ハリウッドからの使者
こんな感じのお話を書きたい侍
ウォルター・アロイス・セガール(Walter Alois Seagal,1979年5月24日-2020年12月25日)は、アメリカ合衆国の映画俳優、武道家、元ボディビルダー。
彼は学生時代、カルフォルニア最大級のボディビルアマチュアコンテストで優勝し、そこで得た名声を基に突如俳優へと転向する。ハリウッド時代では名優ジョン・サンダースにその体格を見込まれ、『宇宙剣闘士』(2001年)のヘーラクレース役としてデビューする。
アクション俳優としての道を歩むため2005年にホイミー・グレイシアの指南でグレイシア柔術を、2010年に女谷頼友に弟子入りし、女谷流剣術を学ぶ。恵まれた体格と並外れた武術センスはハリウッド界隈において「ブルースと肩を並べたのは彼だけ」と評されたほどである。
『宇宙剣闘士』(2001年)『宇宙剣闘士2』(2005年)『宇宙剣闘士ファイナル』(2009年)と各作品にて主役を演じ、公開する度に全米興行収入を更新。『アナザー宇宙剣闘士〜黒いサムライ〜』(2015年)では渡辺謙一郎と共演し本格な殺陣にも挑戦した。人類史上最も宇宙で闘った俳優(ギブズ世界記録より)となったが、2020年12月25日、『宇宙剣闘士ラストマッチ』の撮影途中に機材が天井から落下、下敷きとなり亡くなった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ここは天国。
私は一応『逝きペディア』で対象者の情報を確認する。
「待ち望んだハリウッドスターが来天したのはいいのだけど個人的には残念ね.........」
これから審判を下す予定の死者もとい………ウォルターは私が最近まで夢中になっていたハリウッド俳優の一人だ。
『yours tube』で初めて彼の映画を観たとき、凄く興奮したのを覚えている。当時、ウォルターに憧れて近所の太陽神ちゃんとよく宇宙剣闘士ごっこをしていたのだが、ついつい勢い余って恒星を一つ消滅させてしまい、冥王神にしこたま怒られたのは良い思い出だ。
そんな他の神から白目で見られるほどウォルターに深く傾倒していた私だが、今は複雑な思いでいっぱいだ。
今回も現世で最新作が公開されると聞いて、楽しみにしていたのに.........
私は死後の行き先を決める上で重要な情報が詰め込まれた【逝きぺディア】という天界サイトを見て独りごちるがやはり彼の死が受け入れられなかった。
元々現世の娯楽………特にハリウッド映画が特別好きだったのだが、ここ最近発展して来たCGやらVFXやらはどうも好まない。
映像自体は迫力があって良いのだが、やはり生身のアクションでないとなんて言うか、肉薄とした演技じゃないと駄目だと思うんだよね!うん。
その点でも最高峰のアクション俳優と名高いウォルターの演技が永遠に見られなくなるのは本当に悲しい。
私はパソコンから必要な情報を確認し、今しがた天に召され審判室に来た対象者へと視線を移す。
(かっこいいいいいい!!!何あの大胸筋!?海王神の倍はあるわよ!!!彫りも深いし鼻もすらっとしてて神より美形とか凄すぎない!?)
今、生ウォルターが私の前にいる!.........後でサインもらわなきゃ!
神様である私は生ウォルターの前にひどく興奮しているのであった。
「oh...マイゴット!ワタシは死んだのデスカ!」
ウォルターは撮影時の剣闘士の格好のまま涙目になって私を見ている。
「あ......はい。すみません。」
(なんで謝った!?私!?)
大スターを前に緊張からか少し吃ってしまった.........
「っと、じゃなくて!ウォルターさん!生前の記録を拝見させて頂きました。問答無用であなたは善人です。なのでこれから天国で暮らして.........」
「いただきます」と言いかけたその時、私の中である妙案が浮かんだ。.........浮かんでしまった。
(待てよ!試しにあの制度を適用してみるか?ちょうど去年施行された訳だし、私としてももう一度あの映画の続き.........ウォルターの伝説が観たいッ!)
目の前のハリウッドスターは天国へ行けると知ると跪いて十字を切っているが、大変申し訳ないが新しく制定された制度を適用させていただきます!
「あぁーっと!しまった!天国に行けなくなりました!」
白々しい演技なのは勘弁してくれ。神様は嘘が下手クソなのです。
私の言葉にウォルターは祈りを途中で止めると、両手を地面につけて落胆した。
「oh...ジーザス!?ワタシが何かしましたカ?もしかして、カンヌに行くために地元のミサをドタキャンしたのが原因デスカ!?」
ウォルターは私の前へ近づくと懺悔モードに入った。.........やめてくれ!それは牧師の前でやる事で私にやっても効かないよ!
「ウォルターさん!違いますよ!決してあなたが悪人だからとかではなくてですね、天国に逝くのは少々勿体な.........惜しい人間なのです!」
苦し紛れに私は言葉にするとウォルターさんは要領を得ずに小首を傾げる。
「超が付くほど善人なので、あなたには救世主になってもらいます!」
熱心なカトリック信者の彼は突如雷撃に打たれたように身を硬直させた。
「oh......ジーザス!ワタシがジーザス?」
そうそう。ジーザスジーザスザマスよ?
ウォルターは聖人の壁をひょいと飛び越えて救世主になってしまった。
(まあ、建て前として彼の教えを利用してしまったのは悪いが本当は去年発行された「異世界転生奨励制度」を使いたかったなんて口が裂けても言えない.........)
【異世界転生奨励制度】
昨今、死者界隈において異世界が天国についで逝きたい世界ランキングで2位になってしまった。
そんな現代のニーズに応えて神界で試験的に投入された制度である。
当初は反対派が「天国情勢に不安が生じる」となかなか賛成に回ってくれなかったが、永魂権は与えずに人生が終了したら天国に送還する『一時的滞在魂権』いわゆる就労ビザ的な制限で異世界に転生するという条件で法案が通った。
そりゃ私だってこんな超スーパースターが天国から流出するのは阻止したい。
しかし、彼が映像の世界だけでなく、現実でそして異世界で活躍する様子は是非とも観てみたい!
私は己の欲望のまま彼に異世界行きのチケットを発券するのだった。