表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/164

第六十八話 二つのオーブ

 翌日。全ての日程を終えて放課後を迎えた慧たちは、いつも通り七組の教室に留まり、璃音の到着を待っていた。すると程なくして、


「おまたせ~」


 と、呑気な挨拶とともに璃音が教室に入ってきた。


「よーし、これで全員揃ったな。理科室行こうぜー」


 いつも通り伊武を抜いた四人が集まると、いつも通り友宏の号令で四人は教室を出た。そしてあっという間に実習棟の廊下に差し掛かると、四人の視界には理科室の前に立っている輝虎と伊武の姿が映った。


「おぉ、もう全員集合か」


 理科室前に勢揃いした部員たちを見て、輝虎は少しだけ嬉しそうに言った。しかしそんなムードに構わず、


「なんで廊下に立ってんすか?」


 と、友宏が水を差した。


「今は内海ティーチャーを待っているんだよ」

「どうしてすか?」

「彼女がカギを持っているからだよ」

「えっ、先輩いつも勝手に持ってきてたじゃないすか」

「あぁー、まぁー、それはね。色々あったのだよ。ハハッ……」


 この場で唯一全ての事情を把握している慧は、昨日の一件を思い出して輝虎とともに苦笑いを浮かべた。するとそこへ噂の当人が現れた。


「待たせてごめんなさい。今開けるわね」


 到着した内海も事情を語ることはなく、カギ問題はうやむやのままに一行は理科室に入った。そして中央の実験台を囲むように各々が着席すると、輝虎は肩に下げていた大き目のバッグからカメラを取り出した。


「じゃーん! これが買いたてほやほやのカメラだ!」


 取り出されたカメラを見て、おぉー。と感嘆の声を漏らしたのは友宏と恵凛で、その他のメンバーと内海は静かに輝虎の動向を見守った。


「今日はこれを使ってバシバシ写真を撮っていこうと思う!」

「いいっすね! どんどん撮りましょう!」

「オーブ。写りますかね?」


 乗り気な恵凛と友宏を見ていると慧は少し心が痛んだ。何故なら昨晩の輝虎とのメッセージのやり取りで、先日写真に写っていた靄はオーブではないと知っていたからである。しかしだからと言ってこの場でオーブの存在を否定するということは、二人の純粋な心を傷つけることになる。そう考えた慧は大方予想はついていたものの、二人のために真摯に実験と向き合うことを決めた。


「よし、じゃあまずは集合写真を撮るぞ~」


 輝虎はそう言いながら実験台から離れると、全員が写真に収まる位置まで移動し、ファインダーを覗き込んだ。そして一枚、続けて二枚、おまけに三枚と、テンポ良く三回シャッターを切り、実験台に戻ってくる。


「うん。悪くない。だが強いて言うなら、璃音君と伊武君がこっちを向いていてくれれば満点だったね」


 輝虎はカメラに保存された写真を確認した後、実験に乗り切れていない二人をチラリと見てからかった。


「別にあたしたちが直接関係してるわけじゃないし、写り方なんて気にしなくて良いじゃないですか」


 輝虎の言い方が気に障ったのか、璃音は少しムッとした調子で反論した。その一方、伊武は我関せずと言った風で、ずっとスマホをいじっていた。


「ハハッ。それはごもっともだね。それじゃあ勝手に撮っていくから、好きなように座っていてくれ給え」

「はぁ、そもそも撮っていいって言った覚えないんですけど……」


 放恣な輝虎を止められる人間など存在せず、彼女は再びカメラを両手に持ち、実験台を囲むように座っている部員の一人一人を写真に収めていく。始めに恵凛。次いで璃音、伊武、慧、友宏。そしてついでに内海も数枚写真を撮られ、輝虎は満足そうに木椅子に腰かけた。


「これだけ撮れば十分だな。あとは僕の写真を誰かに……」

「俺が撮りましょうか!」

「いや、君は壊しそうで怖い」

「そ、そんな……」


 名乗りを上げた友宏はあっさりと切り捨てられ、その照準は、


「恵凛君。君に任せよう」


 恵凛に向いた。


「わ、私ですか?」

「うん。君に任せようと思う」

「で、でも私、カメラを使ったことありませんよ? その、ですから、私の方が壊してしまう可能性が高いかと……」

「いやいや、君なら大丈夫だよ。何故なら女性陣で一番やる気が感じられるからね! さぁ、撮った撮った!」


 恵凛の意見を陽気に言い退けた輝虎は、持っていたカメラを恵凛に押し付けた。


「えっ、あぁ、はい……。頑張ります……」


 ほとんど無理矢理にカメラを持たされた恵凛を見て、随分と横暴だな……。と慧は半ば呆れながら心の中で独り言ちた。そして恵凛の助太刀をしようと思ったのだが、ここで自分がしゃしゃり出るのも何か違う気がして来てしまい、結局慧は二人の様子を静観することになった。


「そ、それじゃあ撮りますね……」

「あぁ。そんな硬くならず、好きに撮ってくれ給え」


 輝虎はそう言いながら木椅子に掛け直すと、足を組み、腕を組み、それから最後にカメラの方を向いた。きっと輝虎は無意識にそのポーズを取ったのだろうが、彼女のスタイルの良さも相俟って、その居住まいはモデルそのものであった。しかしそれを見てそう感じたのは慧一人のみのようで、周りの部員たちは各々自分の過ごしたいように時を過ごしていた。


(誰も気にしてない……。ってまぁそれもそうか。モデル経験があるって知ってるのは俺だけだもんな……。俺が変に意識してモデルの件が周りにバレないようにしないとな)


 一人で勝手に焦っていた慧は他の部員たちの落ち着きを見て自分も冷静さを取り戻すと、再び恵凛と輝虎の方に視線と意識を戻した。するとちょうど恵凛がシャッターを切ったところであった。彼女はたどたどしい手付きで写真を撮り、続けて同じ手付きでもう二枚写真を撮ると、輝虎の横の木椅子に着いた。


「と、撮れました。多分……」

「うん。どれどれ。おぉ、良い感じじゃないか! 初めてとは思えないよ」

「本当ですか? 良かった……」


 恵凛は心底安心したような表情を浮かべると、強張っていた肩を楽にして小さく呟いた。


「良いなぁ~。俺も撮りたかったなぁ~」


 じっと二人を見守っていた慧の隣でずっと二人の動向を見張っていたらしい友宏が、二人の撮影が終わり次第、実験台に突っ伏しながら駄々をこね始めた。


「分かった分かった。今度撮らせてあげるから」

「マジっすか?」

「うん。絶対絶対」


 輝虎は手元のカメラから目を離さず、雑な返事をして友宏をあしらう。


「あの、全然マジに聞こえないんすけど」

「……これは!」


 不服そうに口答えをする友宏を無視して、突然輝虎が驚嘆の声を上げた。


「なんすか! 何かあったんすか?」


 たった今無視されて不機嫌になっていたはずの友宏は一瞬にして元気を取り戻すと、席を立って輝虎の背後に回り込んだ。


(友宏の話を切るためにわざわざ小芝居をするとは、先輩も大変だな……)


 何も写っていないことを知っている慧は、余裕そうに友宏の様子を伺う。するとその当人が顔を上げて慧の方を見た。そして、


「お、おい。慧、これ……」


 と、真剣な声音で慧を呼び寄せた。


(先輩に騙されたからって俺も巻き込むつもりか? まぁ、付き合ってやるか)


 慧は穏やかな気持ちで席を立つと、輝虎の背後に回り、友宏の横に立った。


「なんだよ?」

「これ、見ろよ」


 友宏はそう言うと、輝虎の持っているカメラを指し示した。慧は子どもの遊びに付き合う感覚でカメラの小さなモニターを覗き込むと、そこには自分の写真が表示されていた。


「俺の写真だな」

「うん。写ってるお前の右上見てみろよ」


 言われた通り写真の右上に視線を移すと、そこにはぼんやりと赤いオーブが写り込んでいた。


「なっ……!」


 なんで! と言いたかった慧だが、この状況でこの言葉を発するのはマズいかもしれないと咄嗟に判断して言葉を飲み込んだ。すると、


「助手君。ちょっと見辛いと思うから、こっちに」


 慧の動揺を察知したのか、輝虎はカメラを持ったまま席を立つと理科室の後方へ向かったので、慧もそれに続いた。


「ちょっと先輩。どうなってるんですか……?」


 二人きりになるとすぐ、慧は小声で輝虎に詰め寄った。


「いやいや、僕だって困惑しているんだよ」

「昨日撮ったやつには写ってなかったんですよね? 先輩が加工して消したとかってわけではないんですよね?」

「そんなことは断じてしていない……! だからこうして君だけ呼んだんだ」

「ってことはこれ……」

「あぁ、可能性は高いね。これは一度全ての写真を確認する必要がありそうだ」


 輝虎はそう言うと、他の部員たちに怪しまれないよう早めに密談を切り上げて席に戻った。それに続いて慧も席に戻ると、輝虎は部員全員の顔を見回し、改めて話を始めた。


「まだカメラのモニターで確認しただけなので何とも言えないが、またオーブが写っていた」

「ですよね! 俺見ましたよ!」

「あぁ。とりあえず今オーブが確認できているのは、彼の写真だけだ」


 輝虎は現状を説明しながら慧の方へ手を向け、話の区切りがついたところで手を下ろすと再び話を続ける。


「しかし、他の者の写真にも写り込んでいる可能性はある。という事で、今から調べる!」


 輝虎はそう宣言すると、大きめのバッグを実験台に乗せ、そこからノートパソコンを取り出した。するとそれを見ていた内海がパッと立ち上がり、


「ちょ、ちょっと宇留島さん。ノートパソコンの報告は受けてないけど?」


 と咎めたのだが、


「まぁまぁ、大目に見てくださいよ。授業中にはいじってませんから」


 と、輝虎は内海の追及をのらりくらりと回避し、カメラとパソコンをケーブルで繋いだ。


「ではせめてもの償いとして、内海ティーチャーの写真から見て差し上げましょう!」

「はぁ、全くもう……」


 一瞬にして輝虎を止める気力を失った内海は、立ち上がろうとしていた腰を再び木椅子に落ち着かせ、輝虎の行動に目を光らせた。

 そうして今日撮影した写真の確認作業が始まると、結果待ちのために再び各々時間を潰すことになった。輝虎はもちろん作業を進め、恵凛と友宏は興味津々で輝虎の作業を左右から覗き込み、璃音はそれを少し離れたところでそわそわと観察し、伊武は相変わらずスマホゲームをプレイしていた。そんな中で、一番気が気でないのは慧であった。


(なんでまた俺の写真にだけ写り込んだんだ? もしかして気付かないうちになんかやったのか、俺……)


 慧は手に持っている電源の入っていないスマホを凝視しながら最近の自分の行動を思い返してみるが、やはり何も思い当たらない。となると地縛霊とか浮遊霊のイタズラか? それともたまたま運悪く埃が反射してるだけ? 思い当たる節が無い以上、慧の脳内には憶測ばかりが積み重なっていく。


「あっ、これ……!」


 慧が負のスパイラルに飲み込まれそうになった時、対面にいる恵凛が小さく声を上げた。それによって妄想が妨げられた慧は手元に向けていた視線を対面に向けると、パソコンの画面に見入っている恵凛、輝虎、友宏の姿が目に映った。


「もう一つあったぞ!」


 友宏のその言葉で別のオーブが見つかったのだと確信した慧は、考えるよりも先に動き出し、輝虎の背後に立っていた。そしてそんな慧の横には、いつの間にか今まで非協力的だった璃音も立っており、二人はほとんど同時に画面に表示されている写真を確認し、すぐに視線を伊武に移した。


「……なに?」


 全員の視線に気づいた伊武は不機嫌そうな反応を示す。


「……いや、その、江波戸の写真に赤いオーブが写ってたんだよ」


 パソコンの周囲に集まっている部員たちはそれぞれ視線を交わしたが、見交わしただけで誰も答えそうになかったので慧が代表して答えた。すると伊武はゲームをしていたスマホを実験台に置き、


「それで?」


 と答えた。その一言で完全に威圧されてしまったことに加え、確かにオーブが写っているから何なんだ? と思った一同は黙り込んでしまい、何とも言えない空気が広がった。


「じゃ、私はこれで」

「あっ、江波戸!」


 挙句、これ以上何も進展が無いと判断した伊武は理科室から出て行ってしまった。


「あぁー、行っちゃったね」


 伊武がいなくなると輝虎があっさりと呟いた。


「行っちゃったね。じゃないですよ。止めなくて良かったんですか?」

「まぁ別に大丈夫だろう。とりあえずこの二枚は鑑定士にでも送ってみるよ」


 輝虎はそう言うと、ノートパソコンをぱたりと閉じて立ち上がった。


「オーブも見つかったし、伊武君も帰ってしまったし、ひとまず今日は解散にしよう」


 既にパソコンもカメラもバッグにしまった輝虎は部員たちにそう告げると、真っ先に理科室を出て行った。全く自分勝手な人だなと慧は思ったが、まぁこれはいつものことだし、それに何より、今は思い当たる節が一つ生じたので、慧は他の部員たちと一緒に理科室を出ると、用事を思い出したとテキトーに誤魔化し、一人で行動を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ