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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
4章

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「シャ、…ルー!」

言い淀んで、それからマクシムは大声で呼んだ。

「ルー。ルーってば」

「あ。…呼んでた?ごめん」

騎士達の打ち合いに夢中になっていて、呼ばれ慣れないルーの名に反応が遅れた。

彼らの一挙手一投足、参考になるし真似したい、あの高みに近づきたいと願ってしまうのだ。

だからと言うのもなんだが、ブリュノと初めて訪れた時は稽古用の模擬剣を下げて行ったが、マクシムが付き添う二回目からは刃のついた真剣に替えた。本物の騎士達の前で玩具のような剣を下げているのが恥ずかしくなったのと、見ていて自分も同じように動けたらと思ったからだ。腕も立場も違うから稽古をつけてもらうなど叶わないが、こっそり練習するつもりだった。

マクシムは最初に連れてきた後は、用事があると言ってシャルロットを一人鍛練場に置いていった。この場から動かないように、と強く言い残して。


誰もがその素性を疑っているが直接問い質すことを禁じられた為、憶測だけが騎士達の間で渦巻いている。ともすれば投げられる視線は、強い好奇心とその身を量る値踏みを含んでいた。

しかしシャルロットはそんな周囲には気づかぬまま、許可された範囲を自由に見て回った。

壁際に張りついて見つめるのはたくさんの騎士が踏みしめてきたであろう広場。それぞれに技術の向上を求めて躍動する騎士達。その稽古を熱心に眺めては、気になる動きを覚える。目の前で見た剣捌きをなるべく再現しようと、壁のすぐ橫で腰の剣を抜いて振った。少し試して、違和感を直そうと肩や腕の形を変えてもう一度振る。

上手く倣えた、と手応えを感じて唇に自然笑みが浮かんだ。

また広場の中心に目を向けて、動きを観察する。速さも自分とは段違いだと唸ってしまう。

感嘆の溜め息を漏らしていると、いつの間にかに仕事を終えたマクシムが駆け寄ってきていた。

「ルー。ルーってば」

「あ。…呼んでた?ごめん」

一人でいても退屈はしないが、やはりこの興奮を話せる相手がいる方が良かった。

シャルロットは現れたマクシムに、今見た騎士の剣について質問を浴びせた。

「ねえ!あの手前にいる人。あの人の突き、今変化したよね!?」

「は、シャ、あールー、何、どれのこと?」

この場に着いたばかりのマクシムはあたふたとシャルロットの視線の先を追った。

「見てなかったの?あそこ、あの濃い茶色の髪の、手前の背の高い人。またやるかな」

ここから見える一番手前に、先程から鋭い突きを繰り返している騎士がいるのだ。

「ああ、アンリさんだ。ええと」

「ほら!今の。今の突き。少し軌道が変わってた」

「あー。ですね。多分、相手がいることを想定した、攻撃を躱して急所を狙ってるんじゃないかな」

「うん、だけどすごく無駄がない。剣先は鋭いんだけど上体とか全くぶれないし、さっきまでやってた普通の突きの時と変わらなく見えるんだ」

一気に捲し立てた。

「ルー、細かい…。上体を維持したまま変化できれば相手は不意を突かれます。こちらは余裕が生まれる。理にかなってます」

「私にも出来るかな。やってみたい」

うずうずとして剣に手を掛けていると、マクシムがふ、と笑った。

「やってみよう。俺が的になりますよ」

す、と自身腰の剣を引き抜き、正面に構えた。

「いいの!?」

久々の、本当に久しぶりとなるマクシム相手の稽古に、シャルロットは顔を綻ばせた。



いつも稽古の時に使うのは剣先が潰された稽古用の剣。だが今日は長さも重さも同等だが構えるのは真剣。

正面に立つのは、誰よりも多く向かい合ってきたマクシム。

しっかりと柄を握り閉めて、先程見たと同じ剣の軌道を描く。わずかな変化。剣を突き出したマクシムを綺麗に躱して、剣先は違わず左胸に。

よし。

シャルロットの唇に笑みが浮かんだ。

と、心臓に剣先が達する手前で、マクシムが素早く引き寄せた剣で弾かれた。

「っ!」

勢いで右によろけるところをシャルロットは右足を踏ん張って堪えた。剣は弾かれた勢いで指先から剥がれかかっている。それをぐっと握り直して、シャルロットはマクシムを振り仰いだ。

「ちょっと!なんで弾いちゃうの」

「いや、思いっきり狙ってたでしょう。避けなきゃ俺、死んでるから!」

「あ、……ごめん、つい」

「──シャル様、つい、で俺の心臓刺さないで」

マクシムはぼそっと言ったが、シャルロットはあまり聞いていなかった。

「避けられたのは、私の剣が遅いからかな。アンリ、さん、と同じようにしたつもりだったけど、全然駄目か」

今一度、そらで剣で軌道を追う。二、三回繰り返していると、マクシムが頭をかいて寄ってきた。

「いやいやいや。ルー、充分速いから。むしろ速すぎ?ある意味、攻撃を躱して、っていうのが速すぎたのかも」

「え、あれ?」

「さっきの立ち合い。躱された、って気づくより手元に飛び込まれたって感覚が先に来たから。もう少し間合いを考えて、相手がこちらの変化に気づいた、反応できないタイミングを狙うべきだと思う」

「──なるほど。そっかあ」

マクシムの指摘はわかりやすい。改めてもう一度、変化する軌道を剣で描く。

「でも。それに即反応するマクシムはやっぱりすごいよね」

「いや?事前にアンリさんの剣の技を試すってわかってたし。ルーの剣筋には慣れてるから」

「んー。でも悔しいなあ。わかってても防げないっていうのが格好良いのに」

「あー。まあそうですけど。だと俺、何度も死んでますよ」

軽くマクシムは言うが、そんな簡単には死なない、剣で出し抜くことなどできないのをシャルロットはわかっている。


本当にマクシムは強いのだ。何年もずっと一緒に稽古をしてきたから、自分との差は身に染みている。追いつこうとして、絶対に追いつけない高みに、マクシムはあった。

それでも。

「もう一回!」

「ルー?」

「もう一回やろう。今度は少し変えてみるから」

剣を構え直し、シャルロットは声を張り上げた。一つ上の幼なじみが苦笑しながらも付き合ってくれると確信して。


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