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15話:邪竜ちゃんと火の精霊さま

 邪竜山の中腹にある、切り立った谷の横穴の邪竜様のねぐら。

 その谷には渓流が流れている。

 だけど渓流というには幅が広く、底が深い。いわゆる川の様相だ。その理由は邪竜様の水浴びによって削り取られたからであろう。流れが緩やかなのでここには魚も沢山いる。

 そして水辺には青い水晶が幻想的な光を放っている。

 僕は邪竜ちゃんに背中を押されないか警戒しながら、桶で川の水を汲む。

 そして川の水を鍋に入れ、火にかけて沸かすのだが、火を起こすための火の魔石を使い切ってしまっていた。


「邪竜ちゃん、ちょっとどいて」

「んあー」


 洞窟の奥の邪竜ちゃんの尻尾の先を引っ張る。もちろん僕の力で動くはずはない。邪竜ちゃんは触られるのを嫌がって、ごろりんと一回転した。

 洞窟の壁には赤い六角柱の水晶が生えている。これが火の魔石だ。

 最初はなぜこんなところに魔石ができるのか不思議であった。邪竜山か、邪竜ちゃんの不思議パワーだと思っていた。

 事実そのとおりだった。

 邪竜ちゃんの寝息に炎が混じり、それが壁に当たって魔石となっているようだった。


「ではいただきます。精霊さま」


 村では理由なく魔石を採る行為は重罪である。魔石には精霊が宿ると言われているからだ。村の広場で逆さ吊りにされてお尻ペンペンされるのだ。

 だけど、火起こしに必要だから、採ってもいいよね。

 僕は邪竜ちゃんの爪ナイフを使って、ゆっくりと壁を削っていく。魔石は表面上に付いているだけではなく、根を生やすように土の中に埋まっているのだ。

 ごりごりごりと根気よく続けて、一個の僕の腕くらいの大きさの火の魔石が取れた。魔石の中は炎の揺らめきのように赤く光輝いている。

 僕はそれを洞窟の入り口のかまどへ慎重に運ぶ。落としたりしたら大変だ。

 かまどはちゃんとしたものを作った。

 耳長族からセメントブロックをいくつか貰い、それを積んだのだ。平らなので寸胴鍋が安定した。


「よいしょっと」


 かまどの横に火の魔石の原石を置き、根っこの部分をこりこりと石で擦って削り取る。

 その削り滓を石で叩くとぱぁんと火花が咲いて、火口(ほくち)は火種となった。

 かまどに火が灯ると、火の魔石の原石がぱぁと明るく光り輝き、その光がかまどに吸い込まれていった。


「な……なに?」


 火の粉のような光が飛び出して、くるりくるりとかまどの上を回っている。

 僕が手を伸ばすと、逃げるようにかまどの中に戻っていった。


「火の精霊さま……なのかな?」


 よくわからないけど、火の精霊さまは魔石の中からかまどにすみかを移したみたい。

 火の魔石の原石からは、揺らめくような灯りは消えていた。

 そして火の精霊さまが宿ったかまどは、今までよりも長く明るく保っていることに僕は気がついた。

 気まぐれでスープを温め直す時に、「火を弱くしてー」と呟いてみたら、不思議なことに本当に薪から上がる炎が弱まったのだ。


「便利だなぁ。精霊さまを便利扱いしていいのかな」


 ちょっと不安になる。

 邪竜ちゃんみたいに変ないたずらしないといいのだけど。

 僕がかまどの火をじっと見つめていると、邪竜ちゃんの顎が僕の頭の上に乗せてきた。

 すると驚いた火の精霊はかまどから魔石の原石にするりと戻ってしまった。


「驚かせちゃダメだよ?」

『なんか、いたー』


 邪竜ちゃんにも火の精霊さまが見えたみたい。

 火の精霊さまが宿った魔石を鼻先でころころと転がした。


「こらこら。精霊さまをいじめちゃだめだよ」

『ひひひっ』


 魔石から火の精霊さまがぽんと飛び出して、邪竜の鼻先で炎がぶわっと巻き上がった。

 邪竜ちゃんの鼻先が焦げるようなことはないけれど、その刺激でぶえっくしょんとくしゃみをした。炎のくしゃみだった。


「うわー! 火事になるー!」


 猪の毛皮に火が付いた。

 僕は慌てて桶の水をかけるも、邪竜ちゃんの魔法の炎はそれだけでは消えなかった。

 僕は邪竜ちゃんから火の魔石を取り返して、火の精霊さまに願った。


「火を消してー!」


 すると燃え盛る炎は精霊さまに吸い込まれていき、後には灰になった毛皮と、ちょっと焦げた木の箱が残った。

 邪竜ちゃんの炎を吸って大きくなった火の精霊さまは、火の玉がぐねぐねと姿を変えた。そしてぽんと小さなウリ坊に成った。


「あ、かわいい」


 身体からちりちりと火を燻ぶらせているウリ坊は、とことことかまどの隣へ歩いていき、ごろんと寝そべった。

 燃える猪の毛皮の炎を吸って、猪になっちゃったのかな?

 そんなウリ坊の姿を見て、邪竜ちゃんは再び目を輝かせた。


「食べちゃだめだよ邪竜ちゃん!」


 不思議な火の精霊となったウリ坊ちゃん。邪竜ちゃんの牙を見て、かまどの火の中に逃げ込んだ。

 僕は邪竜ちゃんを牽制しながら、毛皮の跡を片付けた。

 あの毛皮、いい寝床だったのになぁ。


「ねえ邪竜ちゃん。また猪を獲りにいかない?」


 僕がそう提案すると、邪竜ちゃんはふんすと鼻息を吹いてやる気を見せて、僕を掴んで飛び立った。

 途中で『はちゅみつー』と言ってきたけど、「山から蜂がいなくなっちゃうよ」と叱りつける。

 邪竜ちゃんが我慢ができなくなった時のために、町で甘いものを買っておこうかなぁ。

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