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プリンス・チャーミング なろう  作者: ミタいくら
1章
10/276

9


ルイは用意された馬車に一人で乗って宮に帰った。御者は先に言い含められていたのか、何も告げずとも真っ直ぐに宮へ馬を走らせた。

行きは外を見る余裕もなくロランを前に固く座っていたが、帰りの馬車では窓からこっそり外を覗いてみた。

スピードの出た車の高い視線で見る景色は新鮮だった。ルイがシャルロットと図書館と見当をつけた建物は政府の庁舎らしい。周囲の建物を見て、今度は地図を閲覧したいと思う。

ずっと育ってきた宮は外側からは見知らぬ館だった。そして馬車で入れるよう、宮の正門が開いているのを初めて見ることになった。

門を入った先で馬車が止まる。降り立った先に、アンヌとその背に隠れるようにシャルロットが立っていた。

「ルイ、」

「ルイ様」

そっと名を呼ばれる。始め、ルイは二人を真っ直ぐ見られなかった。

「ごめんなさい」

一言詫びると止まらなくなった。

「シャルは僕に頼まれただけだから。だからお願い、シャルは叱らないで」

綴る言葉の途中で、ルイはアンヌに両手を取られて引き寄せられた。

「ご無事で本当によろしゅうございました……!」

絞り出すように落ちた声音はアンヌの心からの思いだった。ルイはぎゅっと握られた両手に目を落とした。アンヌの乾いた両の手が強く、強くルイの体温を確かめるように捉えていた。

「ロラン閣下に出会われたのは幸運でした。万一の事があったら私は…」

低く震えの混じる声。

「ごめん、ごめんなさい」

もう一度繰り返す。

「いいえ、何もかも私のせいです。いろいろと考えが浅かったのです」

頭を振ったアンヌは、そこでルイの後方を見やった。

ロランの馬車が静かに停車している。会話が途切れるのを測っていたかのように、それまで御者台でそっと気配を消していた男が一礼した。

「アンヌ様、それではこれで失礼致します」

アンヌがルイの手を離して御者に顔を向けた。

「殿下を無事にお届けいただき、お礼申し上げます。それと宰相閣下に伝言を。使者の件は了承致しました、と」

「は。そのように申し伝えます」

アンヌの言葉に短く応え、御者は真っ直ぐ前方を向く。馬に鞭をくれると、すべらかに馬車が去っていった。



ルイとシャルロットはアンヌの先導で自室に戻った。何も言われないまま夕食になる。気になるが、こちらから言い出すのも躊躇われておとなしく食堂に移った。

昼を取らなかったルイを気遣ったのだろう。少し早めの時間だった。

パンとシチューの食事が給仕され、二人はいつもより静かに食べ始める。宮で一人で昼を済ませたシャルロットと違い、空腹のルイは一心に食事に集中した。

しばらくして、いつものように傍らに控えるアンヌの元に、使用人がやってきて耳打ちした。

「少し失礼します」

言い置いてアンヌが急ぎ足で出ていった。

「……」

二人きりになって、期せずして同時に息を吐いた。ルイはようやく、シャルロットに今日の冒険について口にすることができた。

「シャル、今日はありがとう。大変だった?」

「ふふ。ルイ、私役に立ったよね」

「うん、お陰で図書館行けた。いろいろあったけど、とてもためになったよ」

「そう。良かった」

にっ、と笑ってちぎったパンを口に入れる。ルイはシチューを口に運びながら聞きたいことを尋ねた。

「アンヌがあれから何も言ってこないけど」

「あー、あれね。多分なんか待ってるみたい」

「待ってる?」

「ん。ルイのことがバレて私もどうしようもなくなっちゃって。アンヌはすごい怖い顔してね」

「本当にごめん」

「うん、それはいいの。で、アンヌがうわーっと門まで走っていったんだ」

ルイのこと探しに行こうとしたんだよね。

シチューを食べながら話すシャルロットの言葉は、見たままのようにはっきりしている。恐らくアンヌの後を追いかけたのだろう。

「そしたら、ちょうど外に誰かが来て。アンヌはその人と話し込んでた。手紙ももらってた。そしたらね」

シャルロットは手にしたスプーンを置いて眉の間をこすった。

「ここのところの皺が消えたんだよ」

「それは」

「で、アンヌは怖くなくなって、外まで探しに行くのもやめにしたの。ルイが帰ってくるのを待ってたんだ」

「それ、僕が今日会った人が知らせてくれたんだと思う」

ロランの使いだ。

「ああ。ルイを助けてくれた人」

「帰りの馬車もその人のだよ」

「いいなあ、私も乗ってみたい」

シャルロットは今日見た箱馬車を思い浮かべて少しうっとりとしてから、大事なことを教えてくれた。

「それでね。その時、また来るみたいなことを言ってたんだよ。で、アンヌが待ってますって。だから」

そこまで言ったところで足音が聞こえたので、二人の内緒話はおしまいになった。

急いで目の前の食事に集中する。

戻ってきたアンヌはわずかながら心が揺れているようだ、と二人は互いに目配せし合う。

夕食の終わりにアンヌが二人に声をかけた。

「ルイ様。シャルロット様。この後、お時間よろしいでしょうか」

二人は内心、身構えながら黙って従った。


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