第60話 「お背中流しますね」
脱衣所ではお互いに裸を見てしまわないように、背中合わせで服を脱いでから。
先にパパっと裸になった俺は早速、家族風呂の中へと入っていった。
家族風呂は、3人で入るには割と広めな感じの石造りの温泉だった。
もちろん一般的な大浴場のように大きな温泉がいくつもある――ってなわけではないものの、良い感じにこじんまりとした石造りの温泉にはたいそう風情があって、
「すごく雰囲気があるなぁ」
これには俺も、満足顔で頷かざるを得なかった。
さすが【聖魔王】が愛用しただけのことはある。
俺はまず伝統と格式のかもしだす空気感を十分に楽しんでから、洗い場のイスに座ると身体を洗いはじめた。
温泉にかけ湯だけで入るのは俺的にはNGである。
もちろんその辺は人それぞれなので異論は認める。
あくまでこれは俺のジャスティスであるからして。
そんなことを考えながら身体を洗っていると、
「お背中流しますね」
続いて入ってきたミスティがそんなこと言ってきた。
「いや、いいよ。自分で洗うからさ」
「いえいえ。それにもうボディソープで泡々を作っちゃいましたから――えいっ!」
そう言うとミスティの手が、俺の返事を聞く前に直接俺の背中を泡々で撫で始めたのだ。
「ん――っ」
こそばゆさに一瞬ビクッとなって、思わず小さな声が漏れてしまった。
「たくましい背中ですね……男の人の背中って感じです」
「お、おう。そうか……なんか照れるな」
「あ、せっかくなので、後でわたしの背中も洗ってくれませんか? な、なんちゃって!?」
ミスティが冗談っぽく聞こえるように言った。
でも声が固かったので多分かなり緊張してるっぽかった。
「俺が、えっと、ミスティの背中を?」
「はい……あの、だめ……でしょうか?」
こわごわと尋ねてくるミスティの声を聞いていると、俺はなんだか無性に安心させてあげたくなって、
「せっかく家族風呂に入ってるんだし、後で交代しようか」
俺はついついそんなことを口走ってしまっていた。
「えへへ……ありがとうございます」
ミスティはミスティで、俺がそう言うとなんとも可愛らしくはにかんできて。
そのままお互いに黙り込んでしまって、何とも言えないむずがゆい空気が俺たちを優しく包んでいく。
「――ところで魔王さま。魔王さまは何で静かに見守るように見てるんだ? そんなとこで突っ立ってると身体が冷えるだろ?」
なぜか魔王さまが満足そうな顔で立ちんぼしていたのだ。
たちこめる湯煙のおかげで際どい所は見えないので、少しだけ安心だった。
「なーに、妾はそこまで野暮ではないのじゃよ。仲睦まじい2人の裸の付き合いを見守るのも、うむ、これまた魔王である妾の務めであろうな。眼福眼福」
幼女魔王さまがどや顔でそう言った。
「どんな務めだよ……小さい子を見守る母親じゃないんだからさ」
「子の成長を見守る母とな……うむ、言い得て妙なのじゃ」
「それに仲睦まじいって、別にそんなんじゃないだろ……いや仲はいいけどさ。まったくなに言ってんだよ、なぁミスティ?」
「えっと、あの、えへ、えへへ……」
俺の問いかけに、しかしミスティは曖昧に笑って返してきて。
そんなミスティの甘えたような姿が、いつにも増して可愛らしく感じられるというか、なんでか俺の方まで気恥ずかしくなってきて。
なんだろうこの気持ち。
よくわからないけど、嫌な気持ちでは決してなかった。
そんなこんなで最終的に幼女魔王さまも一緒になって身体を洗いっこしてから、俺たち3人は待ちに待った温泉につかることにした。




