のイメージでいて良いと思う。もちろん貴族の学校だから、それ系の特殊な教科があるけど」

「そうそう。魔法学がたくさんあってすごいんだよ。俺、限界まで選択教科取ろうと思っててさ」

王立学校では正規カリキュラムに当然の如く魔法、魔道を究める為の学問が組まれている。学校の資料を見た時、とてもわくわくした。これからは思う存分学べるのだ。楽しみで仕方ない。

「大手を振って魔法を使える?」

「うん」

「入学したての新入生は、魔法はともかく呪術語は初心者なんだから、その辺ぼろが出ないよう気をつけなさいよ」

「わかってるよ。でもシャルは剣術の教科が取れるって喜んでる。不安だけど楽しみなんだって。学校行くのに前向きになれるのがあって良かった」

「そうは言ってもね」

とサヨが口を挟んだ。

「そもそもお姫様は、学校行ってる設定じゃないから」

「引き籠り?」

「そう。だからお姫様は簡単に学校行かなくなる罠がこの先、盛られてる気がする」

嫌な予想だが、ゲームプレイヤーが言うことなので馬鹿に出来ない。

「それについては俺も少し心配で」

「でも本人、剣術はやる気満々なんでしょ」

「うん。だから大丈夫かな?とも思ったりする。だけど相手は人だからさ。シャルにマイナス要素なんてないけど、それでも逆張りするのや無理やり粗探しする人間はいるだろ」

「あー、そうね、シャルロット姫には欠点はないわ。はいはい」

サヨの目が束の間、遠くに飛んだが、ルイは気づかなかった。


魔鳥は話を変えた。

「で、そんなお姫様の傷は?幻惑魔法の効力、時間はどのくらい伸ばせたの」

「シャルに魔法はかけないことにした」

「へえ」

意外そうにサヨが眉をあげる。彼女は、ここ数年ルイが幻惑魔法を繰り返し練習していたことを知っていた。全てシャルロットの顔の傷を隠すためだ。

だが。

「シャルが必要ないって言い張るから。俺としては、誰かに嫌なこと言われるか不安なんだけど」

ルイの心配の種だ。生徒達から見てわかる瑕は、簡単に陰口の種になる。

「一応、王族バリアがあるわよ」

「うん、それを願うけど」

側室腹とはいえ、現国王の王女。その身分が守ってくれると期待するしかない。

シャルロットが嫌がらせを受ける可能性を、本当は満遍なく潰しておきたかった。当人に拒否されては叶わぬことだが、ルイにとっては少し落ち着かないスタートになる。

「あんまり気にしてると禿げるって」

サヨが手を伸ばし、わしゃとルイの髪をかき混ぜた。気安い慰めのつもりだった。

「っだ!」

「痛った、また!」

今夜だけで三回目の電撃に、さすがにへこむ。

よろよろと二人でまた距離を取り顔を上げた。お互い、相手の恨めしそうな顔を見る。


「あのさあ」

サヨの絞り出した声に、指一本動かす気力も湧かぬまま、ルイはなに、とぞんざいに応じた。

「このところ王居の遮蔽が強くなってるのよね。ルイ達が入学するっていうんで警戒してるとかなんだと思うんだ」

「え、そうなんだ。サヨ、ここに来るのがキツイか?」

「んーん。それは平気。だけど魔法だけでなくいろいろ監視が厳しくなってるのは確か。だから夜に飛んでくるの、避けた方がいいかなって」

「ここには来ないってことか?」

ルイは落胆した。

魔物を排除する魔法で守られた王居、そして宮を、半魔の身で危険を冒して訪ねてきてくれているのだ。サヨが無理と思ったら諦めるしかない。その上、この電流だ。サヨがここに来るのを億劫に思っても当然だ。

ただ、これからという時にと残念に思う。

「いや、まあ来るわよ。これからが本番だもの。ただ夜鷹とはいえ頻繁に夜に鳥が飛んでるのは目立つから、今度から昼に来たいのよ」

「それはいいけど、俺、いないよ」

ほっとして、しかし首を傾げた。入学したら日中はほとんど学校だ。

「うん、だから昼に来てルイが帰るまで待ってる。多分、その方がこれの不意打ちも喰らいにくいと思う」

これ、と痺れの残る腕を振る。

何度浴びても慣れないショックは、お互い用心して距離を取るのが肝心だ。

「明日からがんばって」

「ありがと、「それ以上、近づかない!」う」

叫ばれて、ルイは慌てて後ろに飛び下がった。

「ほら。油断すると危ない」

「うん、よくわかった。慣れるまで昼から来てて。羽根は窓に貼り付けておく」

早くこの距離感を覚えないと身が持ちそうにない。

二人はそうしみじみ思い知った。


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