幼い公爵令息・サルバ様のお野菜克服大作戦!
小さい頃のサルバ様は、とにかく野菜が大嫌いでした。
「サルバ様。はい、ウチで採れた野菜で作ったサラダです。ちゃんと食べて下さいね」
「いやだ!おやさいにがいもん!メチカじょうがたべてよ!」
「…サルバ様…」
たまに私の住んでいる男爵家から野菜を送る時に、サルバ様のいる公爵家で朝食を一緒に摂る事があるのですが、いつまで経ってもサルバ様は本当に野菜を食べてくれません。
サルバ様のお父様曰く『サルバはこれと決めたものはテコでも動かなくてな…』という事だったのですが…やっぱり酷いですね。しかも今日は私が野菜を食べる事になってしまいましたし…。
…うーん、これは参りました。どうすれば、サルバ様は野菜を食べてくれるのでしょう…。
こうしてウンウン唸っていたら、不意に食卓に置いてあった茹でソーセージが目に入りました。しかも液体状の生クリームもありますし、この生クリームとサラダとソーセージを鍋に入れて煮込めば、野菜嫌いでも食べられる美味しいクリームスープが出来るはず…!
早速私は、サルバ様の目の前に置かれたサラダを持って、厨房へと向かいました。
「すみません、料理長さん!このサラダを生クリームとソーセージで煮込んでみたいんですけど、いいですか?」
「…はい。それは構いませんが…」
「ありがとうございます!今、牛乳とソーセージも持ってきます!」
こうして、私は公爵様にも許可を貰ってから、意気揚々と食卓からソーセージと生クリームを持ち出し、公爵家の料理長とクリームスープを作り始めました。
幸いな事にサラダにはドレッシングがかかっておらず、レタスとにんじんが切ったまま皿に乗せられていたので、素材そのままを鍋でしっかり煮込む事が出来ました。
そして出来上がったクリームスープを、サルバ様の目の前にお出ししました。
「サルバ様。私とここの料理長さんが丹精込めて作った野菜のクリームスープです。隠し味にバターとコーンスープも少し入れたので、サラダより食べやすいと思いますよ?」
「…クリームスープ…でもやさいが…」
「大丈夫ですよ。でも、もし勇気が出ないのであれば、私が一口頂きますね!」
「あ…」
私は意を決して、サルバ様のテーブルの上に置かれたスプーンを取り、野菜ごとクリームスープを一口食べました。
…〜〜〜っんん〜!おいっしい!スープがまろやか濃厚で、甘いコーンの味も少しして食べやすい!しかも人参もレタスもしっかり煮込まれているから、柔らかくて苦味があんまりない!
…あ。ついつい頬に手を置きながら、クリームスープの味と食感を堪能してしまいました。サルバ様も驚いて目を大きく見開いています。
あぁ、これは失態ですね…。それでも、やっぱりクリームスープはまだ食べたい!
私は気を取り直して『よし、もう一口!』と思い、クリームスープに手を伸ばしました。
しかし、クリームスープの容器は悉くサルバ様に取られてしまいました。…ガックシ…。
「…サルバ様ぁ…」
「ひとくち、っていうやくそくでしょ?あまりにも、おいしそうにみえたから、ぼくもたべる!」
「え!?サルバ様?」
「いただきます!」
そうして、サルバ様はテーブルの近くに置いてあった別のスプーンを取って、クリームスープを一口食べました。その瞬間、サルバ様の目がキラキラと輝きました。
「…お、おいしい!にがくない!ぼく、たべられるよ!」
「ほ、本当ですか!?」
「うん!ソーセージもあったかくて、すごくおいしい!もっとたべる!」
元気にそう宣言したサルバ様は、凄い勢いでクリームスープを平らげ、おかわりもするようになりました。…お、恐るべし、クリームスープ…。
「…ねぇ、メチカじょう。このやさい、きみのいえでつくったんだよね?」
「あ。はい、そうですが…」
「あのね。やっぱり、やさいぎらいはよくないとおもう。でもにがい。だから、にがみのすくないやさいつくれる?」
「…はぁ…。でも、それなら研究しないとですよ?あまり苦くなくて美味しい野菜を作れるような環境がないと…」
「わかった!じゃあぼくのいえで、やさいのけんきゅうする!そして、おとなになったら、ぼくもやさいをけんきゅうする!それでもし、やさいぎらいをなおして、もっとおいしいやさいをつくれたら、…ぼ、ぼくとけ、けっこんしてくだしゃいっ!」
「…ふふっ、いいですよ。でも、まずは野菜嫌いをちゃんと直して下さいね」
「っ!うん!」
この私達のやりとりに、公爵家の食卓に温かな空気が流れました。
所詮この約束は『子供だけの約束』でしかない。きっと、大人になったらすっかり忘れているでしょう。
…と、この時はサルバ様以外、皆思っていました。
けれど、まさかサルバ様が野菜嫌いを克服して、野菜の研究を始め、将来宰相になるどころか我が男爵家に婿入りする事になるとは、当時は誰も思っていなかったでしょう…。
いまや我が領地の野菜は、公爵家から頂いた種を使用した『苦味の少ない王室御用達の高級品』となり、その野菜を餌にした牛や豚の肉も高級品になっています。…あら、びっくり。
そして、将来の男爵様かつ私の旦那様であるサルバ様は、今日も野菜の研究を続けつつ、あらゆる野菜をスクスクと育てています。
「メチカ!超甘いトマトが出来たよ!一緒に食べよう!」
「まぁ、そうなんですか!?じゃあ、私も収穫をお手伝いしますね」
「うん!ありがとう、メチカ!…でも、無理しないでね?」
「はい。大丈夫ですよ、きっと」
私は、新たな命を宿して少し膨らんだお腹に手を当てながら、ゆっくりとサルバ様の元へと向かったのでした。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
こちらは以前なろうで投稿した「年上かつ身分の低い私にプロポーズするだなんて、あり得ません!」(ncode.syosetu.com/n6814hw/ )の番外編で、Twitterに投稿したものを再掲したものになります。
そしてこの小説に載っているクリームスープはこちらのサイト(https://moguna.com/recipes/20101204292)を参考にさせて頂きました。
ネットは偉大ですね。ありがとうございます!
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