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第百十四話 疑惑

(堤先生が次のターゲット? 先生こそが俺たちの本当に話すべき相手? 一体どういう事なんだ……?)


 全く予想していなかった展開に、慧の脳内には無数のはてなマークが浮かび上がる。何故堤なのか。堤から何を聞き出そうというのか。そもそも本当に堤がターゲットで合っているのか。等々。聞きたいことは次から次へと湧いて来る。しかし堤がいるのでラヴィを問い詰めることも出来ず、これより先はどうやって話を進めるべきだろうか……。なんて慧が考え込んでいると、


【大丈夫ですか、ご主人。混乱していませんか?】


 と、ラヴィの方から話を進めてくれたので、慧はそれに大きく頷いて応える。


【ふむ。大丈夫そうですね。でしたら、話を続けさせていただきます。まずは、恐らく今ご主人が一番気になっているであろう、何故堤氏がターゲットなのか。という疑問にお答えしようと思います。端的に申し上げますと、堤氏と江波戸氏が結託していると思ったからです】


 ラヴィの回答を聞いた慧の脳内には、新たに一つ、大きなはてなマークが浮かび上がる。


(結託? 先生と江波戸が? なに言ってんだ、こいつ……)


 端的過ぎて何も理解できず、慧が反応に困っていると、


【呆れないでくださいよ、ご主人! 今から結託を疑う理由を話しますからね!】


 とラヴィが話を継いだ。


【その理由は、江波戸氏は何故ここに残ったのか。という謎を他の角度から考えた結果、逆に、堤氏はどうやって江波戸氏を引き留めたのだろう。という新たな謎が生まれて来て、もしかしたら、堤氏と江波戸氏は秘密裏に約束を交わしたのではないか。だから江波戸氏はここに残ったのではないか。という疑惑が浮上して来たからです】


 結託を疑う詳細な理由を聞き、慧は少しだけ納得する。しかしまだ物足りないな。なんて思っていると、ラヴィが話を再開する。


【それともう一つ、確かめたいことがあるのです。それは、先ほどの江波戸氏の回答の真偽です。ご主人に、『母親の話と今後の話だけで六時間近くも潰せるかな?』と問い詰められた時、江波戸氏はこう答えました。『別に四六時中話してたわけじゃない。あっちが仕事してた時もあれば、こっちが寝てた時もあった』と。これの真偽を確かめたいのです。江波戸氏がそう言っていただけで、実際は他の事をしていたかもしれませんからね。それに加えて、これを聞くことで堤氏と江波戸氏の関係の濃い薄いも判断できます。例えば、堤氏が江波戸氏と全く同じことを言った場合、お二人が結託してる線が濃くなりますし、逆に堤氏が江波戸氏とは全く別なことを言った場合、お二人の繋がりは薄いと判断することが出来る。と私は思うのですが、どうですか?】


 やや早口に行われたプレゼンを聞き、


(うーん、確かに。怪しい点もちょこちょこあるし、江波戸の発言の真偽も確認しておいた方が良さそうだな……)


 と、納得の方に気持ちが傾いた慧は、小さく頷いて応える。


【分かっていただけましたか、ご主人?】


 訴えかけるようなラヴィの問いに、慧は再度頷く。


【良かったぁ。となれば、後は堤氏と話すだけですね】


 安堵の声を漏らすラヴィに慧がもう一度頷いて応えようとしたその瞬間――


「風見君? ちょっと、かーざーみーくーん?」


 イヤホンの向こうから、ラヴィの声を覆い尽くすように堤の声がフェードインして来た。


「は、はい? 何ですか?」


 突然聞こえてきた声に驚きながらも、慧は出来るだけ平静に答えつつ、堤の方を向いた。


「もう、やっと反応した。何ですか、はこっちのセリフよ。ボーっと立ち尽くしちゃって。どうかしたの?」

「す、すみません。ちょっと考え事をしてて」

「考え事?」

「はい。えっと……」


 慧は言葉を濁しながら、一瞬で考えを巡らせる。


(聞きたいことは大体決まってるけど、何から話すべきだ……? いきなり、江波戸との結託を疑ってます! なんて言えるわけないし、かと言って、俺が授業を受けてる間、二人は何してたんですか? もおかしいし……)


 脳みそフル回転で考えるものの、活路は中々見出せない。するとその時、


【ご主人、落ち着いてください。とりあえず、江波戸氏のことで話がある。と答えておきましょう】


 とラヴィから助言が届いた。


(何か策があるのか……? まぁどちらにせよ、江波戸の話をしなきゃいけないってのは確かだし、従っておくか)


 そうと判断した慧は、ひとまずラヴィの助言に従うことにした。


「江波戸のことで、ちょっと」

「江波戸さんのことで?」


 慧の答えを聞いた堤は緩ませていた表情をキュッと引き締め、真剣な表情を浮かべて問い返す。そして慧が答えるよりも先に、


「さっきの話し合いで何かあったの?」


 と続け様に質問しながら席を立つと、先ほどまで伊武が座っていた一人掛けのソファまで移動し、そこに腰かける。


「はい。まぁその……」

「話しづらい内容なの?」

「いえ、そう言うわけじゃないんです。ただ単に、話の整理ができてなくて」

「あっ、そうよね。急に問い詰めちゃってごめんなさい。座ってゆっくり考えてちょうだい」

「ありがとうございます」


 堤の優しさのおかげで運良く考える時間を確保した慧は、なるべくゆっくりと腰を下ろしつつ、話の切り口を考える。しかし当然そんな短時間で切り口が浮かぶはずもなく、無策でソファに腰を落ち着けた直後、


【まずは茶濁しに、母親と会う日、なるべく介入してほしくない。って言われた話からしてみましょうか】


 と、ラヴィから次の助言が届いた。それに対して慧は、ちょっと遠回りな気はするけど、まぁ切り口としてはちょうど良いのか……? と考え、少し間を置いてから口を開く。


「ゴホン。えっとですね、さっき江波戸から、母親と会うって話を聞かされたんですけど、先生もこの話、聞きました?」

「えぇ。今日聞いたわよ」

「良かった。このことで先生に話しておきたいことがあって」

「話しておきたいこと?」

「はい。でもその前に、先生がどこまで話を聞いてるのか、確認しても良いですかね?」

「良いわよ。えっと確かね。会う日時は土曜日の昼頃で、会う場所は駅前のファミレスで、話し合いは一対一でする予定だから、私と風見君は近くのテーブルで待機して、雰囲気が悪くなったら止めに入って欲しい。って言われたわね」

「そこまでですか?」

「えぇ、そうよ。この話がどうかしたの?」

「あぁ、いえ、この話に問題があるわけじゃないんです。俺も先生と全く同じ説明を聞かされましたから。問題は、その後に追加でされた頼みごとなんです」

「頼みごと?」

「はい。例え雰囲気が悪くても、なるべく介入してほしくないって頼まれたんです」

「江波戸さんがそう言ってたの?」

「はい。多分、出来るだけ一人で解決したいんだと思います」

「なるほどね……。良いじゃない。私は賛成よ」

「い、良いんですか?」

「えぇ。良いと思うわ。と言うか、私は最初からそのつもりだったし」

「えっ、そうだったんですか?」

「そうよ。私たちはあくまでもサポートだからね」

「そっか。先生も同じ意見だったんですね。それじゃあ当日は、ギリギリまで話し合いを見守りつつ、ヤバそうになったら介入するって感じで行きましょうか」

「えぇ、そうしましょう」


 こうして茶濁しの話題に区切りがつくと、二人は示し合わせたかのように微笑みを浮かべ合った。そしてそのままどちらが話し出すでもなく、互いに黙り込み、気まずい微妙な空気が流れ始めた頃、


「……えっと、こんなこと聞くのは失礼かもしれないけど、まさか、これで終わりじゃないわよね?」


 と、歪んだ微笑みを浮かべたまま堤が切り出した。


「ま、まぁ、そうですね」


 その問い掛けに対し、慧は時間稼ぎの為に曖昧な返事をした。すると間もなく右耳に、


【次は江波戸氏が言っていた、今後の話。について聞いてみましょうか】


 と、新たな伝令が届いたので、慧はそれを無言で受け取り、話を再開する。


「その、実はですね、さっき江波戸と話した時、母親の話以外に今後の話も先生に相談したって聞いたんですけど、それが何なんだろうなって気になってて」

「今後の話?」

「はい。江波戸本人は俺に話してくれ無さそうだったので、先生なら教えてくれるかなぁと思って」

「あぁー、はいはい。今後の話ね。確かにちょっとしたわね」

「具体的にはどんな話を?」

「えーっと……。仲直りした後、すぐ家に帰るかどうか。とかだったかしら」


 堤がそんな不明瞭な答え方をすると、


【母親の件は詳細に覚えていたのに、今後の話が曖昧なのは怪しいです。これで詰めてみましょう】


 と、ラヴィから的確な指摘が届く。それを聞いた慧は、確かに。と心の中で呟きながら質問を続ける。


「なんか、あやふやですね」

「そうかしら?」

「はい。江波戸が母親と会う日の話はあんなに細かく覚えてたのに、今後の話は漠然とし過ぎてます」


 ラヴィの指示通りに指摘すると、堤の表情は少々硬った。それを見て疑心が深まった慧は、間断なく追い打ちをかける。


「もう少し具体的に話してもらえませんか? それとも、先生の口からも話せない内容なんですか?」

「それは、その……。時間が無くてまだそんなに話を聞いてないから内容が薄いってだけよ」


 堤はそう言って笑って見せた。するとすかさず、


【時間が無いなんてあり得ませんよね? 約六時間もの猶予があったのですから。というわけで、お二人が何をしていたのか聞いてしまいましょう!】


 と、またしてもラヴィから指摘兼指示が入ったので、慧はその通りに質問を投げる。


「それはおかしいですよ。放課後になるまでは約六時間もあったんですから。二人はその間、何をしてたんですか?」

「わ、私は溜まってた仕事の処理をしてて、江波戸さんはベッドで寝てたわ」

「先生は仕事をしてて、江波戸は寝てたんですね?」

「えぇ、そうよ」


 堤は何食わぬ顔で答える。先ほどまでの慧ならこれで騙されていたかもしれない。しかしラヴィの推理を聞き、ラヴィの推理通りに事が進んでいる今、慧は騙されず、むしろ一層怪しいと思った。するとラヴィから、


【江波戸氏と同じ証言をしましたねぇ。となればご主人、最後の一手です! 忙しかったのにどうやって江波戸氏を引き留めたのか、そして、どうやってご主人と話をするように説得したのか。これを聞きましょう!】


 と、ラヴィから最後の指示が届く。慧はその指示を一言一句漏らさず聞き取ると、キッと堤に視線を定め、話を再開する。


「へぇー、すごいですね。仕事の片手間に江波戸を引き留めたんですか?」

「え?」

「俺、ずっと考えてたんですよ。江波戸は何で帰らなかったんだろうって。でも、答えが出ないから別の角度から考えてみたんです。そしたら逆に、先生はどうやって江波戸を引き留めたんだろう。って疑問が浮かんで来たんです。だから教えてくださいよ、先生。どうやって江波戸を引き留めたんですか?」

「……」


 ラヴィの言葉を丸々パクってそう言い切ると、堤は黙り込んでしまった。どうやら効果てき面らしい。この様子なら、もう一押しで行けるかもしれない。そう感じた慧は、ラヴィから授かったもう一つの質問をぶつける。


「どうやって、俺と話すように説得したんですか?」

「……」


 堤は尚も答えない。ならばテキトーに何か問い詰めるべきか? とも考えたが、慧は敢えて、様子見の選択をした。……するとそれから数秒後、部屋中の空気が完全に張り詰めた折、堤は突然、フッ。と鼻で笑い、


「降参よ」


 と一言溢し、話を続ける。


「まさか私が狙われるとはね。甘く見てたわ。ってことで、その鋭い洞察力に免じて、今された質問には答えてあげる。私が江波戸さんを引き留められたわけ。それはね、江波戸さんと約束をしたからなの」

「約束?」

「えぇ。まぁ、約束と言うか、誓約に近いかしらね」

「その内容は?」

「申し訳ないけど、これ以上は言えないわ。口外禁止が江波戸さんとの誓約だから」

「そう、ですか……」

「まぁ、それでも現段階で一つだけ言えることがあるとしたら、その時が来るのを待て。かしらね」

「その時が?」

「えぇ、そうよ。さっきの話、所々嘘を吐いていたけど、あまり話を聞けてないって言うのは本当なの。だから、風見君には何も知らないフリをして待っていて欲しいの。信じてくれる?」


 微笑みから一変、真顔になった堤は真っすぐな瞳で慧を見つめる。


「わ、分かりました……」


 その瞳と意気に押し負けた慧は、隅まで追い込んだ網を引き揚げてしまった。


「ありがとう。何か進展があったら報告するから、今は江波戸さんのお母さんの件に集中しましょう」


 堤は再び笑みを浮かべてそう言うと、ソファから立ち上がり、保健室奥にある自分のデスクに戻ってしまった。


(何と言うか、最終的には上手く巻かれちゃったな……)


 あと一歩及ばなかったという悔しい思いを抱きながら、慧は保健室を後にするのであった。

こんにちは玉樹詩之です。

まずは、三週間も空いてしまい、申し訳ありませんでした。

急に書けない時期が来ただけで、体調は全く問題ありません! むしろ元気です!

精神面も何ら不安定では無かったのですが、何故か急に書けない時期が来て……。


とまぁ、言い訳はここまでにしておいて、今後の事を書いていきます。

今後は一応、出来る限り毎週ペースに戻していこうと思っています。ですが、中途半端な仕上がりで上げるのは嫌なので、無理そうだったら素直に休載を挟みつつ、じっくり書いていこうと思っています。

突然休載になる場合もあるかもしれませんが、温かい目で見守って頂けると幸いです。


それと、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

以上。

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