第58話 一緒の部屋?
「なぁ……1つ質問良いかな?」
俺は宿泊する部屋に着いてすぐにそう言った。
「なんなのじゃ?」
先に部屋に入って、すみっこに荷物を下ろしていた幼女魔王さまが、入り口のところで立ったままな俺の方を振りかえる。
「チェックインした時にも『あれ、おかしいな?』って思ったんだけどさ」
「ふむ? なにかあったかの、ミスティ?」
「そうですね……あ、可愛い黒猫の子猫がカウンターで店番をしていた件では?」
「おお、あれは実に可愛かったの! 撫でると愛想よくにゃーんと鳴いたのじゃ。猫にお出迎えされたのは妾、初めての経験でほっこりしたのじゃよ」
看板娘ならぬ看板子猫。
まさか子猫がお出迎えしてくれるとは俺も思ってもみなかった。
人懐っこい猫の頭をそっと撫でてあげると、甘えてごろごろにゃーんしてきて可愛かったなぁ。
猫をマスコットアイドル化して店番に使うとは、さすが【ゲーゲンパレス】の最先端文化は奥が深い。
懸命に学んで分かった気になっても、そんな俺の想像の遥か上を当たり前のように行ってしまうのだから。
それはさておき。
「それも確かにびっくりしたけどな。でもそうじゃなくてだな」
「ふむ、子猫ではないと……ではいったい――というか何ゆえハルトは入り口で突っ立ったままなのじゃ?」
入り口で立ちんぼしている俺を見て、幼女魔王さまが首をかしげた。
「まさにそのことなんだけどさ」
「どのことなのじゃ?」
「なんでしょう?」
どうも幼女魔王さまもミスティも、まったく疑問を感じてないみたいだった。
せっかく温泉旅館に来たのに、話が進まないままこうやって突っ立ってるのもなんだな。
「じゃあずばり聞くけど――もしかして俺たち3人とも一緒の部屋なのか?」
チェックインの時、幼女魔王さまたちはこの部屋以外の鍵を受け取っていなかった。
そして目の前の部屋は、畳の敷かれた3,4人は楽に泊まれそうな大部屋だ。
つまり総合的かつ俯瞰的に判断するに3人一緒の相部屋――ということになってしまうわけで。
俺的にはこれは由々しき事態だと思ったんだけど――、
「そうじゃの。それがどうしたのじゃ?」
幼女魔王さまは、まだよくわからないって顔をするんだよ。
「どうしたもこうしたも、ほら俺は男で魔王さまとミスティは女だろ? 一緒の部屋って言うのはちょっとまずくないか?」
年頃の男女が一緒の部屋でお泊まりするというのは、果たして公序良俗的にいかがなものだろうか?
だって言うのに、
「妾たちは勇者パーティの仲間でもあるじゃろうて。パーティの仲間なら一緒に寝泊まりくらいするじゃろう?」
幼女魔王さまはそんなことを言うし、
「今回の温泉旅行は新パーティ結成にあたって、より親睦を深める意味もあるんですよ」
ミスティもいつものように変わらぬ態度で、補足説明をしてくれる。
「でも男女で部屋は分けるんじゃないかなぁ……それに俺がいると2人とも気を使うだろ? 着替えとかさ? 寝起きを見られたくないとかあるかなって」
「妾は別にそこまでは気にならんのじゃ」
「わたしもハルト様にならぜんぜん一緒で構いませんので!」
「え? あ、そうなの? まぁ良いっていうなら、良いんだけど……」
2人に良いと言われてしまったら、話はそこで終わってしまうわけで。
というわけで。
俺と幼女魔王さまとミスティは、同じ部屋で泊まることになってしまったのだった。
俺は荷物を持つと、2人のいる大部屋へと足を踏み入れる。
まあ俺が変な気を起こさなければ大丈夫だろう。
ほとんど同い年とは言え、年長者として自覚と節度をもって行動することにしよう。
部屋に入って荷物を置くと、すぐに見晴らしのいい眺望が目に入ってきた。
窓際に板間があってその先が窓になっていて、少しずつ秋めいてきた山の見事な景色が遠くに眺められるようになっているのだ。
紅葉のシーズンには、赤や黄色に染まった山々を見晴らすことができるんだろうな。
アイセルが淹れてくれたお茶を飲んで一服しながら、そんなことを思っていると、
「では落ち着いたところで早速、温泉に入りに行くのじゃ」
「ですね♪」
「賛成だ」
俺たちは温泉旅館の醍醐味、温泉旅館を温泉旅館たらしめる温泉へと向かった。




