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コピー  作者: 社会的におちこぼれの理系人間が、なろうで何か文章を書いてみた
異世界転生したらやっぱ、強大な魔力を思う存分振りかざして大暴れしてみたいよね。あれ?大暴れしたくないの?
13/19

夜間警邏実習訓練

「会長、もう完全に回復したってことで

 いいんですよね?」


「ええ、しっかり完治したわ。

 マイさん、貴女のおかげよ。」


「そんな滅相もない、

 私なんて応急処置しただけですよ・・・。」


あの日、護衛実習からソウ王国に到着した後が

また大変だった。

馬車に乗せられたまま大病院まで連れて行かれる

会長ほか負傷者たち。

担架に乗せられ運ばれる会長に付き添う、

不安そうな表情のベガちゃん。

西門まで迎えに来ていたのだ。

一方、負傷を免れた私たちには事情聴取が待っていた。

山賊を捕縛した僕たち、私とケイくんには

特に念入りな事情聴取が行われたみたいだった。

守衛さんたちによってどこかに連れて行かれた

山賊たちのその後は分からない。

処刑するときは大々的に報じられるらしいので、

それが無いということは生きてはいるのだろうか?


会長は翌日には退院したのだが、

しばらくは体調がすぐれない模様で

毎日の通院が欠かせない日課となっていた。

あれから3週間ほど、

怪我の回復がようやく認められたため、

今夜から参加することになったのである。


「病院の、魔法医療の専門家さんたちの治療が

 すばらしかったんではないですか?

 それに会長も、放課後のリハビリ

 あんなに頑張っていましたし。

 そもそも刺された瞬間のとっさの身のこなしで

 なんとか致命傷で済んだのが大きかったのでは?」


会長はふふっと笑って、


「確かにあれは致命傷でした。

 それを救ってくれたのは貴女ですよ。

 それにしても、なんだが私が

 死んでしまったかのような表現ですね。

 貴女は時々、面白いことを言いますね。」


「いやぁ・・・これは・・・、

 昔の友人が使っていた表現でして・・・。」


ディスプレイの向こうの“友人”がね・・・と

心の中で付け加える。


「昔の友人、ねぇ・・・。」


興味深そうに私を見つめる会長。




今夜、小雨が降る中、数人の学生が集められたのは、

警備兵の仕事を体験する実習訓練の一つ、

夜間警邏実習訓練のためである。

私にとっては3回目の夜警実習、

だいぶ要領がつかめてきたように思う。

一方会長にとっては久しぶりの夜警実習で、

リハビリのようなものかもしれない。


今夜担当の警備兵リーダーの女性の声が響く。


「本日はあいにくの雨ですが、

 こんな日こそ、この警備の仕事が必要です。」


ちなみにこの世界では不思議なことに、

雨は夜にしか降らない。

もう一つ不思議なことは、

この雨が神託により予測されていたことである。

おかげで全員が雨合羽を用意していたのだが、

天気予報をする神託って何なんだろう?


私も雨合羽姿なんだが、

なんかちょっとかわいさ半減。

おまけにやっぱり動きにくい。

あと武装は左手の短剣のみ、大剣は置いてきた。

雨の中で不意な反応がちょっと怖い。

無理矢理冷やせば何とかなるんだけど。


「最近も残酷な強殺事件が

 こんな雨の日に発生しました。

 物音や証拠が掻き消えやすい日を

 狙っているのでしょう。

 特に入念な警戒が必要です。」


そして今夜の割り当て地域の再確認が行われる。

私は会長とペアで、会長の自宅周辺を含む

コースが割り当てられていた。

体調に配慮してのことらしい。


「間違いはありませんね?

 それでは皆さん出発してください。」


リーダーの合図に従って

みんなぞろぞろと歩き出し、

四方八方に散らばっていく。



周囲を金の光魔法で照らしながら

ゆっくり歩いていく会長と私。

警戒警備をしていますよ、ということを

分かりやすく周囲に伝えているのである。

見える警備と言えば良いのだろうか。

無言で歩みを進めていくのが

この世界の警備方法らしい。


1時間半ほど経過しただろうか。

会長の自宅前に差し掛かる。

二階の窓から明かりが漏れている。


「んっ・・・もうぅっ・・・」


会長の溜息ためいきは、

何故かどことなく嬉しそうにも聞こえる。

窓の内側から手を振る人影が見えた。

逆光で顔はよく見えないが、

シルエットはベガちゃんそのものであった。


「早く寝なきゃ駄目でしょう・・・」


そうつぶやきつつ手を振り返す会長。

そして両手を上げると軽く下に振り下ろす

ジェスチャーを3回。

窓の内側の人影は大きく1回手を振って、

そして明かりが落ちる。


「会長のことが心配なんじゃないんですか?

 妹さんも。」


「んっ、たく、もう。

 そんなに心配しなくてもいいって、

 って、言ったのに・・・。」


まあ本来、巡回コースを他人に漏らすのは

家族であってもあんまり良くないんだが、

その点に関しては今は突っ込まないでおこう。



気を取り直して歩みを少し進める。

と、ふと感じる、名状し難い違和感。


「会長、あの家って、ご存知ですか?」


「えぇ、あそこのご夫婦には昔っから、

 私たちが苦しい時分にも色々

 お世話になっているご近所さんですよ。

 それがどうしました?」


「んー、もう少し詳しく。

 例えば家族構成とか、

 お子さんが1人いらっしゃるとか?」


「いえ、あのご夫婦にお子さんは

 いらっしゃらなかったはずですよ。

 少なくとも今は夫婦2人暮らしだったと。」


家の方をじっと見る。

見えるわけではないのだが、

人の気配が3人くらいだろうか?

しかも安眠状態にも思えない。

しかし客観的根拠は何も無い・・・。


「マイさん、貴女が気になるなら

 声をかけてみましょうか?」


私の様子を見兼ねた会長が提案する。


「・・・、お願い。」


玄関の板にそっと触れる会長。鳴る呼び鈴。

ガチャンという何かが割れる音が

家の中から聞こえた。


「間違ってたらごめん!」


雨合羽を脱ぎ捨て、左手の短剣を抜くと同時に

逆手で玄関を切りつけつつ、風を起こす!


斜め真っ二つに割れて倒れる玄関。

私は駆け込むと、二階に上る階段に足を掛けて・・・、

そのまま上方へ飛行する!

二階天井付近から見下ろすと、

全身黒ずくめの中年男性が

寝巻き姿の初老の女性を羽交い絞めにしつつ、

階段を警戒している姿が見えた。


女性の首元に見えるのは

男性がかざすナイフである模様。

私は彼らの後方から飛び降りつつ、

ナイフを持つ右手を蹴りつける。

不意打ちに倒れこむ2人、

男性の右手を踏みつける形で着地する私。


「えっと、状況の説明をしてほしいのですが、

 見た目通りでよろしいのでしょうか?」


左手で、私の右足を殴りつけ、

呻きながら足をどかそうとする男性。

男性のもとから這うように離れる女性。

とりあえず、こっちは黙らせちゃっていいのかな?

私は左手の短剣の切っ先を男性の肩に触れさせると、


バチッ


軽く電流を流すだけならケイくんほどの

金魔法の能力が無くても、私でも出来る。

黒ずくめの男性はおとなしくなった。


ようやっと状況が理解できたのか、

女性の目に涙が溜まってくる。


「あの人が・・・、あの人が・・・、

 下に・・・、一階に・・・、」


サスペンスドラマだと

この女性が実は犯人の一味で・・・、なんて考えは

さすがに穿うがった見方をし過ぎだな、多分。

女性をお姫様だっこの形で持ち上げると、

階段の吹き抜け部分からゆっくり飛び降りる。


「キャメロンおばさま!?」


玄関から駆け込んできた会長が声をあげる。


「デ・・・デネブちゃん?

 あぁ・・・うぅ・・・」


声にならない女性。

私は会長に女性を預けると雨合羽を拾い、

風を纏わせながら階段脇の廊下奥に送り出す。

廊下は突き当たりで直角に曲がる構造に

なっているのだが、


ドンッ


火の矢が雨合羽を貫く。

やっぱりあの気配は敵意だったか。

廊下の壁に突き刺さった雨合羽を横目に、

私は廊下の角を曲がる。

廊下の奥、20歩ほど先には黒ずくめの中年女性、

こんなに早く二の矢を番えられるとは

かなりの手練てだれな模様だが・・・、


キンッ


スローモーションで迫ってくる矢を左手の短剣で

はじくのは造作も無い。

一気に距離を詰め、返す刀で弓を切り飛ばし、

体当たりをぶちかます。

倒れ込む女性。馬乗りになる私。

逃げようとする女性の両肩を押さえ込んで

電流をバチッと流し込む。

あとは縄を適当に生成して、

黒ずくめの2人を縛り上げるだけだろうか。


女性の縛り上げが完了したので、一旦玄関に戻る。


「とりあえず人の気配はこれで全部だと思うけど、

 侵入者は2人で間違いありませんか?」


会長に支えられながらこくこくうなずく寝巻きの女性。


「廊下の奥の黒ずくめは一応縛った。

 二階の黒ずくめは今から縛りに行く。

 これでいい? 見落とし無さそうですか、会長?」


「ありがとう。

 マイさんはもう一人の強盗犯の捕縛お願い。

 私たちはポールおじさんの、

 ご主人の様子を見てきます。」


あれ、でも人の気配はこの3人で・・・、


「えっ、あっ、あー、了解。

 会長、よろしくお願いします。」


そう言って私は二階に飛び上がり、

痙攣している男性の縛り上げに取り掛かる。


しばらくの後、階下から大きな泣き声が聞こえてきた。




『えー、ではこれよりー、強盗殺人犯、

 ピーターおよびベラの処刑をー、執り行います。』


怒号と喧騒の中、拡声魔法の声が響き渡る。


数週間後、私たちが“招待”(この表現で

正しいのだろうか?)されたのはソウ王国最大の広場、

中央広場の特設ステージが最もよく見える

最前列の“特等席”であった。


特設ステージ中央には2人の人間が、

それぞれの棒にがっちり括り付けられている。

もがこうにも全然動けない模様。

彼らの足元にはたきぎが並べられていた。


私の隣には会長、その向こうには

キャメロンおばさまと呼ばれていた例の初老の女性、

さらにその向こうにはベガちゃんが座っていた。

ちなみに会長は開場ぎりぎりまで

ベガちゃんの参加に反対していたのだが、

おばさまの支えになりたいという強い思いには

抗しきれなかった。


そんな私たちの後ろには一体、

何人の人が居るのだろう?

かつて処刑は娯楽の一種であった、

なんて話をネットで読んだ気がするが、

下手すると武術大会よりも

人が集まっているんじゃないだろうか。


『処刑の前に最終尋問をします。まずはベラ。』


神父姿の偉そうなおじさんが登壇し、

棒に括り付けられた金髪の女性に話しかける。

ちなみに彼女は私が捕らえた強盗犯の1人、

黒ずくめの中年女性である。

もっとも今は黒ずくめではなく、

粗末なワンピースを着せられているのだが。


『貴女は今まで4人を手に掛けた。

 セシル・ワージントン氏、

 エイダ・ブリーム氏、

 トレイシー・インス氏、

 そしてポール・ヘイル氏。

 いずれも寝首を1掻きで殺害してる。

 間違いありませんね?』


「ごめんなさい、私がやりました。

 私が悪かったんです!

 こんな男に従った私が馬鹿だったんです!

 だから助けてください。

 もう一度私にチャンスを下さい!」


拡声魔法を通さないにもかかわらず、

彼女の必死の叫びは遠くまで響き渡る、

圧倒的な怒号に掻き消える事無く。


『つまり人生の再チャレンジをしたい、

 そういうことですね? 分かりました。』


女性の顔が一瞬、ぱっと明るくなる。


『今回の処刑によって魂が浄化されれば、

 次に生まれ変わるときはきっと素晴らしい

 再チャレンジが出来ることでしょう。』


女性の顔が一気に絶望に染まる。


「違うんです。そうじゃないんです!

 今、再チャレンジしたいんです! だから」


『縄を持て! 首に掛けよ!

 ベラさん、安心してください。

 貴女の魂はきっと救われることでしょう!』


「違う! 助けて! 嫌だ! そうじゃない!

 私はっ、あっ、がっ、ぐ・・・」


目を大きく見開き、苦悶の表情を浮かべる女性。

力一杯、縄を引っ張る処刑人たち。

目が口が舌が、

こぼれ落ちんばかりに大きく開き・・・、

そして静かになる女性。沸きあがる歓声。


その様子を見ながら手を強く握り締める私。

隣を見ると、

会長とおばさまはハンカチを強く握っていた。

さらに向こう側のベガちゃんは案外静かに、

冷静に事態を見守っているように見えた。


一方、一番冷静さを失ったのは

棒に括り付けられた金髪男性、私が捕らえた

もう1人の強盗犯の中年男性であった。


『では次、ピーター。貴方は』

「あの女だ。あの女が悪いんだ!

 俺は何もやってない!」


神父の言をさえぎり、大声で早口でまくし立てる男性。


『聞きなさい。貴方は9人の』

「違う、知らん! 俺は知らん!

 俺はたまたま居ただけだ!」

『被害者の首に掌紋が』

「何かの間違いだ! もう一度調べてくれ!

 陰謀だ、そう陰謀だ! 俺は嵌められたんだ!

 俺は何も悪くない! 助けてくれ!

 こんなの間違っている!」


彼の必死の叫びは、だが誰の心にも届かない。

「さっさと殺せ」などといった

怒号にすべて掻き消される。


「もう、やよ・・・」


おばさまのか細い声が、辛うじて私の耳に届く。


『わたしに出来るのはここまでのようです。

 これにて尋問を終わります。』


壇上から降りる神父。安全な場所まで退避すると、


『準備! 構え!』


処刑人がステージを囲むように並び、杖を構える。


「おい、やめろよ! 嘘だろ、嘘だよなぁ!」


『放て!』


杖の先から火の玉が放たれ、たきぎに到達する。


「おい、消せ、消せよ、助けろ、助けろよ!

 つっ、違う、熱い、違うんだ!

 冷やせ、ほどけ、縄が、痛い、ほどけよ!

 来るな、熱い、やめろ、魔法、やめろ!」


少しずつ燃え出す男性と女性。

大声を上げて泣きわめく男性と、静かに燃える女性。


その様子を、涙をぬぐいながらじっと見つめる会長。

そんな会長の腕にもたれ掛かり、

顔をうずめてしまっているおばさま。


「あついー、あついよー、たすけろー、なわー、あー、

 うごけー、あついー、むじつだー、わるくないー、

 おれー、わー、あついー、ままー、あー、

 ぎゃー、うわー、がー、ごほっ、

 ひゅう、みゅう、みゅぅ、たゅ、すぅ、けゅ、」


ゆっくり、じっくりと時間をかけて燃やされる男性。

必死の叫び声も次第に聞こえなくなっていく。

これはきつい。


歓声を上げていた観客たちも飽きたのか、

男性が静かになり始めた頃から続々と席を立ち始める。

しかし私は火の弾ける音しか聞こえなくなっても

席を立つのが躊躇ためらわれた。

会長は一生懸命、おばさまをなぐさめ続けていた。

そしてその向こう側でベガちゃんは、

2人が燃やし尽くされ崩れていくさま

じっとじっくりと身動みじろぎもせず、

真っ直ぐな瞳でずっと見続けていた。

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