1時のウサギ
全く、世界は理不尽だよ。年上の方が大変なんじゃないか。双子なのに、産まれた順番で姉って決まってしまうなんて、ひどいなぁ。
妹がよかったな。そうすればこの苦労を全部キミになすりつけてやれたのにね。
でもそんなことはもういいんだ。ワタシたちはセカイへ行く。アリアのセカイに。そこでは姉弟というものに縛られない。行くのがとても楽しみだよ。
ああ、なんだか眠くなってきたなぁ。
じゃ、もう寝よっか。おやすみ、クリス。良い夢を。
ウソツキが1時の扉を開けた。
その先に見えたのは、本。
本、本、本、イス、テーブル、本、本。
飽きるほど本。うんざりするほど本。なんかもう本。とにかく本。めっちゃ本。
………というぐらい本ばっかり。
その本。の中心にあるイスに座り、まぁた本。を眺めながら優雅に紅茶をすすっている少年がいた。
またまた本。を映している冷たい瞳は、透き通るようなあかね色をしている。
「あのー。ちょっといいですか?」
返事がない。また本かよ。に集中しているようだ。
しょうがない。また後で話しかけよう。というわけで、本棚にびっしり詰まった本を物色することにした。いちおう字は読める。義母に教育された内容がびっちり頭の中に詰まっているから文章を読むのに支障はない。
べつに盗るわけじゃないし、ウソツキだって本を出したりしまったりぺらぺらめくったりしてるからいいよね。怒られたら正直に謝ろう。
本を物色し始めて数分、私はロックがついてる本を見つけた。なんか高そうな表紙に『record management』と書かれている。記録管理、か。気になる。でも鍵がかかっている。 あとであの少年に聞いてみよう。
再び少年のところに戻り、さっきの本について聞いてみることにした。
「あのー。すみません。ちょっといいですか?」
少年の目に私の顔が映った。
「はじめまして。アリアです。この本のこと何か知っていますか?」
少年は遠くを見つめている。何か考えているようだ。そして紅茶をすすった。
「ナナシです。そのことならそこにいるウソツキか、11時のジャックか、主権者さんに聞いてみればいいんじゃないですかね。でも、フィルが一番よく知ってると思いますよ。鍵も多分彼が持ってる」
「主権者?主権者って?」
「その名の通りです。この『セカイ』の一番エライ人です」
セカイ。あの絵本に出てきていた。つまり、ここはセカイ。
「じゃあ、フィルは?どこにいるの?」
ウソツキがひょっこりとナナシの裏から顔を出した。
「フィルがどこにいるのか知ってるのは主権者サマだけだよ。それより早く2時にいこーよ!ボクもう用事終わっちゃったんだ」
まぁ、ここにいてもわからないことばっかだ。違うところに行ってみてもいいかもしれない。
「わからないことがあったらここに来てみるのもいいかもしれません。情報がたくさんあるので」
「うん。ありがとう」
私はロック付きの本を借りて、1時をあとにした。