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分散、そして乱戦

「お、あれか?あの真っ赤な館!」


「そうみたいね。あそこが一番霧が濃いわ」


霧の湖の上を通り過ぎてすぐに魔理沙が声を上げた。霊夢もそれに答える。ついに霊夢達はこの紅霧異変の元凶にたどり着いた。


「よし!じゃあ早速ぶちのめしていこうぜ!」


「ちょっと待って」


魔理沙が意気込む一方、霊夢は冷静に館を分析してから、館の門を指差して言った。館は赤煉瓦の塀に囲まれ、地上からは塀に取り付けられた門を通らないと入れない構造になっている。そして門の前に緑の服がチラッと見えたのだ。


「館の玄関とはかなり離れて門があるわね。しかも門番がいるみたい。門から攻めたら館からの増援が、館から攻めたら門から門番が攻めてきて挟み撃ちになる…ここの主人、結構知能が高いわね」


「なるほどな…じゃあどうする?挟み撃ちはごめんだから門から攻めるが妥当か?」


「それだと時間が経てば経つほど不利になるでしょ。それに面白くないし」


「…じゃあどうするんだぜ?」



***



「ここが異変の元凶ね?」


霊夢はそう言い放って門番の前に降り立った。


門番は緑のチャイナ服を着ており、帽子も緑という緑づくしだった。


「博麗の巫女…正面から挑むとは流石ですね。よほど自身の力に自信があると見えます」


「あんた、門番なんでしょう?だったらあんたのご主人様に取り次いでくれない?この紅霧じゃまともにお天道様を拝むことができないわ」


「それはできません。お嬢様に招かれてもいない客を屋敷に入れたとなると、お嬢様はおろかお天道様にも合わせる顔がありませんから」


「そのお天道様はあんたの主人のせいでこのままじゃ一生出てこないんだけど」


「…言い返す言葉がありません。でも、門番としてあなたをすんなり通すわけにもいかないんですよ!」


門番はそういうと右手を握りしめて身体に引きつけ、左手を伸ばして手のひらを霊夢に向ける。


「そうね。ここからは言葉ではなく拳で語りあいましょう。あなた名前は?」


霊夢は今度は御札を手に持って相対する。


「紅美鈴、紅魔館の忠実なる門番。エネルギーやオーラといった気を操ります。以後お見知りおきを!」


そう言い切ると霊夢と美鈴はほぼ同時に踏み込み、激突した。



一方、魔理沙は。


「よし、今だな」


上空で霊夢と美鈴が戦闘を開始したのを確認した後、箒を一気に加速させて門の上を通過した。美鈴は戦闘に集中していて気づいていない。魔理沙はそのままゆっくり下降し、紅魔館の玄関の前に降り立った。


「館と門を時間差で攻撃する…そして館で私がある程度暴れて館の全戦力が集まった頃には、霊夢は門側の戦力を撃破して館へ突入する。…考えたなぁ、霊夢」


魔理沙は感心しつつ玄関に向かって黒ずんだ緑瓶を放り投げる。瓶は爆発して扉を木っ端微塵に吹き飛ばす。爆煙が晴れると扉の向こうには下っ端なのだろうか、小さい妖精が数人メイド服を着て玄関ホールで待ち構えていた。


「よーし、ひと暴れしよっか!」


魔理沙は八卦炉を右手に取った。



***



「先ほど館の玄関が突破されたと情報が入りました」


執務室でメイドがレミリアが報告する。レミリアはそこまで驚いた様子ではない。メイドが淹れた紅茶を啜ってティーカップを受け皿の上に置く。


「門番は何をしているのかしら?」


「門もただいま襲撃を受けておりまして。恐らく敵は戦力を門とこの紅魔館に分散させたとみられます」


「なるほどね。あなたのことだから、パチェのところにも行ってきたのでしょう?パチェは何と言ってたかしら?」


「パチュリー様は『侵入者は博麗の巫女ではなく、ただの人間。私が直々に片付ける』とおっしゃっておられました」


「ふーん、では今門で戦っているのが博麗の巫女ね。で、あなたはこれからどうするの?」


レミリアは立ち上がりカーテンを少し開けて門の方を見る。激しく争っているのだろう。土煙が遠くからでも確認できるほど上がっている。そしてメイドの方に向き直った。


「美鈴の応援に向かいます。博麗の巫女相手では美鈴も苦労するでしょうし」


「私もそろそろ玉座の間に向かうわ。もし博麗の巫女と戦うならあそこがいいから」


「ふふ、まさか。人間ごときにお嬢様の御手を煩わせることなど…今夜の食事にして差し上げます」


メイドはニコッと笑うと静々と下がり、執務室のドアをゆっくり閉めた。


「…あなたも人間なはずなんだけどねぇ」


レミリアはため息混じりに、でも少し嬉しそうに呟いた。



***



霊夢と美鈴は紅魔館門前で弾幕を撃ち合いつつ、体術をぶつけあっていた。既に門は半壊しており、周りの赤煉瓦も崩れてもはや塀の意味をなしていない。しかし、美鈴は腕はアザだらけになりながらも門を死守していた。肩で息をしている。


「なかなかやるじゃない。私の勘がたまに当たってないわ」


全くの無傷の霊夢が珍しく相手を褒める。美鈴の体術をヒラリヒラリと躱すと間合いの外へ跳んで出た。


「全てはお嬢様のため…虹符『烈虹真拳』!」


美鈴が突き出した拳から三日月状の弾幕を繰り出す。何度も空を切る連続パンチで次々と出てくる。


霊夢はその三日月を御札の弾幕で相殺する。ぶつかった瞬間、爆発が起こり両者共に消え失せる。


(私の気を一撃で消すか…流石博麗の巫女)


「ならばこれはどうです!」


美鈴はその場で足元の地面を力一杯踏み込んだ。


「彩華『虹色太極拳』!」


霊夢は攻撃を避けるために上に飛ぶ。その直後霊夢が立っていたところの地面に美鈴の気が走った。美鈴を中心に円状に自身の気を地面に流し込んだようだ。


(この攻撃も『勘』で読まれていましたか…だが、そうなることは既に予測済み!)


上に飛んだ霊夢に狙いを定めて拳に気を貯める。


「撃符『大鵬─


これで博麗の巫女を撃ち倒せる。そう思った瞬間だった。


「神技『天覇風神脚』!」


霊夢が空中で加速して美鈴に凄まじい飛び蹴りをくらわせる。美鈴は気を溜めていた瞬間を突かれ、ガードできずに吹っ飛ばされる。かろうじて残っていた門に身体がめり込み、門の留め金も砕け散ってさらに門ごと後ろへ飛ばされ、地面に打ち付けられるように落ちた。


「終わりよ。大人しく通しなさい」


霊夢は美鈴の首元に大幣を突きつけて言った。美鈴はもう動けないのか、逃げようともしない。


「まさか、ここまでとは…羨ましい限りです」


「何が」


「あなたの『勘』ですよ。相手の攻撃をくらう前に先読みし、最適の攻撃を繰り出す…武術の極致。妖怪の私はその高みに昇ることなく、人間のあなたはもうそこに到達した…本当に羨ましい」


「ふん…少し違うんだけどまあいいわ。あんたはそこでお天道様にでも裁かれてなさい」


「そう…ですね…」


美鈴がそう言い終わるとガクッと頭が横になった。意識を失ったらしい。霊夢は美鈴の顔から頭を上げ、紅魔館に向かって歩き始めた。



その頃、魔理沙は。


「ほらほら!そんなんでお嬢様とやらに顔向けできるのか?!」


紅魔館の廊下で逃げる妖精メイドを追いかけ回していた。中には立ち向かおうとする者も現れるが、戦ってすぐに敵わないと悟るのか尻尾を巻いてしまう。


「なかなか強いやつに会わないなあ。ちょっと拍子抜けだぜ」


魔理沙が、突入してからずっと走りっぱなしだったことに気づいて、ふと一息つこうとした時だった。


「たのもー!侵入者さんはあなたかな?」


魔理沙の背後から声がしたと思うと球状の弾幕が飛んできた。


「そうだ!そういうお前は何者だ?」


魔理沙は弾幕を躱しながら振り返ると、そこには頭と背中に黒い翼がある、赤いネクタイをした赤髪の少女がいた。


「私は小悪魔!こあでいいよー」


「じゃあ、こあ。聞きたいことがあるんだが?」


「なにー?」


「お前がそっちから来たということは、そっち側にお前の主人がいるってことだな?」


「ギクウ!そ、そんなわけないじゃないかー」


あまりにもわかりやすいこあの反応である。鳴りもしない口笛をヒューヒュー吹いている。玄関ホールを入って右ではなく左だったか、なんか階段もあったような気もするけどと思いながら魔理沙は八卦炉をこあに向け直した。


「そっかー。でもとりあえずお前をぶっ飛ばさないと、な?」


「大変だー、逃げないとー!」


こあは来た道を戻り始めた。魔理沙はなぜかこあが棒読み気味なのが妙に腹が立つなと思ったが、追跡を開始した。


「待てー!」


魔理沙はミサイルのような弾幕をまっすぐ撃ちながら追いかける。こあは飛び跳ねたり、身をかがめたり左右へステップしてうまく避けていく。そして、玄関ホールに到達すると、こあはくるっと振り返って魔理沙に向かって再び弾幕を撃ち始めた。


「あったれー!」


大玉の弾幕が廊下を転がってくる。魔理沙は咄嗟の判断で端っこに張り付いてなんとか回避する。


「危ないなあ!本当に当たったらどうするつもりだ!」


「今日の食事になる!」


「うわあ、物騒!」


そう言いつつ、こあはまた後ろへ後ろへと逃げ出す。魔理沙はそれを追う。その光景を吹き抜けになっている玄関ホールの2階から確認しているメイドの姿があった。



「さあ、もう逃げられないぜ。ところで、結局主人はどこだ?」


廊下の突き当たりまでこあを追い詰めた魔理沙。ここで本来の目的を思い出してこあに尋ねる。


「くっ…」


こあは観念したのか、うめき声をあげると自身の右の方の壁を指差した。魔理沙は指差された方を見た。なんの変哲もないただの壁だ。これがどうしたのかと不思議に思い、こあを振り返ると…


「はーん!騙されてやんの。ざまあみろ、人間!」


そういうと再びこあは小さな球状の弾幕をばら撒いた後、左の壁の方に跳ぶと壁が回転するように動きこあは消えるようにいなくなった。


「…隠し扉か。どちらかといえば忍者とか東洋系の屋敷にあるものだと思ってたが、こんな西洋風の館にもあるとはな」


今度は天井に張り付いて躱した魔理沙は床に降り立つと、左側の壁を押した。壁が動く。魔理沙がその中へ入ると、蝋燭しかない暗がりが広がっていて地下に続く階段が細々とあった。


「…よし」


魔理沙は意を決して階段を降りていった。



「なんだ、これは…」


魔理沙は部屋入った途端、ただ目を見開いて呆然となった。別に霊夢が足を踏み入れたなら、なんとも思わなかっただろう。せいぜい埃っぽい退屈な部屋としか思わなかったに違いない。しかし、魔理沙は違った。


「ま、魔導書じゃないか!しかもこんなに沢山!凄いぜ、この館!」


魔理沙は目の前の魔導書がぎっしり詰まった本棚が整然と並んでいるのをみて感動を覚えていた。当然と言えば当然だ。魔理沙は好奇心旺盛な魔法使いである。自身を高めるものなら喜んで飛びつく。お菓子の家に放り込まれたお腹を空かせた幼子と同じだ。


「『魔力増強に関する報告書』、『魔法に使えるキノコの見分け方』…!最高だぜ!やはり霊夢についてきて正解だった!」


魔理沙は早速近くの本棚に飛びついて自分のお目当ての本を抜き取ろうとした。その時だった。


「あれ?この本棚、動いてね?」


魔理沙は目の前の本棚が自分から離れていくのをみて気づいた。同時に魔理沙の後ろの本棚が魔理沙に向かって進んできて、魔理沙にぶつかる。


「うわあああ!」


部屋にある全ての本棚が動いているようだ。部屋の中心にスペースを確保するように移動している。


「くっそお!あのヤロー、最初からここに誘い込むのが目的だったのか!」


道理でこあの口調が棒読みだったわけだと今さら納得する。魔理沙の目の前の本棚が移動を終えて停止する。このままでは魔理沙は本棚と本棚に挟まれて身動きが取れなくなる。最悪、死ぬ。


「あんまりしたくはなかったが…ええい!恋符『マスタースパーク』!」


魔理沙は持っていた八卦炉で後ろの本棚をビームで焼き払う。ついでにその反動で上に飛び上がって箒に飛び乗り、崩れていく本棚の上を超えてそのまま部屋の中央にできたスペースに降りる。魔理沙は目の前の危機がとりあえず去ってホッとしていると─


「本を焼き払うとは…やはり人間のすることは野蛮ね」


薄紫色の寝間着に紫色の髪の少女が部屋の中央に浮いて魔理沙を睨んでいた。その背後にはさっきのこあが控えている。


「一難去ってまた一難、か」


魔理沙は三角帽を被り直し、ハアと息を吐きながら呟いた。

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