5) おっさんと天使!
「……すいませんここは天国ですか?」
天使がいるから天国ね。
なんだやっぱり天国あるんじゃない。
だけどおっさんが地面を指差して言った。
「天国の訳ないでござろう。魔法と剣と怖い魔物と、もっと怖い請求書と税金が飛び交う。間違いない現実でござるよ」
「ジローさん、あわてちゃダメだよ。まだこっちに慣れてないみたいだし。えーと、だいじょうぶ……ですか?」
顔を上げた泣き顔の私を見てなぜか二人は目を見張った。
天使…… いや、美少女がおずおずと私に手を伸ばす、何やら呟きながら。
「テツ、気をつけろ」
「……ないてるの?」
うす青く光る手。女の子が私の頭を撫ようと出した、その手をシュババッと握る。
「こんにちは、私は早月マリ。おねえちゃんと呼んで」
天使や、きれい、かわいい。
涙は一瞬で引っ込んだ。
さっきまでの気持ちもどこかに吹っ飛んでいた。
「いやんこんな妹が欲しかったの! 女神様ありがとう! ビバ転生ーッ!!」
肩までの金色ボブカット、瞳はブルー。真っ白なお肌に桜色の唇。着ているのは生成りのフレアスカートのワンピースに……ゴツいブーツ。腰には大ぶりのナイフ…… ナイフ?
「ふえぇ……」
おっと逃げられた。
おっさんの後ろに逃げ込んだよその女の子。やだ、持ち帰りたい。保護したい、庇護したい!
「くっつくな」
事もあろうにぺしっとその女の子の頭を叩くおっさん。
おい何するんじゃこのボケ。
美少女は国の宝、心のオアシスだ。乱暴に扱うな!
目は口ほどに物を言う、私の表情から言いたいことが分かったのか、溜息をついておっさんは言った。
「こいつ男だよ」
違った、やっぱりここは天国じゃなくて非情なる現実世界。
なんてことでしょう! 神様女神様! こんな可愛いのに男の子!? はっいや待て、待て待てこの際そっちの方がいいのか倫理的に。このまま育ててあと五年、いや十年、ステキな私好みのイケメンに。逆光源氏計画、行けるか、行ける。ええか、ええのんか。いいぞ早月マリ!
後で聞いた、_| ̄|○ こんな感じでブツブツ言う私は物凄く気持ち悪かったそうだ。
「「うわー」」
なんか言ってるが気にしない。
この世界の呼び名はアーク。
どっかで聞いたことがあるような。このアークでの二人との出会いはそんな感じで。
後になって思う。
あぁ…… あの時はまだ幸せだったなぁと……
「ふむ、まだ混乱しているのか。無理もない」
「ジローさん、そうじゃない感じがするよ」
「まあまあ、お前も似たようなものだったぞ」
おっさんは私の前にしゃがみ込み、落ち着いた感じで話しかけてきた。
「俺は佐藤二郎、ジロー・サトーでござる。ここの『転生者協会』、略して転協の会長をしている。日本人だ、安心してくれ。……話すことは山ほどあるが最重要事項だ。……でござる」
ござるはキャラ付けかい、と思ったけど次の言葉を聞いて開いた口が塞がらなくなった。
ああそれもいい思い出だわ。ジローさんに腹パンしたくなるよ。
「君、お金もらった?」
「最初に聞くのがそれですか!」
大丈夫だろうかこのファンタジー世界、と思った。
結論から言おう、全然大丈夫じゃなかった。
おうちかえゆ。