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コピー  作者: 社会的におちこぼれの理系人間が、なろうで何か文章を書いてみた
異世界転生したらやっぱ、強大な魔力を思う存分振りかざして大暴れしてみたいよね。あれ?大暴れしたくないの?
14/19

彼の旅立ち

ケイくんの卒業が決まった。


2週間前、学長室に呼ばれていくと、

そのような話になったらしい。

なんでも早急に実戦投入させたいという

ソウ王国の意向が働いたらしい。

そりゃ聖剣ドラゴンスレイヤーを勝ち取ったり、

あんなに活躍をしたりしたら、

即戦力として活用したくなるのも当然でしょうね。


ケイくんに提示された進路は

大きく分けて3つあるという。

1つ目はいわゆる軍人。

集団行動をする部隊に参加して馬車を護衛したり、

魔物に占拠された隣国に攻め込んだりするらしい。

2つ目はいわゆる警察官。

街の治安を維持したり、

門番として国境管理したりするらしい。

3つ目はいわゆる冒険者。

と言いつつ厳密には軍人の一種らしいが、

1人~数人規模で魔物討伐、護衛、調査など

様々な任務を請け負うらしい。


この中からケイくんは冒険者を選んだのだが、

僕はそもそも昔から集団行動が苦手だったので

この選択しか無いよな、とは思った。

ただケイくんが冒険者を選んだのは

それだけが理由ではなかったとのこと。


さて、ケイくんは卒業することになった一方、

私は学院に残ることにしたのだが、

それはつまり私とケイくん、僕と僕とが別の道を歩み

別離するということを意味していた。

今住んでる学生寮に居られなくなるのは当然なのだが、

そもそも依頼に応じて各地を転戦するのが

主なお仕事となるわけで、

会える機会もめっきり少なくなるらしい。


そんなわけで今日は引越しの当日、旅立ちの日である。


「荷物は本当にそれだけでいいの?

 王立宿舎のけっこう広い部屋を

 割り当てられたんでしょ?」


「広いって言っても、パーティ全員で住むように

 割り当てられた部屋だからね。

 そもそも僕たちがこの世界に降り立ったときは

 何にも荷物持ってなかったじゃん?

 それから比べると服とか装備とかノートとか、

 随分増えたな、って思うよ。」


「でも私の持ち物と比べると

 桁違いに少ないんじゃない?」


「そりゃ姉さんは女の人になったから。

 あの2人もそうだけど、

 女の人って荷物が結構多いよね。

 最近は考え方とかも俺と姉さんとで

 異なることが増えてきて、

 ああ、姉さんは本物の女性になってきたんだな、

 って思うよ、元々はおんなじ僕だったのに。」


「そうかなー。私そんなに女の人に見える?」


「例えば姉さん、だんだんお洒落になってるよね。

 制服のスカートもいつの間にか

 そんなに短くなって。」


「そうか・・・。

 男の人はそろそろ卒業、なのかなぁ・・・。

 ・・・。

 本当はね、ケイくんが、

 私と同じ心を持つ男の人が今まで近くに居たから

 私は僕としてのアイデンティティを、

 男性としての自分を保ってきた気がするんだよね。

 でもそれはきっと、

 そろそろ捨てなきゃいけないものなんだろうね。」


「へぇ、姉さんは、女の人になった僕は、

 俺のことをそんな風に感じていたのか・・・。」


そしてしばらく見つめ合いながら

黙り込む私とケイくん。


「ん、まあ、この世界で私になった瞬間から

 女性が割り当てられていたからね、

 いい機会でしょ、私にとっても。

 そもそも元々の僕はケイくんみたいに

 若くも格好良くも無いし、

 アイデンティティを保つには美男子過ぎる!」


フフッと笑い合う。


「いやほんと僕は、俺と違ってダサかったよね。

 でも愛嬌あいきょうはあったんじゃない?」


愛嬌あいきょうじゃ女の子は付いて来ないよ。

 僕は昔っからもてなかったじゃん。

 ケイくんは若くてかっこいい上に強いから

 みんな付いて行きたいって、

 みんな一緒にパーティ組みたいって

 思ってくれたんでしょ。正直(うらや)ましいよ。

 それなのにケイくんは元の世界に

 戻りたいって思うのかい?」


「いやいや実際に戻りたいかどうかは別にして

 この異世界転生の原因というか理由は何なのか

 冒険者をしていれば分かるかも知れないって、

 それだけの話だよ。

 正直、ネットとテレビと漫画とアニメとゲームが

 元の世界と繋がったら、戻りたいって

 全然思わなくなるかも知れな」


「駄目人間。」


「そりゃ僕は駄目人間に決まってるじゃん、

 ってか姉さんも僕でしょ、駄目人間じゃん。」


不毛なののしり合いに苦笑する僕たち。


「話題を戻して、元の世界では

 僕がまだ元気にしているのか?

 元の世界にはこの姿のままで、

 分裂したままで戻れるのか?

 それともいつかは統合されちゃうのか?

 調べておいたほうが良いでしょ、って話。」


「まあそりゃそうだよね。

 折角モテモテになったのに

 何かの拍子にダサい僕に戻っちゃったら

 女の子に好かれる生活全部が水の泡だもんね。」


「いや、たとえ容姿が変わっても

 中身は変わらないから・・・、」


「問題は無いとでも?

 そもそも容姿に不具合があった上に

 性格にも難があったから、

 元々の僕は女の子に全然好かれなかったんでしょ?」


「うっ・・・。」


ケイくんを言い負かすついでに

自分の心にも深くダメージを与える私。


「ま・・・、まあ、今は容姿が完璧な上に

 魔力も体力も筋力も規格外で、

 おまけにみんながスローモーションに見える

 無敵男子なんだから、堂々とモテ男の人生を

 謳歌おうかしてきなさい!」


「ふむぅ、んっ?」


突如、眉をひそめて小首をかしげるケイくん。


「ん?何?」


「スローモーションって、何?」


「スローモーションはスローモーションじゃない?」

「いや、言葉の意味は分かるけど、」

「動きがゆっくりになるのをスローモーションって

 言ってるんだけど。」

「だから言葉の意味は分かるけど、」

「だから動きがゆっくりになるでしょ?」

「誰が?」

「みんな。」

「いつ?」

「バトってるとき。」

「どうやって?」

「バトると。」

「え?」

「へ?」


顔を見合わせて困惑する私とケイくん。


「えっと、これから戦闘だ、って場面になったら

 みんなの動きが、世界の動きがスローになって

 的確な状況判断に役立つというか、

 矢の1本や2本程度なら造作も無くけたり

 はじき飛ばしたり出来るというか、」


「何それ、姉さんそんな能力持ってるの?」


「いや、てっきりケイくんも・・・、」


「ああ、でもそう言われてみれば納得だな、

 心当たりがあるな。

 姉さんいっつも俺より飛び出しが早いし

 無駄な行動が少ないのは何でかな?って

 時々感じてたんだけど、

 そういうことだったのか。」


衝撃の事実。

私にとっては衝撃の事実。


「でもケイくん、普通に素早いし強いじゃん?」


「そりゃ姉さんに置いて行かれない様に

 必死でついて行ったからね。

 姉さん頑張るなぁって思ってたけど、

 頑張ってたのはひょっとして俺だけ?」


「えっ、と・・・、いやー・・・、何と言うか、

 あんなにお気楽そうに見えてたのは

 私だけだったのかなぁ、とか、ああ見えて・・・

 ケイくんそんなに頑張ってたんだね・・・。

 私が持ってる能力は、感じてる世界は、

 当然ケイくんもおんなじだと思ってたよ・・・。」


「いやいや、俺は電撃が、金の魔法が得意だけど

 姉さんは土の物質生成魔法がすごく得意じゃん。

 結構違いあるよ?」


「まあ言われてみれば・・・。」


吃驚びっくりした頭を何とか落ち着ける私。

と、そんなタイミングでノックの音が響く。


「ケーイー、お待たせー。

 あたしたちは準備出来たよー。

 あとマイはちょっと手伝ってー。」


「了解ー、今行くよー。

 だってよ、姉さん。

 俺の荷物は一人で持てるから、

 2人の荷物よろしく。」


「いやいや、2人の荷物を甘く見すぎだよ。

 どうせ馬車まで何往復も

 することになるだろうから、

 ケイくんも手伝うんだよ。」


そう言って私は、

ケイくんに付き合って卒業することになった2人、

ニーナとミリアの部屋に向かう。


「それにしても2人は、

 卒業しちゃって良かったの?」


「ああ、あたしは厄介払いみたいなもんだったから、

 この学院に来たのは。冒険者になって

 稼ぐ立場になるって言ったら喜んでたよ。

 ミリアこそ説得が大変だったんじゃないの?」


「私は・・・、ニーナが一緒だから・・・。」


「ってまたまたぁ、ケイが一緒だから、じゃないの?

 あたしはついでで。でもこれで、

 新魔法研究クラブの2人が揃ったんだから、

 ケイのことは大船に乗ったつもりで任せなさいっ!」


「ニーナぁ、またおかしな団体を捏造つくらないで・・・。

 ところでマイさんこそ一緒じゃなくって

 良かったの?」


「私? 私は冒険なんて大変そうだから行かないよ。

 かわいい服を着て、綺麗で清潔な身体からだを維持する、

 そんな生活を出来るだけ長く、

 ずっと長々と続けていきたいからね。」


「はいはい、マイはそういう奴だよね。

 マイは本当、ブレないわね。」


ニーナに呆れられつつ、3人の出立の準備が整う。


「ケイくん、近くに寄ったら顔出してね。」


「姉さんこそ元気で。

 俺が居ないからって遊びすぎるんじゃないよ。

 では行ってきます。」


「行ってらっしゃい。」


御者が魔道馬を操る。

進む馬車。

手を振るケイくんたち。

見送る私。

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