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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
4章
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99 騎士団


「ルイ!稽古しよ」

「ちょっと忙しいからパス!」

十四歳の夏。

最近のシャルロットは、隙あらばルイを剣の稽古に誘う。こちらは逃げるのに必死だ。

言い訳はいつも同じだが、多忙なのは本当だ。

得意とする治癒、防御の魔法のさらなる強化。幻惑の魔法をジュールに教えてもらうこと。

それから、サヨが修得しろと騒ぐ飛翔術。こちらは残念ながらいまいち上達が遅い。治癒魔法や防御魔法に比べて進歩が停滞しているのは明らかだから、向いてないのだろう。それでもふわふわとわずかながら浮くことは出来るようになった。サヨの望むレベルにははるかに届かないが。

もちろんアルノーについて、書庫で種々学ぶ時間も続いている。

そんなこんなでルイのやることはいくらでもあって、妹の相手をしてばかりいられないのだ。


しかしシャルロットがルイを誘うのにも理由があった。

一番の稽古相手であるマクシムが一足先に学校に入るので、宮への訪問が激減しているのだ。一旦騎士団の見習いを辞去する為の諸手続きと入学準備で、目が回るほど忙しいらしい。さすがにシャルロットも無理を言うわけにもいかず、さりとて稽古相手が来ない手持ち無沙汰の為に、余った体力で兄を追い回す日々が続いている。

三日に一度程度、五回に一回はルイもシャルロットの相手をしているが、そもそもの剣の腕に差がある。稽古が減った上に技量不足の兄が相手で、シャルロットの不満は募るばかりだった。

思い切り剣を突き合わせて、ぎりぎりで凌ぎを削る稽古をしたい。それだけを願うシャルロットだが、それも既に半月以上叶わないでいる。これがさらにひと月続くとあって気持ちは下降するばかりだ。

心なしか肩が落ちている妹の姿にルイは罪悪感を感じるが、さりとて予定を取り止めて付き合ったとしても、自分では満足させられない。


もどかしさを抱えつつ図書館に行くと、久しぶりに会う人がいた。

「ブリュノ将軍」

相変わらず姿勢の良い長身がすくっと立つ姿は、まさに騎士の手本だ。マクシムと同様に、多忙の為にブリュノの剣の指導はしばらく途絶えている。

「お久しぶりです。こちらにいらっしゃるとは珍しい」

「殿下。宮への訪問が途絶えておりまして申し訳ありません。こちらへはジュール殿に用があって参ったのです」

「そうなんだ。いや、将軍も多忙だろうから、宮での稽古は落ち着いたらまたお願いします。ところで、将軍がジュールに用というのは…?」

二人が親しい間柄とは聞いていない。つい、興味が湧いた。

「以前に、ジュール殿に過去の覚書がないかと求められていたのです。まだ現役の頃のものですが。清書した遠征録は王宮とこちらに納めたのですが、雑感や部下の残した日誌、メモでも良いからと言われまして。執務室や自宅に散った書類やかつての部隊の者達から細々と集めていたら、ここまで時間が経っておりました。部下に任せても良かったのですが、待たせた詫びも兼ねて持参しようと久々にこちらに参ったのですよ」

ルイはぴんときた。

かつて魔物と遭遇した時の詳細な記録を残したブリュノ将軍。

その公式に提出された記録の、整理される前の元となる雑多な感想や印象、考え。きちんとした報告以外のブリュノや騎士、兵達が直に接した生々しい体験を、なるべく正誤混在のままをジュールは知りたいのだ。玉石混淆であろうと、既にある遠征録に書かれていない魔物の詳細な知識を得る為に。

わずかでも魔物の習性を知る地道な努力がいざという際に役に立つ。多分、この先に起こるであろう魔物や"敵”との戦いにおいても、情報は多いに越したことはない。

以前、ルイは軽い気持ちで魔物についてジュールに尋ねた。その際、研究が進んでおらず充分な知識を授けることができなかったのを師は悔やむ風があった。魔道庁から離れた身では情報に触れる機会が減るのは当然なのに。恐らく、より判断材料を得ようとしてのブリュノへの依頼だろう。

知らぬところで動いてくれている二人に、ルイは感謝するしかない。

「ありがとう。魔物については俺も知りたかったことなんです」

「おや、殿下もご興味がおありですか。では懸命に家捜しした甲斐がありますな」

にこりと笑ったブリュノは、そこで己の本分を思い出したらしい。

「ところで、しばらく剣筋を拝見しておりませんが、殿下は稽古に怠りはございませんか」

「あー。シャルの相手をさせられてるので俺は、多分いつもよりたくさん剣を振らされて、…振ってます」

ルイの背筋が自然と伸びる。その様を見やって将軍は目許を和ませた。

「それはそれは。ご研鑽下さい。しかし王女殿下はいかがかですかな。息子はシャルロット殿下のご様子を気にしておりましたが」

「シャルは。マクシムが来られないんで体が鈍ってるみたいです。俺ではシャルが満足する立ち合いが出来ないから」

「ほう」

「あ、マクシムが忙しいのはシャルもわかってるんです。だから不満とかではなくて」

「なるほど。シャルロット殿下はお元気ですからな」

「うん、とっても」

ルイの実感の籠った応えに笑って、ブリュノがしばし沈思する。首を傾げて見守っていると、ゆっくりと口を開いた。

「ならば、シャルロット殿下は騎士団をご見学されてはいかがか」

「え!」

思いがけない申し出にルイは驚いた。

「息子は煩雑な片付けや学校の準備に追われておりますが、殿下が騎士団にお出でになれば敷地内を案内する時間くらいは取れましょう。あとはご自由に見て回られても良い。騎士団の内ならば、お一人で居られても安全かと」

それは願ってもない。シャルロットは大喜びするだろう。

だが。

「王女が騎士団を訪問してもいいのかな」

「私の遠縁の者と触れ込みます。いろいろうるさい者共がおりますから。申し訳ありませんがご身分は誤魔化すのが良いかと」

「ああ、そうだね」

「王女殿下であられるのとエルザ様のお子であられること、その二つを伏せます。完全に隠し通すのではなく、公にご身分を明らかにしない、それだけです」

それならば、例え後々にバレたとしても問題にはならない。

「できる?」

「私の権限で騎士団には詮索無用の"要請”をします」

きっぱりと言い放つ。引退して尚、各方面に顔の利くブリュノの要請。それは強力な牽制だ。

「あとは、殿下に少年を装っていただくだけですが」

ブリュノは直近に会った折のシャルロットを脳裏に思い浮かべたようだった。

「まあ、殿下ならば大丈夫でしょう」


宮に戻ったルイからブリュノの提案を聞いて、シャルロットは文字通り飛び上がって喜んだ。すぐにも行きたいとせがむ妹に背中を押されて、アンヌの許可を取り付けた。翌朝早くにブリュノへ連絡するとこちらの動きを読んでいたかのように早い承諾が返ってきて、その日のうちにトントン拍子に事は決まった。



こうしてシャルロットは騎士団に赴くことになった。

ブリュノ将軍の遠縁の者が騎士に興味があるので見学をしたい。あくまでお忍びなので詮索無用。対応はマクシムがするので、騎士の皆は気にせず通常通りの稽古を継続するよう。


ブリュノの露骨とも取れる申し出である。願い出の形だがほぼ拒否の出来ない要請だ。だがブリュノの気骨溢れる気性と、これまで息子達にすら一切の配慮を求めてこなかった彼をよく知る人々は、異例な求めを快く受け入れた。


本文に抜けがあり、追加訂正しました。

内容には変化はありません。

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