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第11話 いらっしゃいませ、【ゲーゲンパレス】へようこそ!

「あれが【ゲーゲンパレス】か!」


 馬車に乗ること数時間。


 ミスティの巧みな手綱さばきによって街道をひた走る馬車から、俺は大きく身を乗り出すと、どんどんと近づいてくる大きな街を見渡して驚きの声を上げた。


「ハルト様、そんなに外に身体を出すと危ないですよ」


 御者台からミスティがそう心配の声をかけてくるけど、俺の場合落ちても風の最上位精霊【シルフィード】がいつでも助けてくれることもあって、その危機感は初冬に初めて張った薄氷(うすごおり)のように薄かった。


 それよりも今はこの美しい景色だろ!


 【ゲーゲンパレス】は南に穏やかな内海が見える港湾都市だった。


「あれが海だな、俺初めて見たよ! キラキラ綺麗で、あと半端なく大きいな! 海は世界一大きな池だって習ったけど、これはもう池なんてレベルじゃねーぞ!」


 俺が住んでいた帝国は大陸中央部に位置する内陸国家であり、俺が海を見るのはこれが初めての経験だ。

 そりゃはしゃぎもするというものだろう。


「喜んでくれて何よりじゃ。【ゲーゲンパレス】では海のほかにも観光産業に大きく力を入れておるからの。後日、色々案内(あない)するのじゃ」


「それは楽しみだな! (さわ)やかな海風が気持ちいいし、すごくいいとこだなぁ……もうこの時点で来て良かったって思えるよ!」


「ハルトよ、まだ着いてもおらぬのじゃぞ?」

「ハルト様は素直に思ったことを表現されますよね。とても素敵だと思いますよ」


 自分たちの街を褒められて、幼女魔王さまもミスティもニッコリ笑顔である。



 俺たちを乗せた馬車は城門を通って街に入ると、そのまま魔王さまの住む王宮へと向かった。


 そして出迎えられた魔王さま&ミスティと一緒に、俺も王宮の奥の方へと案内されたんだけど、


「――というわけなのじゃ。良きに計らうのじゃ」


 その途中で魔王さまから今日の一件の説明を受けた宮廷職員たちは、俺がまるでどこぞの王様であるかのように手厚くもてなしてくれたのだった。


 そうして俺は今、当面自由に使っていいと言われた自室にてまったりくつろいでいた。


 おそらく最上級かそれに近い、国賓(こくひん)待遇クラスのハイグレードな部屋だ。

 広いしベッドはふかふかだし調度品は高そうだし、部屋に大きな風呂までついているときた。


「うーん、歓迎してくれるのは嬉しいけど、つい先日まで庶民だった俺にはちょっともったいないな」


 何とはなしに窓から外を見ると、ベランダ越しにキラキラと光る海がよく見えて、またもや俺の興味をそそってくる。


「小舟がいっぱい出てるのは、魚をとっているのかな?」


 確か海に近い地域では生の魚を薄く切って食べる「刺身」という料理があると聞いたことがある。


「せっかく来たんだし刺身を食べてみたいな。後でちょっと聞いてみるか」


 なんてことを考えていると、


 コンコン。


 部屋がノックされてミスティがぴょこっと顔を出した。


 王宮ではこれがミスティの正装なのか、さっきまでの白銀の鎧ではなく可愛いミニスカメイド服を着用していた。

 太もものかなり上にスカートの裾のラインがあって、思わず健康的なふとももに目が――、


「ハルト様、少し早いですが晩ご飯の準備が整いましたので呼びにまいりました。――ハルト様? どうされました?」


「いやいや何でもないよ。うん」

 俺は際どいスカートラインからすぐに目を(そむ)けた。


 瞬間的に見てしまうのは男の本能だからこれはもう仕方ない。

 大事なのはその後どう振る舞うかである。


 せっかくミスティみたいな可愛い女の子に気に入ってもらった感じなのに、不躾(ぶしつけ)な視線を向けて嫌われたくはないからな。


「そうですか。では案内しますのでついてきて下さいね」


 途中、ミスティに王宮や街のことを色々質問しながら、俺は食事が提供される【松の間】という部屋へと向かった。


 そこには(たたみ)が敷いてあって、低い食卓を囲んでイスではなく畳に置いた座布団に座って食べるスタイルだった。


 そしてこの場には俺と幼女魔王さまとミスティの3人しかおらず、他の職員や給仕担当がいないのだ。


「なんか意外というか……【魔王】って割と普通のものを普通に食べているんだな」


 俺の前には割と庶民的な料理と、そして豪勢な刺身の盛り合わせが用意されている。


 しかもその食卓には俺と幼女魔王さまだけでなくメイドであるミスティも同席していて、さらに一緒に食べ始めたのだ。


「ハルトの歓迎会に豪華なディナーを、とも考えたのじゃがの。そうするとどうしても格式ばったマナーが必要になってしまうじゃろ?」


「ここまでハルト様と話した感じですと、アットホームな方がいいかなと思いましてこのような形にしたのですが……」


 そう言うミスティは自分も食事をしながら、同時にアレをよそったりコレをとったりと甲斐甲斐しく俺と幼女魔王さまの世話を焼いてくれていた。


 新婚のお嫁さんってこんな感じなのかな? とちょっと思った。


「もしハルトが気に入らぬのであれば、明日からは豪勢なディナーを用意させるのじゃ。なにせハルトは命の恩人じゃからの。それくらいしても罰は当たらんのじゃよ」


「俺的には全然こっちの方がいいよ。マナーとか作法とか細かく言われるのは苦手だからさ。それにこれって刺身って料理だよな? 海を見てからずっと、どっかで食べられないかなって思ってたんだよなー」


「それは重畳(ちょうじょう)なのじゃ。好きなものがあればお代わりも用意できるゆえ、希望があれば言うがよいのじゃ」


「あ、じゃあこの白身の刺身を追加してもらってもいいかな?」

「それはタイという魚なのじゃ。癖がなくて食べやすいであろう」


「こっちの赤いのは? すごく濃厚で食べごたえがある」

「これはマグロのトロといわれる部位です。脂がのって美味しいですよね」


 俺は幼女魔王さまやミスティにあれこれ教えてもらいながら、宮廷料理人によって細部まで丁寧に作られた鮮度抜群の海鮮料理を、心行くまで堪能したのだった。


「ふぅ、満腹満腹……初日でこれとか明日からの生活が楽しみだなぁ――げっぷ、ちょっと食べすぎたか……」


 

「レアジョブ【精霊騎士】の俺、突然【勇者パーティ】を追放されたので【へっぽこ幼女魔王さま】とスローライフします」



 第二章 「出会い」 完

 やや展開がゆっくり目になりましたが、次話よりハルトが時に精霊を斜め上に駆使して最先端文化を学ぶ(?)スローライフ編がスタートします。


 続きもどうぞよろしくお願いします(ぺこり

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