2) 異世界への(うさんくさい)誘い!
「ファンタジー世界、というと。剣と魔法とネコミミと、王様ワハハで魔王がガハハ的な?」
「基本的にはそうです」
基本的には? 怪しい。何かの含みか伏線か、命に関わる告知事項の不開示的な言い方だね。めちゃくちゃ怪しい。
「はい、ええと…… その世界へ行っていただけませんでしょうか……」
「……はぁ」
「優しい世界ではありません。医療は遅れておりまして病気になればまずアウトです。治癒の魔法はありますがそんなに便利な物じゃありませんし、衛生状態悪いです。正義の味方ともかいませんし、身分差絶対、戦争絶え間なく、盗賊わき魔物が舞い踊る感じのファンタジー世界です」
にこやかに物騒なことを仰る自称女神様。
冗談じゃない、どこがファンタジーよ! 思いっきり世紀末でヒャッハーな世界じゃない!!
「却下よ却下! 確かにゲームは好きですけど、実際やるのは勘弁してください。イヤです!」
私はどちらかと言えばインドア派だ。
運動神経がいいわけじゃない、リゾートなキャンプは好きだが登山とかは絶対嫌だ。……ん? なんかこれもフラグっぽい?
「そうですか…… 残念です。適性がありそうな方限定なんですよ。貴女ほどの方はなかなかいらっしゃらなかったんですが。お約束の『転生ぼーなす』も、そのほか大サービスしちゃうんですけどねぇ……」
「適性? そんな秘められた力とか持ってませんけど私」
「あら、とっても適正お持ちですよ。貴女みたいな感じの方とか」
「なによそれ」
なんだ? 何を言ってるの?
「うーんとですね、そちらの言い方で説明すると…… ストレス耐性とでも言いますかねぇ」
「…………」
はあぁ……とため息をついて女神様。
「同意いただけないのでは仕方ありません、それじゃ”送り”ますねー」
「はいはいサッサと帰してください」
「わからない人ですね。アナタは、もう、死んだんです!」
「……」
私は首をコクンと横に傾ける。
「……」
フルフルと首を振る女神さま。
「…………」
「…………」
「マジ?」
「マジです」
「なんかの勧誘じゃなくて?」
「ええ加減にせんかワレ」
女神様にキレられた。なぜか大阪の河内弁である。
……ああ、でも何となくわかってたさ。現実逃避したかったのかもね。
さっきから手が透けてるからね、私。
「ご理解いただいたようですね」
「……わかりました。天国行きお願いします」
「え? そんなモノありませんよ」
「……はい?」
「最近は下界のシステムを取り入れてましてね、魂はデータ化してそのあたりのクラウドに”送り”まして、必要になれば先入れ先出し。虫でも魚でも転生神が適当に入れ「ちょっとまってくださぁああああぃ!!」るんです」
ぜーはー ぜーはー
ヤバい話はよく聞こう。
「ファンタジー大好きですーーーっ!」
私は小学生の頃、先生に落ち着きのない子ですと連絡ノートに書かれた覚えがある。
兄貴が盛大にため息ついてたっけ。何よ私だって高校生、少しは成長…… 成長して……
ごめんなさい、成長ないわ。胸と身長も。
「うふふ、心配ありません。人間には成長期と言うものがあってですね。いつか夢は…… 夢は叶うと……うぅっ!」
「神様にガチ泣きされたっ! そんなに!?」
「欠点は誰にでもある物です」
「しかも欠点扱い! ちくしょー!!」
しくしく。
死んだ上に三途の河の手前で神様に貧乳を罵倒された。
「こほん。それではご了承いただけるのですね」
コロッと態度を変える女神さま、私の夢と希望を返せ。
「はぁ。……よろしくお願いします。嫌々ですが」
「よかったあ。主神様に怒られずにすみます、よかったあ!」
神様いっぱいいるのね、転生神とか言ってたし。
「八百万の神様の国ですからねー」
心を読むな、やりにくいわ。て日本限定の神様かい。
それにしてもさっきのはヤバかった、人間ならともかく虫や魚は勘弁ですわ。
家畜になって食べられるのもイヤだ、でも猫にはちょっと憧れる。食っちゃ寝、いいよね。日がな一日、日なたでゴロゴロ。理想の生き方だよ。
「それでは『てんせいぼーなす』ですが、今ならさーびす期間でして。いつもなら一個のところを今日は特別にドーン! 二個おつけします!」
あんた本当に神様か!