6.祐司の異能武装
肩のインコが飛び立ち、曇り空に羽ばたいて消えた。
「異能、武装……?」
「そう。その名の通りあなたたち特有の武装能力。体の奥底に眠る強い力。それがあれば敵と戦える。あなたの帰り道になる」
はっと視線をミヤコに移すと、彼女は祐司にうなずいて見せた。
「異能武装を使いこなせるようになりなさい。そうすればきっと帰れるわ」
「……どうすれば?」
「異能武装は各人各様の形態をしているの。だからまずは自由に取り出せるようにならないと始まらない。試しにやってみて」
祐司は目を瞬かせた。
自分の手を見下ろし、再びミヤコに目を戻す。
「……えっと、だからどうすれば?」
「念じなさい。異能武装は使い手の意志の力と密接に結びついている」
いまいちピンとこないまま祐司は目を閉じてみた。
異能武装はドールチルドレン? の固有の武器。体の奥底に眠る強い力。
それを取り出す、とミヤコが言ったので、イメージの焦点は腹と胸の間だった。その境目から熱の塊を引っ張り出してくるような感覚。
精神を統一し、鋭くする。
まぶたの内側の暗闇の地平に、何かが、何かが見える――
目を開いた。
だが何も出てこない。
自分の手から視線を上げると、ミヤコの苦笑いとぶつかった。
「まあそう簡単にはいかないかもしれないわね」
うつむいた祐司に、少し声を明るくして彼女は言う。
「焦ることはないわ。じっくり行きましょう。間違いなく力は与えられているんだからきっかけさえあれば――」
「なら作っちまうか、きっかけ」
こきっ、こきっと。
首を鳴らしながらキリュウがこちらに進み出てきた。
「要するに異能武装を使おうって意志の力が最大限に高まればいいわけだろ?」
「キリュウ?」
訝しげな顔のミヤコの横を通り過ぎ、彼はこちらに近づいてくる。
次第ににんまりと吊り上がるその口の端を見ながら、祐司は嫌な予感に体をこわばらせた。
「だったらやることは一つじゃねえか」
「な、なにを……」
「つまりこうすんだよ!」
空気が音を立てて破裂した。
一歩退いた祐司の鼻先をキリュウの拳がかすめる。
さらに二、三発が目の前をよぎる。
慌てて飛び退ろうとするが、その前に視界が回転した。地面に叩きつけられる。
踏ん張った足を払われたのだ。
見上げると、キリュウのブーツの底。
祐司の胸を踏み抜こうと勢いよく降ってくる。
祐司は反射的に両腕で庇った。
きっと無駄だろう。腕の骨は折られ砕かれそのまま体も踏み抜かれる。
だが、それでも――
(防げ……っ!)
視界の真ん中で何かがうごめいた。闇色の何か。
ズンっ、と衝撃が体に伝播した。
「……へえ」
キリュウの声がすぐそばで聞こえる。
「これがお前の得物か」
どうやら、体は無事のようだった。
痛みもないし息もできる。喉から内臓も飛び出ていないから踏みつぶされてもいない。
おそるおそる目を開けると、灰色が目に入った。
宙に浮かび、キリュウの足を受け止めている。
流れるように滑らかな形状のそれは、見たところどうやら盾のようだ。
「盾のドールチルドレンってことね」
こちらをのぞきこんで、ミヤコ。
「武器種的にはキリュウと同じじゃないの」
「それ言うなよ。なんかケチつけられた気分になっから」
キリュウが足をどけると、それに合わせて盾は消え去った。
「とりあえずこれで第一段階クリアね」
「帰れるんですか……!?」
はっとして祐司は起き上がった。
だがミヤコは首を振る。
「第一段階って言ったでしょ。まだまだ訓練はここからよ」
「で、でも武器はでましたよ?」
「もう一度出せる?」
言われて気づく。力の気配が消えていることに。
「異能武装を意のままに扱えないと意味ないわ。わたしたちは任務があるからこの場を離れるけど、あなたはここで力の扱い方を研究なさい」
「そんな……」
「嫌なら一生ここにいることになるわよ」
厳しく言い放ち、ミヤコは二人を連れてグラウンドを出ていった。
後には呆然と立ち尽くす祐司だけが残された。
飛んで戻ってきたインコが、肩に乗ったのにも気づかなかった。