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第7話 【精霊騎士】、炎の魔神【イフリート】で干し肉を焼く

「【北の魔王】との戦争が終わって大局的には平和が訪れたんだけどさ。でもそれは同時に、大量の兵士や傭兵が失業するっていう事態を招いたんだ」


「あ……」


 もちろん帝国だって馬鹿じゃない。

 公共事業や就労支援、住まい・食事の提供といった様々な支援策を矢継ぎ早に打ち出し、治安の維持に努めてはいた。


 それでも――、


「【専門の職業傭兵(スペシャリスト)】とは違う、目先の金欲しさに傭兵に鞍替(くらが)えした一部の心ない奴らが戦後に盗賊や野盗になり下がって、近隣で略奪行為を働くようになったんだ。俺も過去に何度か、野盗狩りに出向いたことがある」


 せっかく長年の脅威だった【北の魔王】を討伐したっていうのに、今度は人間同士でいさかいが起きる――悲しすぎる現実だった。


「それで先ほども野盗の対処に手慣れていたのですね。納得です」


 俺の説明にミスティが納得顔でポンと手を打った。

 とりあえずは今の説明でいろいろガッテンしていただけたみたいだ。


「悪いな、人間族の事情でお前らに迷惑をかけちまって」

「構わぬよ。こういうことはゼロにはできぬもの。お互い様なのじゃ」


 ここまで聞きに徹していた幼女魔王さまが、いかにも統治者っぽくいい感じに話を締めた――締めようとして、


 グ~~~~~~。


 幼女魔王さまのお腹が派手に鳴った。

 それはもう派手に鳴った。


 よほど恥ずかしかったのか、幼女魔王さまの顔が真っ赤に染まる。


「んーと、腹が減ってるのか? 飯は? 持ってないのか?」


「先ほど野盗から逃げる(おり)、少しでも荷を軽くするためにと全部投げ捨てたのじゃ……」


「つまり腹は減ったが食い物はないと」

 俺のその言葉に、


 グ~~~~~~~。


 返事の代わりにまたもや幼女魔王さまのお腹が鳴り、顔だけでなく耳まで真っ赤っ赤に染まってしまったのだった。


「一応、干し肉ならあるけど、よかったら食べるか?」


「干し肉ぅ?」

 俺の提案に対して、めっちゃ嫌そうに反応する幼女魔王さま。


 「ほしにくぅ~?」って感じのイントネーションだ。


 まぁ気持ちは分からないでもない。

 保存食として大変優れている代わりに硬くて堅くて固い、なんせ食べにくいのが干し肉という食べ物だからな。


 魔王さまともなれば、市販の干し肉なんてそりゃブタの餌も同じだろう。


 だがしかし!

 ここにいる俺ハルト・カミカゼはレアジョブ【精霊騎士】なのだ!

 俺には干し肉を上手に料理するマル秘テクがあった。


 俺は干し肉のブロックを何枚かやや厚めに切り落とすと、


「ま、ちょっと見てな。【ウンディーネ】、【清浄なる水(ミネラルウォーター)】発動だ!」


 ――まかせて――


 俺の言葉と共に、干し肉に清浄な水がしみ込んでゆく。


「なっ、水の最上位精霊【ウンディーネ】じゃと!?」

 幼女魔王さまが素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げた。


 だがこれはいわば準備段階に過ぎない。

 本番はここからだ!


「【イフリート】! 【いい感じに焼け(ミディアムレア)】!」


 ――心得た――


「今度は【イフリート】!? 炎の魔神とも呼ばれる神話級の炎の最上位精霊ではないかっ!?」

 幼女魔王さまが平原で狼に囲まれたのかと思うような、悲鳴のような声を上げた。


 すぐに水分を含んだ干し肉がじゅわ~~っといい感じに焼け始め、あたりに香ばしい匂いが漂い始める。

 ちなみに【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】をフライパン代わりにしていた。


「しかもその、いかにもいわくありげな黒剣の上で焼き始めたじゃと!?」


「ああこれ? 【聖剣】と並ぶ【第一位階】の剣で、【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】っていうんだ。始原の破壊精霊【シ・ヴァ】をその黒き刃に封印したと言われる最強の精霊剣なんだよ」


「始原精霊を封印した最強の精霊剣じゃと!? しかもそれをフライパンに!?」


「この上で焼くと遠赤外線効果で熱が奥までしっかり伝わるんだよな~」


「ミスティよ、こやつはいったい何を言っておるのじゃ!?」


「魔王さま! お気を確かに――!」

 なぜか卒倒しかけた幼女魔王さまを、ミスティが慌てて抱き支えた。


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