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冒険ダンジョンズ  作者: 木野
第一迷宮  夢跡の墓所
10/11

第十話 墓所の宝

書くペースを早め過ぎて、十分に推敲出来なかった事もあって、不十分な描写や設定が甘い部分が多々ありました。

特に第九話から先の話に関しては修正したい箇所が多く、あらすじは変えませんが、これから細部を直していこうと思います。


「やりましたよ、ユラさん! 探索をする許可を貰った上にユラさんの同行も認めてくれました!」


「………それは良かった。 あの優柔不断の守護官の事だから渋る可能性もあると思っていたのだが」


「そこはやっぱり目の前で力を見せた事が効いたようです。 でも硬貨当ては、例え力を使って硬貨の大きさが分かっても、硬貨が磨り減っていたりして外すこともあるので気が気がでありませんでしたが、上手く行きました。 やっぱり私……、いえ、私達は何か持っていますよ!」


「日取りは決まったのか?」


「はい、明日の真夜中、一ツの鐘が鳴る頃に地下墓所に入ることになりました。 準備や根回しは守護官がしてくれるそうです。 守護局が奴隷である私を無理に行かせたという評判が立つとまずいので、形式上は局員であるユラさん一人が調査を志願した事にして欲しいと。 私も表向きは耳がいい事を評価され、地下墓所の入口付近で待機して、ユラさんに異常が起きた際、直ぐに察知して地上へ知らせる安全な仕事につく、という事になっています」


「なる程。 局員であるおれが自ら志願した事にすれば、もし不測の事態が起きても不名誉な評判は避けられる、という訳か。 お前がもし死亡した場合は、お前が言いつけを破って、おれを心配し勝手に墓地の奥へと入った事にすればいいしな」


ピサからの地下墓所探索の許可を得た後に、ミクリアが真っ先に向かったのはカルカサ守護局に事務方として勤めているユラという女性の元だった。

二十代半ばの年齢であり、暗い赤毛の髪を後ろに束ねた、化粧気のない女性だ。

背は女性にしてはかなり高く、細面気味の肉付きの少ない顔をしている。

鋭い目と鋭く伸びた眉が冷徹な印象を与えており、老けているという意味ではないが、年長に見られる事もしばしばあった。


自分の事をおれと称するのと同じく、衣服も男性が着るようなものを着ており、中性的な男性にも見える容姿だ。


「ユラさんの読み通りになりましたね。 例え奴隷とはいえ、私の力を見せれば探索を許可してくれるかも知れないって」


「守護官も地下墓所の情報が欲しいのには違いない。 もしおれが守護官なら、成功する見込みがあるとなれば相手が奴隷でも使える者は使いたいだろう」


「……でも結局ユラさんに一緒に行ってもらう事になりましたが、本当に良かったんですか?」


「ああ………。 どうせもうおれが死んでも悲しむ者もいないのだ。 この命、お前にくれてやっても惜しくはない」


「……命を貰う気はありませんよ。 宝も山分けですし、一緒に命を賭けるなら二人で生きるか、二人で死ぬかのどちらかです。 相棒っていうのはそういうものだと教えられました」


「………そうか、心得ておこう」


ユラが彼女と出会ったのは五ヶ月程も前の事になるか。

実はユラもミクリアと同じく、ここカルカサで働くようになったのは半年程前からの事であり、働き始めた当時はある事情もあって、次々と問題行動を起こす、守護局の鼻つまみ者だった。


仕事は一応きちんとこなすが、毎夜街に繰り出しては大酒を飲み、血気盛んな若い連中を相手に意味もなく喧嘩を売る。

そういう時の彼女は例え十人が相手であろうと一歩も引かず相手を投げ、蹴り付け、殴り倒す。

その強さは、事務方の局員でありながら、並大抵の兵士では到底叶わない程のものだった。


当然いかに彼女の強さが女性としてはかなり非凡なものだといっても、複数を相手にすれば自分も少なからず傷を負う。


しかし彼女は肉が裂け、血が吹き出ようと一向に構わず相手に罵声を浴びせて立ち向かった。

まるで死兵のような鬼気迫る姿に、どんなに悪名高いごろつきでも戦意を喪失して逃げてしまう程だった。


流石に守護局の中でもユラに苦言を呈そうとした者はいたが、ユラは就職する際、カルカサを統治する執務局の上級役人の縁故を伝ってきた為、その後ろ盾を気にしてあまり強くは出られない。


結局、彼女の破滅へと突き進むような行いは止むところを知らず、守護局の中でも腫れ物扱いになっていた。


だが、その中で奴隷の身でありながらやけにユラに構ってきたのがミクリアであった。

酒の入っていない時はひどく陰鬱そうに俯きながら仕事をしていたユラの何が気に入ったのか、にこにこと笑いながら接し、忙しいであろう台所仕事の合間に訪れてきては、聞いてもいないのに自分の夢を語りだす。


奴隷解放の制度があるとは言っても、その権限は主にあり、一生を奴隷のままで過ごすことも珍しくはない。

その点、公共奴隷は皇帝の代替わりの記念などで解放されることも多く、真面目に働いていれば普通の奴隷よりは解放の望みが大きかった。


しかしミクリアは、まるで自分が解放されて自由になる未来が決まっているかのように、楽しげに自由民としての生活を語った。


とは言ってもミクリアが語ったのは絢爛たる邸宅、溺れるほどの美食、眩いまでの名声といったものではない。

全ての人がその生まれに囚われず、自分の生き方を自分で決められる世界を作りたい。


そんな奴隷の戯言としても酷すぎる夢物語を何の臆面もなく語るミクリアを、初めは嘲笑っていたユラだったが、いつしか彼女を憎からず思うようになり、その内に奴隷と自由民という立場を超えて友情を抱くまでになった。


何か特別な出来事があった訳ではない。

うまく言葉に出来ないが、彼女の何かが持つ魅力がいつの間にかユラを惹きつけていたのだろう。


今ではユラは酒もやめて素行も落ち着いており、ミクリアの事を無二の親友だと思っている。

出来ることならば、奴隷から解放してやりたいと考えているくらいだった。


「しかし本当なのか? その……、地下墓所の中に宝を見つけたと言うのは?」


「はい、地下とつながる幾つかの空気穴を伝って感覚を伸ばしてみたんですが、中には亡者の他に色々な宝石や貴金属らしき物があるようでした。 どうして亡者が現れたのか、なぜ金目の物が置かれているのかは分かりませんが、これはチャンスではないですか? 」


「ん……、まあ確かに、纏まった金があればおれもお前を解放してやれるな。 何せ守護局の給料は安いから……」


ミクリアがピサの目前で述べた、正しき道を選び取る権能というのはハッタリだが、ミクリアが不思議な力を持っているというのは嘘ではない。

まだ幼い頃、ミクリアは住んでいた村の近くの森で黄色く光る不思議な結晶を拾ったらしい。


幼いミクリアは、その綺麗な結晶が飴玉のように見えたのか口に放り込んでしまい、次の瞬間には結晶は急激に液状に変化して喉の奥へと滑り落ちた。


彼女はそれを境として、第六の感覚器とでも言うべき不思議な力を手にしたのだ。

第六の感覚器は、普段は体を中心とした三メートル程の球形に分布しており、その範囲内に入った物体の形を知覚する事が出来る。


その感覚器は意識的に動かすことも可能で、細く長く伸ばすことで三十メートル先の物体の形も把握可能だった。


人とは違う力は迫害を受けるという事はミクリア自身、力を得てから今までの人生の中で理解しており、これまでカルカサではユラにしかこの力の事を打ち明けていなかった。


もしサイコロ博打やカードゲームにこの力が利用できれば、ユラの力も借りる事で、奴隷からの解放を勝ち取る事は容易だっただろうが、この能力ではサイコロの目の僅かな窪みや、カードの色までは知ることが出来ず、ギャンブルには使えなかった。



しかし今回の事件が起こり、守護局が墓所内部の調査を躊躇っているという状況をユラは千載一遇の好機と捉えた。

ミクリアの能力で感覚器を伸ばして調査を行えば、安全に情報を得ることが可能であり、ピサにミクリアの能力の事を明かして、調査協力と引き換えに奴隷からの解放を交渉しようと考えたのだ。


だが本当にミクリアの力で墓所内部の十分な調査が可能なのかはまだ未知数であり、一度出来ると大見得を切っておいて結局失敗したのではミクリアの立場が更に悪くなる。


そこでまずは地下墓所へと繋がる空気穴を使って実験してみたのだ。


カルカサの地下墓所では儀礼の際に線香や蝋燭が使用される事もあり、換気対策として、陶製のパイプを地面に埋め込んで地上との間に空気の通り道を複数作っている。

ダンジョンは入口が一つだけの封鎖空間である必要があるが、鼠一匹がやっと通れるくらいの小さな空気穴は入口としての判定に引っかからなかったのだ。


ミクリアはそれらの空気穴から感覚器を伸ばして地下墓所を探っている内に、内部に宝らしきものを発見した。

解放後の為に、それを手に入れたかったミクリア達は計画を変更し、ピサに能力の事を少しのブラフを交えて説明して内部への調査許可を手に入れた。


「さあ、明日、明日全てが決まります」


「ああ」


自分自身に言い聞かせるように呟いたミクリアに同意したユラだが、彼女の心には大きな不安もある。


(場所からして入口付近に宝は存在するとミクリアは言うが、内部の亡者に関しては未だ不明だ。 闘技場で目を負傷してから、かつての剣は失ってしまったし、今のおれに強敵と戦う力があるかどうか……)


兵士だったユラの父は、ユラが十五の頃に他に女を作りどこかへ消えてしまい、母は病を得て、一年程前に死んでしまった。

兄弟もいなければ、ミクリアの他には特に親しい友人もいないユラには特にこの世に心残りがある訳ではない。

地下墓所の探索に乗った理由も、宝が欲しかったというよりは、友人の為に戦い死ぬのも別にいいか――、という一種の虚無的な動機によるものだ。

未来への希望を抱くミクリアとは違い、ユラは既に生きがいを失い、死を見つめながら生きていた。


「ユラさんは、もしお金が手に入ったら何がしたいですか? 私はエルトリアに帰る旅費があれば十分なので、それ以外はユラさんが取ってください」


「いや……、もっと持っていけ。 おれは別に金を手にして何かをしたい訳でもない」


「ユラさんの性格を考えれば分かりますけど……、でも私もエルトリアでの用事を終えるまでは他の事は出来ませんからね……。 あ、そうだ! もし私の用事が片付いて、その後に会うことが出来たなら二人で商売でも始めません? 私の故郷では平民がのし上がる事なんて殆ど無理ですが、このバイツライト帝国なら金さえあれば元奴隷だろうが、どんな生まれだろうが王様みたいな扱いをしてくれますから」


「………はは、それはいいな。 まあ帝国も大概格差が酷いが、確かに金さえあればどんな出自だろうと貴族のような暮らしが出来る」


「ええ、金と能力が支配する帝国の方が、神の代弁者を騙る糞坊主が支配する神聖連合より余程マシです」


「……何ならおれもエルトリアに同行しようか。 特にこの仕事に未練もないし、やりたい事もないしな」


「あー……、いえ、それはやめておきましょう。 これは私がやらなければいけない事です。 私の夢でもありますから」


「そう、か」


ミクリアはエルトリアというプサイ神聖連合に連なる国家の出身だと言うが、その来歴を聞こうとするとはぐらかされてまともに答えてくれた事はない。

ユラも人が話したくない事を無理やり問いただす程に邪推が逞しい性格では無いので、それ以上聞こうとはしなかった。


様々な人間の思惑が絡み合いながらも、初の内部調査は始まろうとしていた。




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