ついでに僕について
「えっと、到着しました。」
そう言って停車する地下鉄。
美人秘書に案内されて見知らぬホームに降りる。
東の研究施設を後にして国に帰るのかと思いきや、
案内したい所がもう1か所あるらしい。
先程と少し違うデザインの自動ドアを通り、
案内されるまま進む私たち。
なんかさっきよりも道が右往左往して
曲がりくねっているような?
「えっと、ここはですね、発掘現場なんですよ。
まあ発掘とは言っても実際に物理的に
掘り出すのではなく、魔法の力を利用して
地下文明、古代文明を複製しているだけ
なんですけどね。」
そう言う間に、ある扉の前に到着する。
「そしてここが貴女に、142号に提供された
記憶を発掘した現場になります。」
「えっと、ようこそいらっしゃいました。
お待ちしてましたよ、142号。」
部屋の中に居た男性研究員?は、
私たちにそう話しかけてきた。
「ちょうどこの真下に、貴女の記憶のオリジナルが
埋まっているんですよ。」
なるほど、そうなのか、と頭の中で理解してみるが、
いまいち実感が湧かない。
「えっと、詳しくは淡い水色の板を確認してくれたら、」
「あの、それなんですがね、実は、
私、というか僕はその淡い水色の板が
いまいち上手に操作出来ないんですよね。
いや、操作できない、と言うよりは
理解できない、と言ったほうが正しいですかね。」
「えっと、やはりそうなりましたか?
古代人は計算機の処理結果を
画像表示装置に投影して
視覚情報として理解していた模様でしたから、
ひょっとしたらそうなのではないかと
危惧していたのですが・・・。
えっと、それでは投影装置を使いましょうかね。」
「えっと、手伝います。」
そして淡い水色の板や、
その他よく分からない装置を準備する
男性研究員と美人秘書。
しばらくして壁に映し出されたのは
雑多な物が乱雑に積み上がっている風景、
しかしその物品の1つ1つは、
僕にとっては見覚えのあるものばかりだった。
ゲーミングPC、机、椅子、寝具、ゲーム機、
自慢のキーボード、高かったスピーカー、
レトロな電話機、貰ったポスター、、、、、、
そして見覚えのある人間の顔が
埋もれた中から覗いている。
まるでただ眠っているだけに見える、
僕の顔であった。
「えっと、これが今現在の、貴女の記憶の人の、
・・・えっと面倒くさい、
これが貴方の部屋です。
そしてこれが貴方です。
私たちはここから記憶を拝借しました。」
分かる。それは見たら、何となく分かる。
「えっと、一瞬にして停止させられたとは言っても
具体的なことは分からないことも多くって、
殆どの人は潰されたり破損してることが多いの。
でも貴方は保存状態がなかなか良かったのよね。
そうそう、貴方だけでなく、貴方の部屋の物品も
なかなか保存状態が良くってね、
計算機内の情報もたくさん復元できたのですよ。」
そう言って投影された画像が切り替わる。
昔作ったプレゼンテーション用資料、
みんなと撮ったオンラインゲームの記念SS、
電子書籍として買った漫画、、、ん?
「DRMとか・・・、
その漫画って暗号化されていませんでしたか?」
「えっと、暗号化、ですか?
ああ、確かにこの部分の解釈は
ちょっと時間がかかっていますね。
でもまあ数時間で全部の解釈が終わってますから、
気にするほどではないですね。」
なんだって・・・?
電子書籍業者ご自慢の暗号化技術が
未来の魔法技術?によって
たった数時間で破られただって?
しかも多分ノーヒントだぞ?
すると僕が適当に設定した
暗号化フォルダーなんて・・・、
そんな予感が頭をよぎった瞬間、
壁に映し出された画像は
「あーああああああああー!
待って、消して、見ないでー!」
「もう手遅れですわよ、副会長。
観念しなさい。」
やけに嬉しそうな声の会長。
いや、からかっている声なのか?
「えっと、
今更何を取り乱しているのかとは思いますが、
古代人と現代人の体格や肌の色と質、髪の色、
体の動かし方・使い方を比較する研究資料として
大いに役立っていますよ。」
「もう・・・やだ・・・」
「それにしても結構集めてるわねぇ。
古代のいんたぁねっと?って仕組みが
優れているからなのかしら?
それともこの古代人がそれだけ
欲望に忠実だったのかしらね?」
「・・・シテ・・・コロ・・・シテ・・・」
「えっと、当時のインターネットは
なかなか良い仕組みでして、
実は私たちも淡い水色の板を利用して
インターネットを再現・構築・改良しようと
試行錯誤しているところなんですよね。
上手くいけばこのデータも、
いつでも好きな場所で閲覧できますからね。
もっとも、リュウに気取られずに構築したいという
その条件が一番大変な点でして。」
「・・・シヌ・・・」
「いえいえ副会長、安心してください。
とっくに死んでますから。
・・・ふふっ、拗ねていらっしゃる。」
「・・・ダイタイ・・・
大体貴方、同じ男としてこんなの、
こんなのアレだって、反対してくれても・・・!」
「えっと、同じ男、ですか?
ああ、確かに見た目と声は男ですよね、私は。
でも私は、他の私たちと同じ記憶をコピーされた
人造人間ですよ。
とは言っても、試しに男性型として成長させてみた
試作品ですけれどね。」
「・・・でも・・・男の体なら・・・少しは・・・」
「えっと、確かに人工子宮の中では完全な男として
成長させたんですけどね、」
「えっと、記憶をコピーしたら
1週間でギブアップだったかしら?」
「2週間は頑張りましたっ!
えっと、まあ、なんて言うか、
股間から親指みたいな物質が
ぶら下がっている感覚が
どうにも我慢できなくなってしまいましてね。
切除してもらったので、142号が考える男性とは
少し異なった存在ですね、私は。」
「・・・」
拗ねた僕を、私を、
あやすかのように膝枕に乗せる会長。
そんな状態で、偽男性研究員による
インタビューが始まった。
古代の僕のこと、当時の一般常識、文明、社会。
知りたいことが沢山あるのだろう。
僕にとっては知られたくないことも沢山あるのだが。




