生徒会の日常 (前)
副会長をやることになった。
ソウ王立第二学院生徒会にて、
生徒会副会長をやらされる羽目になってしまった。
ケイくんが卒業した後、広くなった寮の2人部屋を
かわいい服で埋め尽くしたのが会長にばれたのが
直接のきっかけだった。
要は国からいただいたポイントを
有効活用出来ないなら代わりに働け、
ということらしい。
失礼な。
かわいい服で己を着飾るのは
立派な有効活用だというのに。
なんて愚痴はさておき、
この学院の生徒会は雑用係の側面がかなり強く、
みんなやりたがらないらしい。
まあ内申書とか進学とか気にする必要が
この世界では無いみたいだから、ね・・・。
では何故会長は生徒会長なのか?
それは所謂奨学金の割り増しがあるかららしい。
座学も実技もトップクラスであることは
間違い無いのだが、さらに生徒会を引き受ければ
奨学金が積み増しされるよ、そうすれば
妹さんとの生活が多少楽になるよ、
という悪魔の囁きに屈したらしい。
そんな理由で生徒会に加わり、
他の生徒会メンバーが全て卒業してしまった最近では
会長1人で全ての雑用をこなしていたのだが、
ここ最近は風邪・大怪我による欠席が相次ぎ
不意の不在への対応も必要だよね、ということで
追加メンバーを探していた会長の目に
不用意に飛び込んでしまったのが私なのだった。
そんなわけで最近の普通の1日は、
朝起きたら食堂で会長と食事をしながら
軽い打ち合わせ、ベガちゃんも一緒だから
本当に軽い確認だけなんだけどね。
午前中の座学が終わったら生徒会室に移動、
学食から運び込んでもらった昼食を食べながら
書類の山を少しずつ処理していく感じ。
部活動に関する文書とか予算とか、
そういうのはまだ生徒会っぽいんだけど、
授業中に利用する教材なんかも普通は
生徒会の担当なんだろうか?
何か余計な仕事まで
押し付けられている気もするけど、
お昼休みはそんな風に過ぎ去っていく。
午後の実習訓練を終わらせたら再び生徒会室。
疲れた体に鞭打って、
残った書類を1件ずつ処理していくのだが、
どうにも集中力が持たない。
こんなのパソコンかタブレット、
せめて電卓でもあれば効率的に処理できるのに、
なんて愚痴っても仕方が無い。
私は手元に木の魔力を集中させて砂糖を創り出す。
スクロース位ならぎりぎり何とかそらで
創り出す事が出来るようになった。
僕が元々、化学がちょっと得意で助かったよ。
そんな砂糖に魔法で熱を加えて冷やして、
飴玉っぽくなったのを口の中に放り込む。
「副会長、また間食ですか。
私しか見てないからいいですけど、
料理人が提供したもの以外を口にするのは、」
「分かってます。分かってますけど、
疲れた頭には糖分補給が効くんですよ。
どうしてもやめられないんです、
ごめんなさい、会長。」
「副会長が何を言っているのか分からないけど、
他の人に見られないように
気をつけてくださいね。」
「はーい。」
「ところでそろそろ時間ですね。
適当なタイミングで出発の準備を始めましょう。」
「了解。」
今日はこのあと、行政府に向かうことになっている。
お出かけは週1回くらいだろうか。
武術大会等、学校行事の直前だと
もっと頻繁に行くらしいが。
用件によって会う相手も変わるのだが、
今日会う相手は、残念ながら大外れである。
「やあ、こんにちは。よく来たね。」
部屋に入るなり、私たちにそう声を掛けてきたのは
銀髪の、一見紳士な担当次官、
ロバート・ダヴィッドソンであった。
「では早速始めようか。」
そう言って彼は黒髪の美人秘書を隣に、
私と会長を正面に座らせ、
4人で書類を囲む形で手続きを進めていく。
まあ仕事を進めるだけなら何も問題は無いのだが。
「では皆さんの承認が得られたということで、
こちらのタブレットに1人ずつ
手を乗せてください。」
美人秘書が促す。
そうそう、この世界でタブレットと言えばこの、
淡い水色をした謎の魔法の板のことであった。
「ではこれを届けておいてくれ。」
「はい。分かりました。」
次官に言われ、秘書は書類の束とタブレットを抱えて
部屋を出て行く。
「では私たちもこれで。」
席を立つ私と会長。
「おう、ところで君達、順調に成長しとるかね?」
ほら始まった。
「ええ、おかげさまで。」
「本当かい? それにしては制服が、
特に胸の辺りがきつくなってるようには
見えないけどなぁ。」
真っ当に返事する会長に、セクハラで返す次官。
「まあ忙しいから成長する余裕は
無いかも知れないがね、
健康な体に成長しないと、
立派な赤ちゃんを産めるようにはならないぞ。」
そう言いながら、会長のおしりを狙う次官。
確かに次官の動きは素早い。
だが私にとってはスローモーションだ。
タイミングを見計らって
会長と私の立ち位置をさっと入れ替える。
・・・こんなところで特殊能力を発揮するのも
残念というか、虚しい気がするが。
「うんっ、あれ?
まあ、君の身体も立派に成長するといいよね。」
「そうですね。」
そう言いつつ、私のおしりを雑に撫で回す次官。
私の反応が薄いのがちょっと不満みたいだが、
それでも撫で回すうちに満足した表情になっていく。
だがお前が撫で回しているのは男のおしりだ、
残念だったな。
まあ厳密には、男の心が入り込んだ
女性っぽい身体のおしりだが・・・。
部屋を出て、会長と並んで廊下を歩く。
私を見る会長の目は複雑だ。
「副会長、私は慣れているから別にいいのに・・・。」
「そんな嘘、つかないでくださいよ。
それとも、このあいだ見せた表情は
演技だったんですか?」
「それは・・・。」
言葉少なにぽつぽつ歩く私たち。
「でも私は、生活のために色々売り渡すような
輩だから・・・、ああいったこと位、
笑ってやり過ごせるようにならないと・・・。」
「そんなん、慣れる必要無いよ。」
そして再び、黙り込んで歩く。
「うんっ、ふふっ、よしっ。もう大丈夫。
副会長、ありがとうね、そしてごめんなさいね。
それにしても副会長って
やっぱ何だか男っぽいわね。」
「へっ?」
唐突な発言に思わずびっくりする私。
「ど・・・、何処が?」
「さっきみたいに咄嗟に
庇ってくれるのもそうだけど、
歩き方とか、戦闘訓練時の身のこなしを見ても
時々男っぽさを感じるし、あとは・・・、
これはちょっと言いにくいんですけど・・・、」
「いい。言って。」
「ここ・・・、ムダ毛処理、ミスしてる。」
「えっ、どこ? よく見えない。」
「ほら、手鏡。」
「あっ、これ? あぁ・・・。」
何だかよく分からないけれど、
会長が元気を取り戻してくれたのなら良かった。
なのに何だろう、この釈然としない気持ちは?
会長に消滅魔法でムダ毛処理をしてもらいながら
行政府の建物から出る私たち。
と、唐突に声を掛けられる。
「すいません、ちょっとお待ちください。」
振り返って声の主を確認する。さっきの美人秘書だ。
「ひゃく、えっと、マイさんと
デネブ・ハミルトンさんでしたわね、確か。」
「はい。そうですが何か?」
「えっと、お二人はあさっての休日、
何かご予定はございますでしょうか?」
「いえ、特に。」
「何故あさっての予定を?」
「えっと、実はですね、お二人にちょっと
お付き合いいただきたいのですよ、あさって。」




