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コピー  作者: 社会的におちこぼれの理系人間が、なろうで何か文章を書いてみた
異世界転生したと思ってたんだが実は異世界ではなく、転生ですらなかった件について・・・
16/19

地下へ降りた先に

「えっと、こちらが入り口になります。」


行政府に出向いた翌々日、

私たちが例の美人秘書に連れられて来たのは

町外れの路地裏にたたずむ1軒の小さな民家であった。


「「え、えぇ・・・。」」


薄暗く古びた、目立たない民家の入り口で

戸惑う私たち。

気にも留めずに玄関を開け、

中に入っていく美人秘書。


「さあどうぞ、お入りください。」


そう言われても、躊躇ちゅうちょしてしまう私たち。

私一人だけなら適当な理由付けて

断ることも出来るんだろうけど、

会長の立場も人間関係もあるしなぁ。

私を前に、会長を後ろに、恐る恐る入っていく。


ある部屋に入る。

明かりが無いせいか薄暗いが、

何の変哲も無い室内。

美人秘書がその奥にある本棚を動かすと、

レトロ風なエレベーターが現れた。


「こちらです。」


エレベーターの鉄柵を開けて、

私たちに入るよう促す美人秘書。

3人で乗り込んだ後、からからと鉄柵を閉じて

淡い水色の板(タブレット)を操作すると、

エレベーターが下方へ動き出す。


深い。思ったより深い。

エレベーターが低速なのかもしれないけれど

最深部に到着するには数分を要した。

そんなに深い地下であるにもかかわらず、

私たちが降りた先は窓から光が漏れる空間であった。


・・・窓・・・?


私たちの前方には窓が何枚も並び、

その向こう側には座席が並んでいる・・・。


目が慣れてくる。

窓が並んでいるのは金属製で角が丸まった、

左右に長い直方体。

窓の手前側は飾り気の無い石の床。


「何・・・、ですの? これは。」


絶句する会長。

だが私はこれが何か知っている。

再び淡い水色の板(タブレット)を操作する美人秘書。

入り口が開く。


「なんで、地下鉄・・・?」


「私たちで再現してみました。どうぞこちらへ。」


車内に入るよう促す美人秘書。


「ええ、っと、これは?」


会長が戸惑うのは当然である。


「多分、電車って言うもので、

 大きな鉄製の馬車が線路の上を走るもの、かと」


「ステンレス製ですね。」


「ステン? この世界に・・・?

 まあ、私の、異世界の、乗り物、かと思うけど。」


「えっと、まあそれでいいです。

 到着まで時間がかかるので、

 とりあえずお乗りください。」


これ以上考えてもらちが明かないので、

思い切って車内に乗り込む私。

恐る恐るついてくる会長。


1両編成の車両、

車内に並ぶ座席、前後には操縦席。

操縦席に向かって歩き、窓の外を見る。

先が見えないほど遠く暗いトンネル、

延々と続く線路。


「えっと、進行方向はそっちじゃないです。

 出発しますので席にお座りください。」


反対側の操縦席に移動し、並んで座る私と会長。

操縦席に座って淡い水色の板(タブレット)をはめ込む美人秘書。

動き出す電車。




「えっと、ハミルトンさん、

 貴女はひゃく、えっと、マイさんの事情は

 かなり深くご存知なんでしたっけ?」


「深く、というのは?」


「えっと、機密情報というか、

 この国に来た経緯いきさつというか、」


「人が誰も住んでないはずの

 東の迷いの森の方から突然歩いてきたとか、

 異常な魔力とか、曖昧な記憶とか、

 そんなお話ですか?」


ああ、やっぱ会長にはその程度まで

話が伝わってたんだ。


「あの森って迷いの森って呼ばれているんですか?」


「ええ。あの森をいくら探索しようとしても、

 森を抜けようとしても

 何故か最初の入り口に戻ってきてしまうから

 そう呼ばれているわね。」


「えっと、実際には森の先にある

 私たちの研究施設を隠すために幻惑魔法というか、

 記憶操作と地形の設計を上手に計算して作った

 人工の大森林ですけどね。」


「えっ」


大いに驚く会長。


「えっと、本当はハミルトンさんまで

 招待する気は無かったんですけどね。

 でもそれだとマイさんは素直に来なさそうですし、

 機密情報もある程度ご存知のハミルトンさんなら

 大丈夫かな、ということになったんです。


 そういうことで私たちの研究施設まで

 ご案内しますので、1時間ほどお待ちください。」


「・・・はい・・・」


そう返答しつつも、落ち着かない様子の会長。

一方私は、かつて僕であったときに乗っていた

電車のことを思い出していた。

何両も連なって、多くの人が乗っていた電車。

日ごろよく利用した満員電車、

遠方へ出かける時など朝が早いときに利用した

ガラガラな始発列車、

贅沢にもグリーン車、

暇だから本を読んだり、音楽聴いたり、

ネットを見たり、ゲームしたり・・・、


「1時間もあるのなら、

 本ぐらいあれば良かったな・・・」


思わずつぶやいた私の一言に会長が反応する。


「本、ですか?

 部活動報告書作成の手引書なら今ちょうど手元に」


「いえ、そういうのではなくって、小説というか、

 主に架空の物語を文書にした本っていうのが

 私たちの世界にはありましてね・・・。」


「架空? 嘘を文書にして貴重な本を作って

 何の意味があるのでしょう?」


いやいや、この世界の宗教の聖典だって

何処からどう見たって架空の物語なんだが、

まあそれは置いておいても、


「そもそも私たちの世界では

 本は貴重じゃないんですよ。

 宗教で印刷・複製が禁止されていないのが

 一番大きな理由でしょうね。」


「えっと、

 私たちが極秘の研究施設を作った動機のうち

 大きなものの一つがそこなんですよね。」


美人秘書が会話に割って入る。


「宗教の制限に引っかかるとすぐに

 処刑しようとするのがあいつらですからね。

 彼らから隠れている面もあるんですよ。」


「えっ、宗教って、そんなになおざりにして

 良いものなのでしょうか・・・。」


戸惑う会長。


「えっと、宗教を作ったリュウの意図は

 人類の発展の阻害ですからね。

 こういう高級機器を下賜しつつ

 大きく機能を制限してるのと一緒ですよ。」


そう言って淡い水色の板(タブレット)をコンコン叩く。


「ちなみに暇つぶしですが、チャットで聞いたら

 予備機を貸してもいいことになりましたので、

 とは言っても脱獄ジェイルブレイクしているだけですが、

 えっと、どうぞ。」


そう言ってもう一枚の淡い水色の板(タブレット)

私に差し出してくる。


「はい・・・、どう操作すれば、」


受け取りつつ戸惑う私。

この世界に来て淡い水色の板(タブレット)

操作する機会は何回かあったのだが、

いまいち操作方法が理解できない。


「ちょっと貸して?

 基本操作は普通の淡い水色の板(タブレット)と一緒でしょ?

 多分こう操作すれば、」


会長が横から操作すると、

情報が頭の中に流れ込んでくる。

・・・けど寿限無とかお経とかネイピア数とかが

直接頭の中に流れ込んでくる感じって

例えたら良いだろうか?

意味の分からない情報ばっかりだ。


「なるほど。すると、ここをこうすれば、よし。

 次は、これかな? で、こうやって、ほうほう。

 するとこれならば、おぉ、やっぱそうね。

 あとこれは何だろう・・・、ふーん。

 えっ、そうなの? 何で、何が・・・」


一方、会長には興味深い情報ばっかりみたいだ。


私は淡い水色の板(タブレット)を会長に

完全に渡してしまって、

シートに深く体を預ける。


ガタン、ゴトンとリズミカルに、軽く揺れる車内。

懐かしさすら感じる、少し固めのシート。

車窓に流れるのは一面真っ暗な石の壁ばかり。

私はいつの間にか眠りに落ちていた。




「・・・・・、

 ふくかいちょう、

 マ、イ、

 副、会、長、」


誰かが私を呼んでいる。


「副会長、起きてください。着きましたよ。」


会長が私を呼ぶ声だ。


「起きましたか?

 ったく大物ですね、副会長は。

 いったい何処に連れてこられたのか

 完全には信用しきれないというのに・・・。」


「その台詞を堂々と、美人秘書のいる前で

 言ってのける会長も大概だと思うけど・・・。」


寝ぼけた頭でそんなことを思う私。


「大概で悪かったわね。」


あ、声に出てた。


「えっと、とにかくお二人さん、降りてください。

 お話したいこと、紹介したいこと、

 いっぱいございますので。」


ホームに降りた先にはガラスの自動ドア。

その向こう側には明かりで照らされた

廊下が続いている。

私たちを先導して自動ドアの前に立つ美人秘書。

開くドア。中に入る美人秘書と私。戸惑う会長。


「この、ガラス戸って、どうなって?」


「ああ、これは自動ドアって言って、

 ドアの前に立つと自動で開く機械なんですよ。」


「えっと、ハミルトンさんにとっては

 全てが物珍しいかも知れませんね。

 あっちのエレベーターも

 王国には無いタイプですからね。」


そう言って美人秘書が指し示した先には

アルミ製だろうか、

近代的なエレベーターの扉が見えた。


廊下を進むと向こうから、

美人秘書に良く似た白衣の女性が2人、歩いてきた。


「えっと、お帰り。長にはもう会わせたの?」


「いいえ、えっと、これからよ。」


「そう。じゃ、またあとで。」


すれ違いざまに言葉を交わす美人秘書と白衣たち。


そのまま廊下とエレベーターを

よく分からないルートで進んでいき、

ある扉の前で立ち止まる私たち。

ノックする美人秘書。


「どうぞ。」


中から声が聞こえる。

扉を開ける美人秘書。


「えっと、どうぞお入りください。」


促されて中に入る私と会長。

そこに立っていたのは美人秘書に良く似た、

しかし年齢は明らかに美人秘書より年上の、

白衣の女性であった。


「やあ、いらっしゃい、ハミルトンさん。

 そしてお帰りなさい、142(ひゃくよんじゅうに)(ごう)。」

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