1) ああああ…… 女神様!
「いらっしゃいませー 何名さまですか〜」
「スパゲティセット二つお願いしまーす」
「バックが四番です、ちょっと誰かお願いっ!」
「ちょっと! こっちまだかい!?」
「しょーしょーお待ちくださー」
「今、入店三組待ちでーっす」
「…………」
最後のは私だよ。
忙しい。めちゃ忙しいんだ。
「マリさん! ボーッとしてないでカップ下げてくだいよう!」
「……おうちかえゆ」
「何を無理言ってるんですか! さっさと口より手を動かすんですよう!!」
「へーい」
猫耳獣人の女の子にせっつかれ空席の食器を片付ける。
ピークタイムでお客さんはひっきりなしなのだ。お店としては回転が命なんだけど。…………なんやこの忙しさは。
「こんな筈じゃなかったんだけどなあ……」
しみじみと愚痴を零す。涙を浮かべて遠い目をするのも許して欲しい。
「お姉様、サンドウィッチとお茶を三つです!」
「ういー」
「しっかりして下さい、会長!」
私はどこ、ここは誰。
そう、私は……
「マリ会長! お店の女の子をナンパしてる命知らずが!」
ここの責任者兼会長なのだった。異世界のおかしな喫茶店の。
どうしてこうなった。
「……いい度胸だわ。最近鈍ってたのよ。みんなフォーメーションBよ!」
「「「「はーーーいっ!!」」」」
思い出す、もう遥か昔の気がする。
始まりは、そう確か……
*****
「あかん、これあかんやつや……」
顔を上げたら見知らぬ場所に立っていた。
私は早月マリ、高校2年。さっきまで家へ帰ろうと道を急いでたはずだ。現在ただいま真っ白な世界で迷子になっていた。
右も左も、前も後ろも、上も下も真っ白だ。てゆーか、よく見えない。
なんじゃこりゃ。
なんだか目が薄ぼんやりしてはっきり見えないわ。霧…… かな? さっきまで確かに道を歩いてたんだよ。けど上下左右真っ白だよ。
えーと、今日は近来稀に見る猛暑日だった。急に霧が出るなんてことは…… ないわよね。暑くて朦朧としてたけど、気がつかないはずはないし。
制服のポケットを探る。スマホは…… どこ入れたっけ。
バッグも無いや。お財布も……無い。やべえ、落とした!?
こんな時は行動を逆回転で思い出すんだ。えーとそう、アイスを買おうとコンビニの自動ドアをくぐり……
ドアを……
あれ? その後どうなったんだ?
ガリゴリ君を買おうと……
うん。私はソーダ味が好き。硬いやつをガリゴリと、こんな暑い日には二個食いが至福……
……じゃなくって! あかん、あかんあかん!
現実逃避しとる場合じゃない落ち着け私。深呼吸をひーふー ひーふー ひーひーふー ……うむ。
「あのう」
ひーふー ひーひーふー
「あのうお話を……」
ひーふーなんだうるさいわね。今忙しいのよ。
「ええと…… 早月マリさん、お話を聞いていただけないでしょうか……」
「おわっ!」
女子高生にあるまじき声を出し……!
前、と言うか見上げたら斜め上空に誰かいたよ!!
――金髪ロングの美少女さん、外人さんか?
しかしそのカッコ…… 白いローブ姿、ワッカつきで浮いてる。いわゆるローマ人か女神?ってか。
胸の前で、両手の指を組んででニコニコ笑ってるし。
なんか変なの来ちゃったよおい。
「この姿はあなたのイメージから”そう見えている”だけです。話し方もなんですよー」
心を読んだだとっ!?
「ここでは喋る必要はありません。……聞こえますか…… 聞こえますか…… と言うやつです」
危ない人だ、無視しよう。見えないフリで、周りを見渡す。
「無視しないでください! 結構心にくるんですから! これでも傷つくんですよう!」
「……どちら様でしょう?」
私の警戒アラームがマックスで鳴り響く。直ぐに逃げられる態勢、オーケー。
「こんにちは。私はこの世界の魂を管理する者です、いろんな呼び方がありますね。女神、とでも。特定の名前はありません」
「はぁ、女神様……」
満面の笑みだけど、なんかうさんくさい。やっぱり危ない自称神様な人だったか。ならば事務的対応一択だ。
「なんの御用でしょう?」
しかしその自称女神様、テンプレかどうか分かんないけど、にこやかーに軽くこう仰ったのだった。
「早月マリさん、貴方はお亡くなりになりました。こんびにに入ったところで心臓さんがストライキです。おまけにアイスのガラスにアイキャンフライでそれは酷い御様子で」
「おおう」
……その女神様の話によると私は死んだらしい。魂だけになってここは三途の川ちょい手前、エントランスみたいなところ。
死んだのに全然ショックを受けてないのは肉体が無いからだそうだ。
死んだ? 私が死んだ?? え?ちょっと……
「それでですね、今ちょっとお得なキャンペーン中でして、うふふ」
混乱している私に何やら勧誘が始まった。決まりである、キャッチか詐欺に認定する。
「違います! 最近は厳しくてですね、ノルマもありまして。人月がどうとか」
「……世知辛さ満開ですね。話に聞くIT業界ですか」
「ええ、色々ありまして。 色々…… こ、こほん」
「はあ……」
「どうですか? この人生は満足でしたか?」
「別に文句ありません、と言うか帰してもらえません? これでも忙しいんで」
それからその自称女神様は気を取り直したようで、にっこり満面の笑顔で仰った。
「人の話は聞きましょうね、大変ラッキーであなただけなんですよ! あなただけっ!!」
……それにしてもかなり変わった自称女神様だ。
それになんか見たことある感じだし。昔持ってたお人形さんに似てる。
しょうがない、話だけでも聞くか。こういう手合いは言いたい事を全部喋らないと帰してくれない。
「どうぞお話しください」
どうぞどうぞと手をヒラヒラさせると、その女神様は神々しく両手を広げこう仰ったのだった。
「ふぁんたじー世界どうでしょー?」
いやそんな、昔流行ったテレビ番組のタイトルみたいなこと言われても。
こんにちは、にゃ〜こです。
勢いで始めました。
ライトノベル風は初めてです。ゆーか、文字の作品は超久しぶり。
一週間ほどは毎日00:00更新いたします。その後は週二更新くらいのペースで。
気長にお付き合いのほどよろしくお願いいたします。