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12話:邪竜ちゃんと赤熊

 耳長族の子の怪我した足に腫れを抑える薬草を塗り、真新しい布を巻いた。

 邪竜ちゃんは新しいおもちゃを見つけたといった感じで目を輝かせ、顎で耳長族の子の突っついた。

 その度にこの子はびくんと身体を強張らせた。


「いじめちゃダメだよ」

「ぎゅひひっ」

「アゥゥ……」


 その後、ご飯を食べながら、聞き慣れない耳長族の言葉で話を聞くと、子どもたちで採取で邪竜山に近づいたら、凶暴な手負いの赤熊に襲われたようだ。

 慌てて逃げた耳長族の子の服はボロボロになっていて、そのままじゃ寒そうなので僕は耳長族の子に脱皮コートを着せた。

 明日の朝までゆっくり寝かせて上げたいけれど、邪竜ちゃんが鼻息を吹きかけ邪魔をした。

 僕は巫女装束の貫頭衣を羽織り、邪竜ちゃんを外に誘った。


「また狩りを手伝ってよ。お肉食べよう?」

『おにきゅー』


 思いの外、邪竜ちゃんは簡単に釣れた。最近のスープのお肉少なめが嫌だったようだ。


「そうだ。夕飯は熊肉にしようよ。手負いの赤熊の」

『めんどー』

「耳長族の人たち困ってるだろうなぁ。邪竜ちゃんがやっつけてくれたらかっこいいのになぁ」

『かっこいい?』


 焚きつけると、邪竜ちゃんは僕を左手で掴まえて向こう山に飛び立った。


「邪竜ちゃん! そっちじゃないよ!」


 町の近くの街道に出て首を傾げる邪竜ちゃん。

 下ではまた騒ぎになりはじめた、慌てて引き返えさせた。

 邪竜山へ逆戻りして先へ進むと、深い森の中からパァンと乾いた銃声が聞こえてきた。こんな上空まで聞こえるくらいだからすぐ近くだ。


「きっと赤熊と戦ってるんだ! 下りよう!」

『ふふーん』


 邪竜ちゃんは森へ急降下した。僕は恐怖で目を回す。

 木々の葉の中をずぼっと抜けて、地面へ降り立ち、僕はぽいと捨てられて、ごろごろと森の中を転がった。


「グオドラグゥ!? ヌンディコナトキヌィ!」


 なんてこった。

 邪竜ちゃんは本当に目の前に降り立ってしまった。

 今まさに耳長族の複数人が猟銃を手に、手負いの赤熊と戦っているところであった。

 そして猟銃は邪竜ちゃんに向けられ、パパパンと込められた弾が発射された。

 邪竜ちゃんがぶんと尻尾を振ると、銃弾はべしんと跳ね飛ばされ、僕の足元の土にめり込んだ。


「ちょっと! 何するの!」


 今度は興奮状態の赤熊が、両手を上げて立ち上がり「グオオ」と吠えて、邪竜ちゃんに殴りかかった。その体躯は邪竜ちゃんと同じくらいある。

 赤熊はその巨大な爪で引っ掻こうとした。だが邪竜ちゃんも同じように爪を振るった。

 そして手負いの赤熊の胸は、深く切り裂かれ、赤い血を森の中に噴き出した。


「ぎゃっはー!」


 邪竜ちゃんの勝利の叫びで、逃げ出そうとした耳長族は、森の民とは思えない足取りで木の根っこに引っかかり、ごろごろごろと転がった。


『かっこいい?』

「みんな! ちょっと、待つ!」


 邪竜ちゃんは置いといて、僕は耳長族に近づいた。

 耳長族は僕の姿を見て目を見開き、その中の一人が「ミコ?」と尋ねた。どうやら邪竜村との交易で竜殿の巫女を見たことがある人のようだ。

 僕はいま、巫女服を着ているから。


「はい。邪竜ちゃんはかっこいいか尋ねてるので、褒めてあげてください」

「ハ?」


 僕は邪竜ちゃんに大きく手を挙げて拍手した。

 耳長族も戸惑いながら、僕に続いて拍手をした。


「むふー」


 危ないところだった。あのまま耳長族を逃していたら、邪竜ちゃんは機嫌を損ねていた。

 きっとこれで大丈夫だろう。ちょっと得意気になりすぎて、火を吹き出しそうだけど。


『おにく持って帰るー』

「待って。その前にちょっとお話していくから」

『かっこいい?』

「かっこいー!」


 耳長族の方々も僕に続いて「カッコイー」と邪竜ちゃんを褒め称えた。


「ふひひっ」

「ドユコト?」

「ええっと……」


 僕は簡潔に、耳長族の怪我した子を保護したことと、その子から話を聞いて赤熊を退治しに来たことを伝えた。

 あと一番大事な事。赤熊はご飯になるので持って帰るということを話した。


「アカグマノ、アタマ、ホシイ。タオシタ、アカシ」

「わかりました。邪竜ちゃん。かっこいい爪で赤熊の首を斬るところが見たいなぁ!」

『むぅ?』

「お嬢様! この人たちは赤熊の首を持って、みんなに邪竜ちゃんのかっこよさを広めたいって!」

『かっこいい?』


 邪竜ちゃんはすぱっと爪で赤熊の首を一断した。

 そして得意気に胸を張り、鼻息に火が混じりそうだ。

 その姿を僕たちは褒め称える。


「すごーい!」

「スゴーイ!」

「ステキー!」

「カッコイー!」


 邪竜ちゃんが興奮して尻尾をぶんぶん振っている隙に、耳長族は赤熊の首を布で包んだ。


『かっこいい!』


 邪竜ちゃんは翼を広げて、赤熊の身体を両手で掴まえ飛び立った。


「力持ちー!」

「オモチー!」

「オイシー!」

「キラメキー!」


 ちょっとよくわからない褒め言葉を耳長族は叫んでいたけど、邪竜ちゃんは満足したらしい。

 満足させすぎた。

 邪竜ちゃんはそのままねぐらに向かって飛んでいった。


「置いていかれた……」

「ダイジョブ?」


 ちょっとぉ! 邪竜ちゃん!

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