続×6・魔法主体のゲーム世界で魔力0 〜古代遺跡の秘宝〜
「魔法主体のゲーム世界で魔力0 〜拳ひとつで生きていきます〜」の続編です
「死ねシュティーナ・ルーマン!!」
聞き覚えのある声と共に青白い閃光が瞬き、爆風が吹き荒れた。
「冒険と言えば古代遺跡」
「まあ、そうだね」
「………」
ティナ、グレタ、シェスティンの3人は森に飲まれたような石作りの街に来ていた。
ティナは真っ赤な髪をポニーテールにして耳の前にカールした長い髪を少し垂らしている。
服装は膝丈のワンピースにショートブーツだ。
グレタはブロンドの髪を編み込んで、服装はメイドっぽいワンピースにエプロン、足元は編み上げロングブーツを履いている。
シェスティンはストレートの黒髪を下ろしたままにして、服装はパンツルックの冒険者スタイルだ。
ティナの希望でちょこちょこ服装を変えているが、今回は剣士風だ。
「なんだかノリが良くないです…」
「いや、わざわざこんな森の奥深くまでくる程度にはノリノリだけど?」
「と言うか、貴方は話すのが上手くなりすぎてキャラが薄いですね。語尾にドラゴンとか付けたらどうですか?」
「何その語尾、意味わからないんですけドラゴン」
「君ら仲いいのかわるいのか…」
一番ノリノリのシェスティンは人の尺度で冒険がしたいと言って転生した元ドラゴンだ。
見た目はほぼ人間のスレンダーな女性だが人そのものではなく、多少能力は下がったが人間のそれに比べたら桁違いに高い。普通に気配を垂れ流しにしただけで、弱い人間は気を失いかねないくらいに。
ティナもそれなりに冒険に興味はあるが、見た目が少女なのと魔力がないのであまりおおっぴらに活動できないでいた。シェスティンが一緒に居てくれるのは意外と有りだと思っている。
グレタとシェスティンはあまり仲が良く無いがグレタは基本ティナが楽しそうなら可、と言うスタンスだ。
「ここらが都市の中心部跡っぽいね」
「そうですね」
「何か仕掛けとか無いかなぁ」
「在ったみたいですね」
「在ったみたい?」
見ると石の塀に大きな扉があるが、なんらかの力で無理やり破壊されていた。
「うーん、マナー違反ではあるけど、冒険譚でも破壊するシーンとか見せ場だからなぁ。『地図にない』でもウィンチで破壊してたなぁ」
「地図にない? ウィンチ?」
「うん、架空冒険譚なんだけど、機械仕掛けの騎獣に乗って森の中を駆け回ったりするんだけど、その騎獣にはロープを操るカラクリが付いてて、それがウィンチ。邪魔なものにロープを取り付けて破壊したり、ロープを手繰り寄せて急坂や壁を登ったりするのよ」
「へぇーっ」
ティナとシェスティンが話している間にグレタが扉を確認していた。
「とりあえず、直しますか?」
「直せるの?」
「大丈夫だと思います」
「メンドってそう言うことも出来る物なの?」
「さあ?」
なぜかティナに聞くシェスティンに首を傾げて答えるティナ。
グレタは、メイドスキルです、と言ってなんでもこなすのだ。
グレタが何かスキルを使うと壊れた仕掛け付きの扉が元に戻る。
スキルと言うのは魔力を使わないで使える魔法のようなものだ。一番多いのは生命力や戦闘力を上げるものだが、直接攻撃するためのスキルや、生活を助けるようなスキルも存在する。
「えーっと、円盤が入りそうな凹みが三つ在って、周りに描かれているのは塔かな?」
周りを見回すと森の中に棟が見える。
「アレだねきっと、行ってみよう」
シェスティンが興奮気味にティナを引っ張る。
「三つあるから効率よく回れる順番を決めてからにしよう」
「なるほど」
地図を出して場所を確認して印を付け、回る順番を決める。
「まだメダルが残ってると良いねぇ」
「そだね」
森を抜けて歩くと森の切れ目、崖との間に石組みの棟が建っていた。
こちらも壊れてはいるものの、入り口は元々開いているようだった。
ただ、こちらはギミック系ではなく、体力系らしく、所々から突き出したブロックや、外側の飾りを使ってよじ登らなければならないようだ。
「うーん、ここはシェスティン任せかなぁ。私は自分の体重を持ち上げられるほど筋力がない…」
ティナはほとんどのステータスを打撃力に変換するスキルの影響で筋力や俊敏は本当に日常生活を送るギリギリ程度しかなかった。
するとシェスティンはティナに背を向けてしゃがみ、ドヤ顔で微笑む。
背中に乗れと言うことだろう。
「え、いや、…まあ良いか」
背中にしがみつくと、ひょいひょいと突起に飛びついて登っていく。
時には棟の外側をよじ登り、棟の内側の右から左に飛び移り、垂れ下がっていた鎖をよじ登り、ついには最上階に到達した。
最上階は周囲に12個の窓がある丸い部屋だった。
中央に楽譜代の様に斜めになった台があり、絵が彫ってある。
「これは夕日ですかね」
いつの間にかグレタも追いついていた。
背中にしがみ付いているだけでも目が回るかと思う様な勢いで登ってきたのにである。
「夕日と言う事は西側の窓を何かするのかな?」
「真西じゃなくてちょっと南寄り、かな」
真西の隣の窓を開け、他は閉じた。壊れていた窓はグレタが直した。
正解だった様で、台がずれて、その下からメダルが出てくるのだった。
次の塔はグレタが抱えて登ると言い出して、お姫様抱っこで登ったり、最後の塔までの道中、2人が張り合っていたら階段が在ったりとわちゃわちゃしながら遺跡を歩き回って、再び最初の扉のところに戻ってきた。
「じゃあ、シェスティン、メダルをセットして」
「え、私で良いの」
「うん。ただし、セットする場所が決まっているっぽいから、気をつけてね」
「え? まじ? えーっとぉ」
扉の模様にメダルを照らし合わせて悩む事数分、最後のメダルをセットすると、どこかからゴゴゴゴと音と言うか振動が伝わってきて、3人が立っていた石の踏み台が後方に動き出し、地下への階段が現れた。
「そっちかー」
地下の通路には魔物などが住みついていて、それらを退治しながらの道中となった。
その時である。
「死ねシュティーナ・ルーマン!!」
聞き覚えのある声と共に青白い閃光が瞬き、爆風が吹き荒れた。
ティナの対「遠距離範囲攻撃」迎撃スキルだ。
拳圧によって圧縮された大気が亜光速に達したことで空間が剪断され、空間と空間の衝突と摩擦、さらに空間が元に戻ろうとする力によって生じたエネルギーが超高熱と、それに伴う爆風を発生させた。
いきなり攻撃してきたのは、王都を訪れた時にティナを手籠にしようとして返り討ちにされたスヴェン王子だろう。
跡形もなく消滅したので確認のしようがないが。
ティナが魔法を使えない事をしっている王子が狭い通路で範囲攻撃を放てば倒せるだろうと言う安易な行動に出たのであろうが、ティナとてスキルを持っているのだった。
むしろティナの戦闘は通常の突きから回避まで全てスキルと言ったほうが正しいだろう。
低い筋力や俊敏性でも戦闘となると他者を圧倒できるのはスキルの賜物だ。
防御力と言うステータスはほぼ無いが、現在では基本動作スキルの組み合わせである、カタスキルを使用することで、敵の攻撃を無効化することすら出来るのだ。
「あー、咄嗟にやってしまった…」
「正当防衛です」
「証拠はないね」
ファンタジー核融合が起こったが、グレタやシェスティンのスキルによって保護されていたため通路が崩壊したり放射能で汚染されたりはしていない。誰かが居た痕跡も無かった。
気を取り直して進むと、広めの空間に出たが、古くなって朽ちたのか、入り口の扉の様に誰かが破壊したのか、天井が落ちて空が見えていた。
王子はこちら側から侵入して待ち構えていたのだろう。
「うーん、宝物とかはもう残ってなさそうだねぇ」
「でも、凄く冒険だったよ」
「そうだね。結構面白かったし、シェスティンが満足できたなら良いか」
帰りは天井の穴から出ることにした。
もちろんティナはグレタに抱えられて。
近くの街に着くと、近衛騎士団副団長ジークフリート・ニーベリと、その部下の近衛騎士マルグレット・イェフォーシュと鉢合わせした。
「これはシュティーナ・ルーマン嬢、いや、今はティナ殿と呼んだ方が良いのかな」
ジークフリートの方から話しかけてきた。
「いや、今の私は一介の冒険者なので…、あ、でも、貴方から名前を呼び捨てにされるのはイヤですね…」
「心外だな。よからぬ事はしないぞ」
「そうでしょうけど…」
後ろの女性騎士がすごい顔をしているぞ、とは言わない。
「近衛騎士の貴方がたがぁ…」
目を逸らすティナ。
「コンナトコロデドウシタノデスカ?」
「その様子だと既に始末してしまった様だな。手間をかけて済まなかった」
「良いのですか?」
「ああ、アレでも王太子だからな。死ぬと自動的にリスポーンする魔法がかけられている。今頃王城で陛下に怒られている頃だろう」
「ああ、便利なものがあるんですね…」
「便利などと言えるほど、安い魔法ではないがな…」
一時的にとは言え合流した一行は食事をしながら詳しい話をする事になった。
王子の件はぶっちゃけティナも良く分かっていない。
そちらかと言うと、女性騎士マルグレット・イェフォーシュの誤解を解くための会食となったが、自覚のない副団長ジークフリートのために困難を極めるのであった。
地図になかったり墓荒らしだったりするゲームっぽいのが書きたかったのです