第1話 転移
初投稿なので気軽に見てくれると嬉しいです。
「よし、ドロップアイテムゲット!」
終わりが見えない荒れ地の中、そう叫ぶ少年の背後には、何か鋭利のモノで首を切り落とされた、西洋の神話に出てくるような漆黒の鱗を纏ったドラゴンが倒れていた。
そして、そう叫んでいる少年も、常人とはかけ離れていた。
少年の身長は中学生くらいで、かなり小柄だ。容姿は、完璧としか言い様のないほどまでに整っている。少しつり目ながらも大きくぱっちりした瞳。オッドアイなのか、右目は翡翠色、左目はアメジストのような色だ。鼻はスッと高く、髪は灰色で腰までとどく程長い。だが、喜んでいる言葉とは裏腹に、顔は全くの無表情だ。
服装は、倒れているドラゴンよりも黒いロングコートに身を包み、ボタンはなく、中にはシワのない綺麗なYシャツが覗かせている。
そんな少年の右手には、ドラゴンの首を切り落としたであろう自分の背丈程ある大剣が握り締められていた。
「お、レベルも上がってるな」
もう分かると思うが、ここは地球ではない。
今、世界各地で話題沸騰しているVRMMOゲーム『インフィディライト』の世界だ。リアルなグラフィックと凝った戦闘にキャラメイク、そして生活システムといった要素が詰め込まれているゲームだ。その迫力やリアルさからか、このゲームは瞬く間に話題になった。
そしてこの少年は、『インフィディライト』の中で最強の存在。名は「フェイク」。このゲームのトッププレイヤーだ。
◇
(やっと出た~。12回目でやっとでるとかどんな確率だよ)
オレは今、アップデートで新しく追加されたレイドボスを延々周回していたのだ。何でも、最高ランクの装備を作るのに必要な素材が手に入るとか。
今までは、月に1度の特別なミッションの報酬でしかゲットできなかったが、何時でもできるミッションで、どれくらいの確率か確認しにきたんだが、けっこう低いようだ。
自分が作ったギルドのチャット欄を見てみると、他のみんなもアイテムが出ずに悪戦苦闘しているようだ。
ギルドの名前は『フローズンワンダー』。みんな一人でレイドボスを撃破できる廃人ゲーマーの集まりだ。そんな経緯があるからか、誰もこのギルドに喧嘩を売る奴はいない。
そんなギルドのマスターは飛び抜けて強く、チーターという噂も立つほどだ。
そんな存在に、1通のメールが届いた。
確率を確認したことだし、もう少し周回をしようと思っていると、視界の端で点滅している手紙のアイコンに気づいた。
(差出人は……創造神?何だこのふざけた名前は?)
とりあえずアイコンをタップすると、手紙が開封される演出の後に、半透明のウィンドウが浮かび上がり、そこには文字が書かれていた。
ーーー
フェイクさんへ
『インフィディライト』最強と呼ばれる貴方にお願いがあります。私の世界に来て、世界を救っていただけませんか?
こちらの世界に来ますとレベルやスキルはリセットされてしまいますが、力をつけるために出来る限りの手伝いをさせていただきます。アイテムは安心してくださって結構です。ストレージに入れ替えさせていただきます。
ですのでどうか、こちらの世界を救っていただけないでしょうか。もし救っていただけるのであれば、返信お願いします。
詳細は返信が有りしだい、お送りします。
創造神より
ーーー
新しいミッションか?でもこんなミッションってゲームとして成立するのか?
ミッションとは通常、ゲームバランスを壊さない程度に設定されている。そんな常軌を逸したミッションは運営が取り止める筈だ。
ここは受けずにスルーするのが普通だろうが、掲示板でも発見されていない未知のミッションとなると、心が惹かれるモノがある。
今まで頑張って育てて来たキャラをリセットする事に、強く葛藤しているが、未知のミッションに気持ちは傾き始めていた。
(よし、受けよう)
結局好奇心には勝つことができず、ミッションを受ける事にした。
いつの間にか追加されているアドレスに、「受ける」とだけ書いて送ると、反応は直ぐにあった。
突如、足元に転移の魔方陣が浮かび、光輝く。今まで凝った演出は沢山あったが、今回はそれほど凝ってはいないようだ。
内心、少しがっかりしながらも目を閉じて、次に広がる光景を楽しみに待った。
◇
光が収まり、静かに目を開けるとそこには、暗闇が広がっている。
(ここは……キャラメイクする場所か?)
言われなかったが、レベルだけでなく、アバターもリセットするのか。
あまり気乗りしないまま、オレは今までのアバターを再現する事になった。
◇
ふう、結局1時間程かけてようやくアバターを再現することに成功した。こういう作業は少しでもミスると、大変な事になるので肩が凝る。次に決めるのは職業か。
この『インフィディライト』は職業があり、職業によって行動に補正がかかるため、職業選びは慎重にしなくてはいけない。
だが、オレはなる職業はもう決めてある。<レンジャー>だ。この職業は防御力が低いため、立ち回りは難しいが、ソロに向いており、PVPなどにめっぽう強い。
状況的にもオレの情報は外部に洩らさない方がいいだろうし、暫くはソロで活動するつもりだからだ。
だが、この職業は金が物凄くかかる。攻撃するために矢がガンガン減るのだ。
その対策は一応ある。自称創造神はアイテムを引き継げると言っていたし、矢を始めに、腐るほどある金で買いだめをするつもりだ。
これでとりあえず職業選択は終わり、今度はステータスの振り分けとスキル選択だ。ちなみに、ステータスポイントは始めに10pt、スキルは10個獲得することが出来る。
とは言っても、職業が決定した時点でステータスとスキルは大まかに決まってくる。
ステータスはDEXとAGIを重点的に上げ、スキルは経験値補正系スキルを取れるだけ取るつもりだ。余ったら弓に補正がかかるスキルを取るか。
そんな感じで決定したステータスがこんな感じだ。
□
名前 フェイク Lv0
種族 人族
年齢 12歳
職業 レンジャー Lv0
称号 元最強
HP 10/10
MP 10/10
STR 1
VIT 1
INT 1
AGI 2
DEX 2
LUK 1
ステータスポイント 0pt
スキル
弓術Lv1
鑑定Lv1
投擲Lv1
狙撃Lv1
ユニークスキル
経験値倍加Lv1
スキル経験値倍加Lv1
必要経験値減少Lv1
ポイント倍加Lv1
スキル獲得容易化Lv1
状態異常付与Lv1
限界突破Lv-
アクティブスキル
なし
□
補足だが、職業により自動で獲得されるスキルがある。《弓術》なんかがいい例だな。
始めに取るスキルはこんなものか。ユニークスキルが多いのはあしからず。ユニークスキルはチート紛いなモノが多いからな。
あと、年齢が低めなのはスキルがその方が習得しやすいからだ。
何でも、子供の方が学習能力が高いからと運営がリアル差に拘って決定したようだが、これには批判の声も多くあり、直ぐにアップデートで消されてしまったのだが、初期からやって来た頃の名残で、つい低めにしてしまった。
ステータスをこの状態で決定すると、次にリスポーンする場所の一覧が出てきた。
ズラっと並ぶ『インフィディライト』の国名を流し読みしていると、一つだけ妙なモノを発見してしまった。
初期からやって、メインミッションを全部クリアしたオレでも知らない地名があったのだ。
『無限迷宮』
通常、モンスターが湧くする洞窟などはダンジョンと表され、迷宮とは言われない。
だが、名前から言ってこの『無限迷宮』は、そのダンジョンに似たようなモノだろうか?行ってみる価値はありそうだ。このミッション専用の場所だろうか?
矢は確か、メニューのショップ機能で買うことができた筈だ。食糧も料理人のレベル上げのときに結構作ったし、暫くここに籠っても問題は無さそうだな。
オレはここにリスポーンする事に決定し、設定も全て終わったので後は待つだけだ。
オレは、未知の場所という事で、まだ見ぬ光景に思いを馳せながら早く転移する事を願った。
『貴方の人生に幸福があらんことを』
ゲームが始まる際に聞く定期文を耳に、オレの意識は静かに闇に落ちていった。