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第三十話 発行、データベース!

 自宅に着くと共に襲い掛かって来た睡魔に耐え切ることが出来ず、手洗いうがいだけを済ませた慧は着替えることも無くベッドにダイブした。


 それから数時間後、夜の九時前になってようやく慧は午睡から目覚めた。


「あぁ、また変な時間に寝ちゃったな……」


 うつ伏せに寝ていた慧は一度上体を起こそうとはしたのだが、現時刻を見て再び枕に突っ伏した。しかしいくら明日が休みだからと言って、このまま夕飯も摂らず、風呂にも入らず、歯磨きもしないなんて言うのは本能が生理的に受け付けないようで、三十秒ほどで慧は頭を上げた。そしてその流れが断ち切られるよりも前にベッドから離れると、ひとまずチェアに腰かけて茫然とした。


(起きれたのは良いけど、何もやる気がしないな……。ラヴィの言う通り、やっぱり体力不足なのかもな。そう言えば、アイツどうしたっけ?)


 ふとラヴィの存在を思い出した慧は回転イスにもたれたままくるりとベッドの方を向くと、サイドテーブルの上でしっかりと充電されているスマホとラヴィ本体を見つけた。


(ギリギリの状態で充電だけはしたんだな)


 呑気なことを考えながら、極力イスから腰を浮かせないようキャスターをゴロゴロ言わせながらベッド付近まで移動すると、腕を伸ばしてスマホとラヴィグッズ一式を回収し、勉強机に戻った。


「よお、起きてる?」

【おや、ご主人。ようやく目覚めたのですね】

「ようやくってことは、お前はずっと起きてたのか?」

【えぇ、ご主人の為にずーっと情報の整理を行っていましたからね】

「へぇー、で、それは終わったの?」

【他人事みたいに言って……。そうですね、もう少しかかりますが、今日中には終わりそうですよ】

「そっか。じゃ、終わったら聞かせてもらおうかな」


 ラヴィの小言を無視して都合よく逃げようとすると、外し掛けたイヤホンが微かに振動した。まだ伝え忘れたことがあるのかもしれない。でも小言を言われる可能性もあるな……。と考えたが、流石に可哀そうかと思い、慧は渋々イヤホンを掛け直した。


【……待ってくださーい! ごしゅじーん!】

「なんだよ」

【雑ですよ! 私の扱いが】

「んなこと言われたって、終わってないならまだ聞けないだろ。それに、俺にだってやることがあるし」

【私の情報を聞くよりも前にすることとは何ですか!】

「夕飯とか風呂とか歯磨きとか。まぁ、色々だよ」

【なるほど、確かに色々とありますね】

「だろ? だから、お前の整理が終わるまでに済ませておこうと思って」

【それなら致し方ありませんね……。それで、夕飯はお決まりですか?】

「いや、決まってないけど」

【では、江波戸伊武氏が勤めているコンビニに行きませんか?】

「あぁ、そう言えば、バイトって言ってたもんな」

【はい。コンビニで買い物をせずとも、様子だけは見に行っても良いかと】

「それは一理あるな。服も着替えてないし、すぐ行くか」

【早速行きましょう!】

「はぁ、お前は外に出たいだけだろ……」


 最終的に慧が小言を漏らすいつもの形で会話を終えると、慧はスマホとラヴィを手に取ってズボンの左右ポケットにそれぞれしまい、後は財布と自宅の鍵を持って家を出た。

 人通りの無い住宅街を、そして車もまばらな大通りを自転車で駆け抜けると、江波戸がアルバイトをしているコンビニに辿り着いた。


(ここんところ毎日来てるからあんまり顔を見られたくないけど、江波戸の為だし、ささっと入るか)


 意を決してコンビニに入った慧はひとまずレジの方に目をやった。しかしそこには伊武どころか店員の姿が無く、慧はコンビニを一回りすることになった。そうして入り口から右側に進み、コピー機や本売り場を抜けて飲み物売り場に来た時、バックヤードから店員が一人出て来た。しかしそれはふくよかな男性で、あきらかに伊武では無かった。

 その後数分間、弁当を選んでいるフリをしながら他の店員が出てくるのを待ったが、またも男性の若い店員が出て来たのみで、伊武が出勤している様子は無かった。


(少し来るのが遅すぎたか? これ以上いると不審者っぽいし、そろそろ何か買って帰るか)


 慧はパッと目に入った親子丼を手に取り、それだけを買ってコンビニを後にした。


【いませんでしたね】

「あぁ。もしかしたら、もう帰っちゃったのかもしれないな。出勤したけど早退したー。とか、単純に九時上がりだったとか」

【なるほど。その中に、そもそも出勤していない。と言う可能性も含まれるという事ですかね】

「うん。まぁ、そう言うことになるな……」

【すみません。ですが、私が計算するに、その可能性が一番高いように思いましたので】

「そんなこと分かってるよ。でも、人間ってのは、時として事実をすんなり受け入れられない時があるんだよ」

【なるほど。記録しておきます】


 星が輝く夜空の下、慧は伊武の容態を心配したり、璃音の情報を整理したり、二人の仲直り作戦について考えたり、何かと頭を悩ませながら帰宅した。

 帰宅後、風呂を済ませてレンジで温めた親子丼を食べていると、テーブルに置いていたラヴィ本体の液晶がぽっと点灯した。それが目に入った慧はその横に置いていたイヤホンを耳に掛け、ラヴィの反応を待った。すると画面にラヴィの簡素な顔が浮かび上がり、パクパクと口を動かし始めた。


【ご主人! 出来上がりましたよ!】

「何が?」

【何がとは何ですか! データベースですよ!】


 ラヴィがそう言うと画面からはラヴィの顔が消え、代わりに文章と写真が表示された。


「これ、龍宮だ。いつこんな写真撮ったんだ」

【撮ったとは少し違いますね。ご主人が装着している眼鏡を介して、スクリーンショットをしたわけです!】

「スクリーン? うーん、まぁそう言うことにしておくか……」

【な、何ですか。分かりやすくて良いじゃないですか。……ゴホン。それでですね、話を戻しますよ。このデータこそ、先ほど私が申し上げた、情報整理の賜物なのです! 今現在のご主人と龍宮恵凛氏との関係や、様子などを私視点でまとめていますので、参考にしてくださいという話です】

「これ、盗撮にならないか?」

【分かりました。分かりましたよ! 写真は一度削除しますから。是非これを活用して、恋愛を成功させてくださいということなのです!】

「ふーん、まぁ、恋愛は別として、約束が記録されてるのはありがたいな。サンキュー」

【なっ、軽い! そんなメモ帳みたいな扱い酷すぎます!】

「うーん、だって別に、絶対に恋愛する! なんて約束してないしな」

【ぐぬぬぬ……。ならば、いつか約束させます! それまではメモ帳扱いでも良いですとも!】


 ラヴィはそう言うと、画面を暗転させて黙り込んでしまった。


(言い過ぎたかな。まぁ、明日にはケロッとしてるだろ)


 心の中で自問自答した結果、慧は親子丼と共に疑心を飲み込み、歯磨きやら洗濯ものやら、その日の内に済ませるべき最低限のタスクをこなして十二時ごろには無理矢理床に就くのであった。


 翌日、何も予定が無い日曜日。慧は家の掃除をしたり、漫画を読んだり、ゲームをしたりと、自由気ままな時間を過ごして一日を終え、そして月曜日を迎えた。

 少しは気持ちのリフレッシュも出来たかと思い登校した慧だが、朝のホームルームが始まっても左隣に伊武がいないという事実は慧の心に焦慮を生んだ。


(江波戸が朝いないのは今日に始まったことじゃない。そこまで気にする必要……)


 何とか自分を霧で包み、自ずから幻に化かされようとする慧であったが、その脳内にはどうしても、あの時ショッピングモールの通路端で自分の袖を掴んで震えていた伊武の姿が思い出された。


「風見君?」

【ご主人、呼ばれていますよ!】

「え、あぁ、ごめん。何かあった?」


 恵凛の声を遠くに聞き、ラヴィの声で完全に我を取り戻した慧は慌てて恵凛の方を向いた。


「すみません。お疲れでしたか?」

「いや、そんなことないよ。雀野と江波戸のこと、どうしようかって考えてて」


 慧は咄嗟に嘘とも真実とも取れる言葉で誤魔化した。


「そうでしたか。……あの、そのことなのですが、そもそもどうしたら仲直りが成立するのでしょうか。私、今まで……無くて……」


 後半部分は上手く聞き取れなかったが、きっと恵凛のことだから喧嘩をしたことが無いのだろうと慧は受け取り、少し考えてから答えた。


「うーん、そうだな。双方が自分の非を認めて、互いを受け入れる。みたいな感じかな?」

「つまり、心を開かなくてはならない。と言うことになりますよね?」

「うん、そうとも考えられるかな」

「となるとやはり、璃音と江波戸さんともっと仲良くなる必要がありますね。風見君が」

「お、俺が?」


 まさかの急カーブに驚いた慧は、そう言った後に自分の声が周りに害を与えていないかと心配になって辺りを見回したが、どうやらクラスメイトたちは自分たちのことで手一杯のようで、慧の声など少しも気にしていなかった。とりあえずそれで安心した慧は恵凛との会話に戻る。


「えっと、百歩譲って江波戸は俺でも良いけど、雀野の方は龍宮の方が良いんじゃ?」

「確かに仲良くなれて来た実感はあるのですが、なんというか、その、絶対に越えられない壁があるような気がして……」

「絶対に?」

「はい……」


 深刻な表情でそう言う恵凛を見て、慧は原因を考えた。しかし明らかにこれだ。という項目が見つかるでもなく、強いて挙げるとするならば、やはり令嬢と言う事だろうか。と考え至ったものの、それを口に出すことは出来なかった。


「もちろん、私もお手伝いはします。私にしか聞き出せないこともあるって風見君が言ってくれましたから」

「うん、分かった。頑張ってみるよ」


 慧が答えた直後、チャイムが鳴った。


(気前よく答えたはいいけど、これまた面倒なことになったな……。けど、龍宮との間に絶対に越えられない壁があるってのは、雀野だけじゃないかもな。実際、俺も龍宮と話す時は勝手に言葉を選んでる節があるし……。ってことは、俺も含めて全員がある程度心を開く必要があるってことになって来るよな。俺に出来るのか? ……でも何で、昨日までやる気だった龍宮が急にマイナスな発言をしたんだろ。そこは気になるな)


 面倒ながらも、すぐに終止符が打たれるだろうと思って軽い気持ちで承諾した『仲良し大作戦』だったが、どうやらそのゴールは幾度も曲がる迷路の遥か果てにあるようで、これは中々に骨が折れる作業かもしれないとようやく事態の苛烈さに気付きながら、慧は微かな疑問を基に打開策を検討するのであった。

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