扉
目の前が白、黒、とフラッシュバックしている。
そろそろ目がおかしくなる。いや、もうなってる。
もう無理限界。もうやめて。そうやってどこかに念を送っていたら、届いたのか、ふいにやんだ。
でもまだチカチカする。
とりあえず横になって、おとなしくチカチカしなくなるのを待つ。その間に頭の中を整理してみる。
私はアリア。アリア・カーライル。図書館に行こうとしたら、こうなった。その前に何かしてたような気もするが、どうせろくでもないことなんだろう。だから気にしない。細かいことは気にしない方がいいよね、うん。まぁ、それだけかな。
そうこうしてるうちに視界が回復してきた。
まずは上半身を起こして周りを確認してみる。
まず、私のすぐ後ろに1つの扉がある。その周りには、12個の扉が私を取り囲むようにして並んでいる。
それらは全て、壁のないところにたっているようだ。
私はすぐ後ろにあった扉を開く。すると、その扉の向こう側が見えた。帰れることを期待していたのだが、どうやらそう簡単には帰してくれないようだ。
もしかしたら夢かもしれない。そう期待して、思いきり頬を抓ってみる。……いたい。普通にいたい。いやまってめっちゃいたい。あわてて手を放すと、頬がヒリヒリしてジンジンする。やめておけばよかったと後悔する。
意地悪だなぁ、とは思うものの、あまり文句は言えないのだった。なんにせよ、この世界は、否、この「セカイ」は______
「あれ!?ねぇ君、新入りさん!?」
私の思考は、そんなバカでかい声によって、かき消されてしまった。
「ああ、はは。お、おはよう?」
とりあえず礼儀として、あいさつだけはしておいた。適当に。
「おはよう?今はおはようじゃないよ。だってほら」
そう言って、腕時計を見せてくる。確かに、今は1時だ。おはようではなく、こんにちはだ。
「ね、そうでしょ?」
と言って、胸を張っている。背は私よりでかいくせに、精神年齢は私より低いようだ。
「あ、そうだ。」
と、手を打ち鳴らし、
「ボクはウソツキ。キミは?」
と、聞いてくる。
「私はアリア。」
ひどい名前だね、と言おうとしたが、やめておいた。
「そっか、アリア!キミがアリアなんだ!ねえねえ、ボクは2時なんだけどさ、1時に用事があるんだよね。いっしょに行こうよ!」
と言って、私の右腕をウソツキの左手がとらえる。
ウソツキの右腕がみえる。服の袖だけがふわふわと浮いている。
「ねえウソツキ。そのみぎうでって」
しかしウソツキは、その言葉を目で制し、静かに微笑んだ。
「早くいこ?1時のコ、きっと退屈してるよ。」
私の腕をつかむウソツキの手に、少しだけ力が入る。
精神年齢が低いのは、私の方かもしれない。
ウソツキは、1時の扉を開いた。