22話:邪竜ちゃんと川の石
赤い木炭はどうやら、木炭に火の魔石が混じっているようだ。
赤い木炭を数個かまどに放り込んで火を点けてみた。
するとじじじじじと加熱されるうちに火がまとまりどんどんと大きくなり、火柱がねぐらの天井まで噴き上がった。
「うわぁ! 火の精霊さま! 火を弱めてくださぁい!」
かまどに棲み着いた火の猪精霊さまに、僕が慌ててお願いをすると、火柱はするすると小さくなった。
ふぅ、驚いた。火の精霊さまが勢いよくしたわけじゃないよね?
この様子だと、1個か2個くらいで十分そうだ。
かまどで使うには反って不便。火力を調整できる火の精霊さまがいて良かった。
僕が料理で慌てている間、邪竜ちゃんはねぐらの奥でごろごろしていた。
時々「ぎゅふふふ」と声が漏れ聞こえてくる。
邪竜ちゃんには秘密がある。
ドラゴンは金銀財宝を集めると言われている。
町の吟遊詩人が歌うドラゴン討伐の英雄譚も、ねぐらには持ち帰りきれないほどの金貨と宝石と装飾品で溢れかえっていたようだ。
北から流れてきた最新の物語では、風の魔法で酒精を吸わせて寝かせることで、首が8本もあるドラゴンを討伐したと言う。やっぱりどこのドラゴンも酔っ払うとふにゃふにゃになるのかな。
それはさておき、邪竜ちゃんのねぐらの奥にも、邪竜ちゃんの秘密のお宝が隠されている。
それは、川で拾った綺麗な小石コレクションだ。
黒くて丸くてすべすべした石や、光に当てると模様がキラキラ輝く石、錆びた青銅のような碧い石、うんちの形をした石。
今日の邪竜ちゃんはそれらを取り出して、長方形の木の箱の上に並べて眺めていた。
邪竜ちゃんが話しかけて欲しそうに、ちらちらとこちらを覗き見た。
僕は紅蓮芋のスープの鍋を火にかけると、邪竜ちゃんに何をしているのかを尋ねてみた。すると。
『いらっしゃいませ~』
お店屋さんをしていたようだ。どうやら、魔女さまの家を真似しているようだ。
魔女さまの家には、普通のお店のように薬が陳列されていた。
こんな人里離れた所なのに、普通の薬師の店のように小綺麗なお店になっていた。
家にいなかった姉弟子は自由奔放であちこち旅をして、魔法を探求しているとか。そして妹弟子は逆に薬の調合にこだわり店の真似事をしていると、魔女さまは嘆いていた。
魔女さまの店はお弟子さんの趣味であった。
『何をお求めでしょか~。こちらがおすすめでしょ~』
邪竜ちゃんが僕にうんちの形をした石をおすすめしてきた。
「おいくらですか?」
『金貨500枚ですなの』
たっか! うんちの石たっか!
『だけど、今日は特別に、金貨1枚でいいなの』
その妙な語尾もちょっと気になるけど、僕は邪竜ちゃんに葉っぱを1枚渡してみた。
『おきゃくさま。これは銅貨なの。しねなの』
ええ!? 硬貨を間違えただけで死ねなんて言われるだなんて、どんなお店なの!?
……まあ宝石店で銅貨を出したら言われるかもしれないけど。
「金貨持ってないよ」
『じゃあ銅貨1枚でいいの。お買い上げありがとなの』
「わ、わぁい」
うんちの形の石を銅貨という名の葉っぱ1枚で購入した。
僕はその石をかまどの横に置いておくとして、スープの灰汁を取らないと。
『いらっしゃいませ~』
あ、まだ続いてた。
『今日はもう閉店です』
「それなら話しかけないでよもう」
『ひひひっ』
邪竜ちゃんは並べた小石を木の箱の中に仕舞い、谷底の川へ下りていった。
「ちょっとぉ。もうすぐご飯だよぉ!」
籠を編みながら、赤い木炭の使いみちを考えていると、びしょ濡れの邪竜ちゃんが両手に石を抱え、得意気な顔をして帰ってきた。
『見て見て~』
「いっぱい採って来たね」
邪竜ちゃんが木の箱の上に、採ってきた石を並べるのを横目で見て驚いた。
黄色く透き通る魔石が混じっていた。
「わぁ凄い! それ森の魔石じゃない?」
『にへへ。一番おいしそー』
べっこう飴みたいな魔石の中には、淡く光るキノコが入っていた。
邪竜ちゃんも飴みたいだと思ったのか、べろべろと森の魔石を舐め始めた。
「邪竜ちゃん。飴じゃないんだから美味しくないよ」
『ざんねん』
その途端に興味を無くしたのか、ぽいと投げ捨ててしまった。
あわわ、もったいない。
僕はそれを大事に拾って、木の箱に置き戻した。
「お宝は大事にしなきゃダメだよ」
『ついつい』
こんな綺麗な森の魔石なら、魔女さまに見せたらチョコレートと交換してくれそう。
他の石は……僕にはわからないけど。
『あらたしいの、入荷しました~』
「うーん、じゃあ。このお芋スープと交換してくれる?」
『お芋スープと交換らと、こちらなの』
ううん。なんだろうこの石。うにょうにょっとした形の石で……。
「あっ! もしかして竜の形!?」
『うんちですなの』
「うんちかよ!」
かまどの横にうんちの石が2つ並んだ。




