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事件編 被害者周辺人物

 被害者のバイト先は四車線道路に面した大型パチンコ店だった。四車線の道路に面して三階建ての本館とそこに繋がる五階建ての立体駐車場が並んでいる。派手な電光掲示板と装飾が駐車場の入口まで施され、常に二人のガードマンが車の誘導を行っていた。

 岡部はそのガードマンに誘導され、駐車場に車を入れた。

「先に店長から被害者の周りの人間関係を聞いておきますか?」

 車のエンジンを切り、シートベルトを外す。

「そうね。そのあとは店長に大西を呼んできてもらえばいいんだし」

 先に店長から話を聞いて客観的な関係を把握しつつ、店長が店員を呼ぶことで角も立ちづらくすることができる。警察にしつこく聞かれることは誰もが嫌がるので、店長も率先して店員を呼びつけるだろう。なんなら、彼の方が詳しいとか、彼なら詳しく知っていると思う、などと言って自分はそそくさと立ち去ることも考えられた。

「ここの店長の名前は?」

 駐車場から伸びる渡り廊下を進みながら清水は岡部に目配せする。

「倉本充、四十五歳。捜査にはとても協力的ですよ。向こうとしても早く終わらせてほしいというのもあるんでしょうけど」

 店長としては殺人事件の被害者とその容疑者が働いていたという噂が広がる前に事件を解決してほしいのだ。ただ、それは大西が犯人ではないという状況に限って言えることではある。

「それはそうよね」

 本館の方に入ると、大学生くらいの男の店員がこちらに気づいた。目が合うと、また警察がきたのか、といった様子でふたり近づいてくる。これまでにも警察が来た際に対応したのだろう。

「奥に事務室があるのでそちらにどうぞ」

 挨拶もなく、警察かを確認するでもなく、すぐに案内された。事前に店長の方からそうするように指示があったのかもしれない。

 案内された事務室は折りたたみテーブルが二つ、パイプいすが六つ並べられただけの部屋だった。壁中に掲示物が張られている。営業目標や接客のルール、要注意人物まで多種多様だ。

「いま店長を呼んできます。少しお待ちください」

「ありがとうございます」

 清水も岡部もまだ説明をしていないというのに店員は店長を呼びに部屋を出た。ふたりとしても面倒くさい段取りを省略できたのはよかった。

「今のは?」

「たしかあの人もアルバイトでしたね。西口? いや。西森? ちょっと名前までは覚えてないですけど……」

 岡部が苦笑いを浮かべてお手上げのポーズをとる。手帳にもメモをしていなかったようだ。被害者とは特に接点がなかったのだろう。

 店長は三分としないうちにやってきた。ノックをして中に入り、深々と一礼する。背は低く全体に丸みを帯びたシルエットをしたこの男は店の制服をピシっと、いやパツパツに着ていた。走ってきたのか、額には汗をにじませている。

「お待たせしてすいません。倉本充といいます。警察の方ですね?」

 清水と岡部も名乗り、互いに腰を下ろした。

「事件についてですよね? 大西くんですか?」

 先に話の本題を口にしたのは倉本の方だった。ここは岡部が対応する。

「はい。ただ、その前に被害者と仲良かった人がいましたらその人についてもお願いします」

 大西以外に被害者と仲の良かった人間を思い出そうとしたが、思いつかなかったらしい。一呼吸おいてから倉本は口を開いた。

「増田くんはここで一年ほど働いていますか、大西君以外に親しいようなひとは特にいませんでした。人付き合いがあまり得意ではないような感じでした」

「そうですか」

 岡部は手帳にメモをする。

「ちなみにここはどのくらいのひとが働いているんですか?」

 清水が口を挟んだ。不意に事件との関係のない質問が来たので、思わず間が空く。

「えーと……十人くらいです。」

 質問の意図が分からない倉本は答えたまま固まってしまった。気にしないでと清水は顔の横で手をヒラヒラさせるが、警察の質問に気にするなという方が無理だろう。その様子を見かねた岡部が折れてしまった話の腰を治す。

「増田さんと大西さんはどうでしたか?」

「増田君と大西君はもともと知り合いだったようです。仕事を覚えるまでは同じ時間のことが多かったです」

 その後も被害者と大西の人間関係を聞いたが、仲のよい人はいなかったが、特に問題は起こしていないようだった。詰まる所、動機ある人はいないようだ。

「今日は大西さんはいらしてますか?」

 答えは分かっている。倉本は大西を呼んでくると席を外した。

「容疑者一号はどんなひと?」

 手帳をめくる音が聞こえる。

「大西は高校のとき警察のお世話になってますが、現在は多少更正して問題は起こしてません。捜査にはあまり協力的ではないですけど」

 清水は顔をしかめた。


「それで、今日は何を聞きにきたんですか?」

 大西の第一印象は最悪だった。

 倉本と色の違う制服を着た彼は二人の前に座り煙草を吸っている。警察に尋問されるのは慣れていると言わんばかりの態度だ。

「発見当時の状況を確認させてください」

 こちらは清水が対応した。黙っていれば美人の彼女の方が何かと都合がよい。

「大西さん、遺体を発見する前は何をしていましたか?」

 少し前のめりになり、柔らかい表情をつくった。

 あ、猫をかぶったな、と岡部は心の中で呟く。

「十時過ぎまでここでバイトしてたよ。店長に聞いてくれれば分かる」

 大西には効果あったようだ。あきらかに機嫌がよくなっている。

 清水はにやりと笑った。もちろん心の中で。

 やはりこのポーズが最も自然で、最も魅力的で、最も効果的なものだと確信する。

「普段から増田さんの家には遊びに行ってたんですか?」

「あいつとは月に何回か遊んでいたけど、家に行くのはたまにかな。ガソリン代も馬鹿にならないし」

 メモ帳に視線を落としていた岡部が大西の方を向いて口を開く。

「毎週決まった時間に訪れていたと聞きましたが――」

 大西の機嫌が悪くなった。岡部が話終わる前に噛み付くように言い放つ。

「必ずじゃねえよ。あいつん家に行くことの多い曜日があるだけだよ」

 言い方の違いはどうあれ、毎週のように被害者宅に訪れる曜日、時間があるのは確かで、それが事件と重なったということだった。このパチンコ屋から事件現場までは車で三十分程度なので移動手段があれば犯行も不可能ではない。事件当日、被害者は彼女と居酒屋を二件回ってから帰宅したのだから不意を突けば騒がれずに殺すことも出来る。

「ちなみに、ここには車か何かで来てるんですか?」

 大西の機嫌を取るように優しく尋ねると、アホ面下げて答えた。

「バイク、バイク。かなりカスタムしてるんだよ。マフラーとか――」

 バイクの話題になると饒舌になる。ただ、清水はバイクに全く興味がないので適度に相槌を打ち、ニコニコしていただけだった。それでも、ある程度話して満足したようだった。

「俺としても早くあいつを殺したやつを捕まえてほしいんだよ」

 一通り話した後は、まるで他人事のようにイスにもたれ掛かった。清水は死体を見つけた時は半狂乱の状態で呂律も回っていなかったという話を聞いていたのでもう少し動揺していると思っていた。

「増田さんに恨みを持っている人は思いつきませんか?」

「どうだろうな、特に思いつかないけど」

 大西の目が少し泳いだのを二人は見逃さなかった。

「そういえば、あいつは女癖が悪いからな」

 自分の彼女にも手を出していたことまでは言わない。ただ、それは彼のプライドが許さないだけだろう。

「そちらの怨恨の線も調査してみますね」

 参考になりました、というのも癪なので笑顔を作りそれっぽく対応して、話を終えた。

 大西を見送り、倉本に一言声を掛けてから車に向かう。

 その途中、立体駐車場に続く渡り廊下の上で視線を感じ振り向くと、事務室に案内した男がこちらを見ていた。捜査に協力してくれるのかと思い清水が声を掛けようとしたが、すぐに店の奥に姿を消していった。

「何か怪しいですね」

 清水の後ろで岡部がメモ帳に何か書き加えている。

「彼の事も調べといたほうがいいかもね」

 今日のところはひとまず退散することにした。


 後藤が目を開けるとそこに清水の姿は無かった。

 焦って事務所内を見回す。中央の長椅子で頭をこちらに向けて横になっているのが見えた。

「大丈夫か?」

 いつもと同じ声色が出せていない自分に気づく。目を閉じる前まで皮肉を言うほどの元気だった女性が項垂れている姿に動揺が隠せなかった。

「大丈夫だから」

 清水は右手を挙げてヒラヒラさせている。左腕で顔を隠すようにしているので表情までは読み取れないが、言葉通りの意味に捉えられるほど素直な性格はしていない。

「な、なにか飲むか?」

「ふふ、インスタントコーヒーくらいしかないんじゃないの?」

 清水の声はいつもと変わらない。張りがあり芯の通った声。ただ、最初の笑い声は少し震えていた。

「他人に自分の見た映像を流し込むのは……きついのか?」

「まあね、でもあと一回くらいなら大丈夫よ」

 清水は大きく息を吸って、一気に体を起こす。と言っても長椅子に座ったまま立ち上ろうとはしない。

「次は容疑者三号の大石早苗の流すわよ」

「本当に大丈夫か?」

 後藤が話終わる前にくどい、と怒鳴りつけんばかりの目力で睨んでいた。その迫力に思わず身構え、尻すぼみな言い方になってしまっていた。それを誤魔化そうと、少し意味深げな口調になるように気を付けて話す。

「あ、いや、実はもう犯人の検討はついているんだ」

 清水の驚く顔を期待したのだが、目を反らすだけだった。彼女は一瞬動きが止まり、腕を組んでから一言。

「それじゃ聞かせて」

 先ほどまでの不調が嘘のようにビシッと決めた一言だった。実はあれは演技だったのではないかと思うほどに今は凛としている。警察としてのスイッチが入ったのかもしれない。

「あ、先に言っておくが、犯人は分かるが、物的証拠は仮説の域を出ていない」

「は?」

 まるで駄々を捏ねた子供にむけるような呆れた眼差しを向けてくる。いい年をした男には少し辛いものがあった。

「証拠がある証拠まではない、っていうだけだ。犯人の性格からして、多少不自然でもすぐにでも手放そうとするから急いで調べた方がいい」

「じゃあ、早く犯人教えなさいよ」

 もっともな意見である。後藤は釈然としない気持ちのまま、犯人とその犯行についてもう一度頭の中で整理した。

 ある程度話の筋道をまとめたところで、精一杯探偵らしく自信に満ち溢れた口調を意識して口を開く。


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