◇プロローグ◆
みなさんお久しぶりです。
私、忘れられていないでしょうか?
いや、むしろ忘れられても仕方のないくらい久々にここへ来ました。
腕は落ちているかもしれませんが、書きたい欲が止まらなくなったので、とりあえず投稿します。
楽しんでいただければ幸いです。
では、どうぞ。
ある街の路地裏で、百八十センチあるかないかという長身な男が一人歩いていた。
足取りは軽い。スラリと伸びた足を、振り子のように前後させて歩いてく。
時刻は昼を過ぎた頃。多少ビルに囲まれているとは言え、狭い路地ではないので日差しが指している。真横には広い公園があり、公園と道路との境には木が真っ直ぐに整列していた。日光を受けて青々と輝いている。暖かな春の陽気。にも関わらず、公園で無邪気に遊ぶ子供、道路を走る車、同じように歩いている人すらいない。
それもそうだろう。ここは先日、行方不明者が出てしまった場所。手がかりは地に濡れた布地の切れ端と行方不明者が所持していた紐の切れた肩がけバッグ。非常に残念なことに、被害者はとても小さい女の子だった。
殺人事件として警察が近辺を中心に捜査しているが、残念ながら明確な痕跡すら見つかっていない。凶器は刃物ということは予想が付いているのだが、どうしても事件が起きた場所の血痕程度しか成果が得られていない。人によっては神隠しにあったのではという噂すら立っている。
よく見ると辺りは所々に“KEEP OUT”と書かれた黄色いテープが張り巡らされている。いわゆる危険区域である。そんな中を、男はズカズカと歩いているのである。
焦げ茶のブーツに灰色のジーンズを履き、太ももにレッグショルダーを巻きつけ、赤いライダージャケットに身を包み、ゴーグルを上からかけた黒いワークキャップを被った、少し不審者じみた服装で、男は鼻歌交じりに歩いている。イヤホンで音楽を聴いているらしい。男にしては少し長い髪をなびかせながら歩く様は、ご機嫌なように見える。
そんな彼を見下ろす位置から、影は動き出した。壁伝いに進み、置いていかれないよう、気付かれないように、音を立てずゆっくりと降りていく。
「ギッ……ギギッ……」
口から歯ぎしりのような音が漏れる。格好の獲物を前にした期待感か、それとももうすぐ目当てにありつけるための幸福感か。影は複数の足を器用に動かし、男に近付いてゆく。
「~♪」
男は気付いた素振りもない。両手をポケットに突っ込んだまま、変わらないテンポでまっすぐ歩いている。
距離は次第に詰まっていく。影は確認のためか、自分の武器に目をやる。そこには腕と同化した鎌のような刃物がギラリと輝いていた。影は刃物を器用に動かして移動していたのである。その様は虫の類にそっくりであった。
五メートル、三メートルと化物が近付く。男は振り向かない。静かに、しかし確実に化物は近付く。
ピキッ――
小枝でも踏んだか、高い音が鳴り響く。それを合図に化物は男に飛びかかる。男を切り裂こうと化物の鎌が走る――!
「バレバレ」
次の瞬間、切り裂かれていたのは化物の方であった。頭から真っ二つに綺麗に両断されている。血は流れていない。化物はまるで人間の頭蓋から腰の辺りまでのような骨格を持ち、肩から腹にかけて左右合わせて八本の足が生えていた。頭には角が一本生えている。言うなれば鬼のようであった。男は異様な化物の骸を、つまらないものを見るかのように真顔で見つめていた。男の手には、比喩表現なしに光る剣が握られていた。次第に光る刃は光の泡を吹き出し、消えていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ご主人~!」
空から女性の声が響くと同時に、誰かが落ちてきた。これもまた比喩表現なしに、である。漫画の超人や人外のようにシュタッとでもいうような気軽さで、ビルから男のそばに降り立ったのである。
「ん、いちか」
「お見事でした、ご主人!」
「見事なモンかよ。こんな小物、なんの情報にもなんねぇ」
男は突如現れた“いち”という女性に対し、特に驚きもせず、ただ化物の死骸を指してため息をついた。
「斬鬼の一種ですね。まぁ確かにさほど大きくありません。マンホールより一回り大きいくらいです」
「被害者が小さい子だったのも納得だ。的としては大きい俺を狙ったのは、多分ここ最近人が近付かなくなって腹が減った結果だろうな」
「なにはともあれ、これで依頼は完了ですね!」
「あぁ、そうだな」
『そこのガキ、何してる!』
話がまとまったところで突然、二人に向かって怒号が飛ぶ。その声に、ご主人と呼ばれた男が眉をひそめた。
「って、なんだ。卜部探偵事務所ンとこのガキじゃねぇか」
「ガキじゃねぇっつってんだろ、相良刑事サンよ。」
複数の警官を連れて走ってきたのはスーツにコートを着込んだ、男よりも背の高いやせ型の男、相良刑事。この周辺の事件を取り締まる刑事で、今回の殺害事件に駆り出されていた。
「全く、ガキんちょがこんなとこで遊んでンなよ。いちちゃんもそんなコスプレみてぇな格好しちゃってよォ。ここは退魔師ゴッコするとこじゃねぇんだからよ。帰れ帰れ」
「コスプレぇ!? 姫のこれは私服ですぅー!」
シッシッと帰りを促すように相良刑事はジェスチャーし、対していちはご主人の腕に抱きつき、ベッと舌を出して反抗した。
相良刑事の言うように、いちの服装はコスプレのような見た目をしている。花柄が彩られた黒い和服の中に赤を合わせ、黒いニーソックス、ロングブーツを履いた大正ロマンのような服装に、黒い布で結んだ灰色の長髪ツインテールが腰の辺りまで伸びている。和服と言っても、振袖のように伸びた袖、ミニスカートの如き丈、肩の出るように中途半端に繋がった腕の部分を細長い赤のリボンで結び、同じく赤い帯は背中の部分に大きなリボンを背負っている。コスプレと言われてもしょうがない見た目をしている。
「まぁなんでもいい。もうやることはやったしな」
「それは退魔師の仕事ってヤツか?」
「いや、ただの探偵業さ」
ふと男は足元を見やる。そこにあったはずの化物の骸がいつの間にか消えていた。それを確認してか、くるりと先程まで歩いていた方へ足を向ける。歩き出した男についていくようにいちが歩き出す。真っ直ぐに“KEEP OUT”のテープに向かって進む様を、相良刑事はジッと眺めていた。
「卜部有人、か」
ポツリ、男の名を呟きながら。
まず、ここまで見てくださった方々に感謝を。
これからは暇などあればちまちまと書いていくつもりですが、更新ペースは正直期待できません。
少しでも期待を持たれた方、ゆっくりとお待ちいただければと思います。
それではまた、次の更新で。