第59話 新生【勇者パーティ】のリーダー?
新生【勇者パーティ】の俺たちは、幼女魔王さまにひきつれられて早速温泉へとやってきた――んだけど。
なぜか魔王さまとミスティは「大浴場」と書かれた入り口を素通りすると、そこから少し行った先にあるこぢんまりとした施設に入っていったのだ。
そしてそこにあった施設の表記を見て、俺はひどく動揺してしまった。
というのも――、
「家族風呂……だと……?」
そこは家族で一緒にお風呂を楽しむ専用の浴場だったからだ。
「うむ。家族風呂なら気兼ねすることなく3人で仲良く入れるじゃろ?」
「3人で? いや、あの、でも……な?」
「どうしたのじゃ?」
「いや百歩譲って相部屋はありとしても、嫁入り前の女子が男と混浴するのはさすがに問題だと思うんだけど……」
「まぁ待てハルトよ、考えても見るのじゃ」
「考えるも何も、そもそも俺たちは家族じゃないよな?」
「妾たちは確かに家族ではないの。それは認めるのじゃ」
「なら――」
「じゃが妾たちは、この国の【魔王】と新たなる【勇者】と救国の【精霊騎士】じゃ。そんな目立つことこの上ない妾たちがゆっくりしっぽり温泉に入れると、ハルトは思っておるのかの?」
「あ……」
魔王さまの指摘したことはしごくもっともだった。
「魔王さまは元から知られているとして、いまやハルト様も【南部魔国】中の人が知る有名人ですからね」
「そっくりの似顔絵が描かれたかわら版が、大量に出回っておるからの。周りにハルトとバレるのは時間の問題で、バレた途端に取り囲まれるであろうな」
「そっか……言われてみればそうかもな。帝国でも似たような感じだったから納得っちゃ納得か」
帝国にいたころ、よく酒場に繰り出していた俺は自分で言うのもなんだがかなりの有名人だった。
それこそ街を歩いていたらすぐに声をかけられるくらいに。
「そこでこの家族風呂というわけなのじゃ」
「確かに酒場でみんなでワーっと盛り上がるならいいけど、温泉にはゆっくり落ち着いて入りたいもんなぁ」
「太閤様もよく家族風呂で、ゆっくり気ままに入っていたそうですよ」
「とりあえず俺たちが目立ちすぎるってのは分かった。けどなぁ……」
俺がなおも渋っていると、
「ハルト様ハルト様、わたしたちはもう新生【勇者パーティ】の仲間です。そしてパーティの仲間はよく家族に例えられます。本当の家族ではないにしても、パーティという家族として一緒に家族風呂に入るのは、問題どころかむしろ自然ではないかと」
トドメのようにミスティがそんなことを言ってきて。
「まぁ魔王さまとミスティがいいんならいいんだけど」
「妾は別に構わんのじゃ」
「わたしもです」
「じゃあま、そういうことで。このパーティのリーダーはミスティだしな。ミスティの決定には従うよ」
【勇者パーティ】のリーダーは代々【勇者】が務めている。
これはいちいち説明するまでもなく、当たり前の話である。
当たり前の話のはず――だったんだけど、
「え、リーダーは魔王さまでは?」
ミスティはキョトンとした顔でそんなことを言った。
さらには、
「いや、リーダはハルトじゃろう? 能力的にも戦歴的にも群を抜いておるのじゃよ」
魔王さままでそんなことを言ってきて。
「いやいや、【勇者パーティ】のリーダーが【勇者】じゃなくてどうするんだよ?」
俺は当然の指摘をしたんだけど、
「わたしは魔王さまの護衛兼メイドですので、そうなるとやはりリーダーは魔王さまではないかと」
ミスティの意見もなるほど納得で、
「いや妾はぶっちぎりでパーティ最弱ゆえ、戦闘パーティのリーダーはちょっと荷が重すぎるのじゃ。というか、へっぽこすぎて正直恥ずかしいし。よってここはハルトに任せたいと思うのじゃ」
魔王さまの意見もこれまた一理あるように思えた。
「いやミスティが――」
「いや魔王さまが――」
「いやハルトが――」
しばらく堂々巡りをしてから、
「このまま風呂の前で話していてもしょうがない。とりあえず暫定的に、対外的には【勇者】ミスティがリーダー。内部的にはしばらくは俺が仮のリーダーってことで。でも基本的には話し合いで決めることにしよう」
「異存はないのじゃ」
「わたしもそれで構いません」
――とまぁそういうわけで。
決まっているようで実は決まっていなかった新生【勇者パーティ】のリーダーをついでに決めて。
そして3人部屋に泊まることになったのと同じように、俺はここでもやや押し切られるような形で、3人で家族風呂に入ることになってしまったのだった。




