3.ミヤコ
「それで連れてきたのがこの子って訳なの? ユージ君? だっけ?」
「は、はい」
名前を呼ばれ慌ててうなずく。
慌てたのは、そのそこはかとない詰問口調に緊張したからだ。
目の前のきつい目をした女性は、怪訝そうに首を傾げた。
「迷宮に守護機械以外のものが出るなんて聞いたことないけど、あなたは人間なのよね見たところ。一体どこから来たの?」
祐司は答えに窮した。
答えられないでもないが、その答えがそのまま通じないような気がしたからだ。
マキとキリュウというらしい二人に助けられ、あの後祐司は白い通路から地上に出た。そう、つまりあの通路は地下にあったのだ。延々歩いた先の階段を上ると、石造りのドームの中のような場所。
そこに彼女はいた。
名はミヤコと言うらしい。しわひとつないぴしりとしたスーツに身を包み、年齢はおそらく二十かそこら。髪も後ろで几帳面にまとめ、どこか険しい目つきは見据えられる方を落ち着かなくさせる。
雰囲気からしてマキたちのリーダーか何かのようだが……
「ええと、なんて言ったらいいか……」
「彼はここではないどこかから来たそうです」
口ごもる祐司の横から声を上げたのは、マキという少女だ。灰色のジャケット姿、肩口で切りそろえた髪、何も映さない眠そうな目。報告の声もどこか虚ろできっと意識はここにはない。
「デンシャ、という乗り物から下りたところ、気づいたら迷宮にいたそうです」
「デンシャ?」
「大勢乗れるのだそうです。とても長い距離を移動するとか」
「ふうん、長距離? なんで迷宮内で乗る必要があるの」
「不明です」
二人分の視線がこちらに向く。
「え、いや、なんでって言われても……」
祐司はたじろいだ。
元は迷宮とやらじゃなかったし。
「バカに答えを求めても無駄に決まってんだろ」
次に声を上げたのは、祐司の後ろの方にいたキリュウだ。
だるそうに首を回しながら言う。
「バカは明快な答えを持ってるはずねえんだ。なぜかって? そりゃバカだからだよ」
灰色のコート、短く刈り込んだ髪、三白眼気味の険のある目つき。声には皮肉の気配が色濃く込められていて、傲慢さを隠そうともしていない。
「分かったらこんな無駄な話、さっさと切り上げて休もうぜ」
「ところで今日守護機械の大群に襲われたのは、キリュウがヘマをしたからです」
「あ、てめ」
「隠れてやり過ごせばいいものを、彼は自分から飛び出していきました。理由を訊いても暇だったからとそればかり。彼の理屈で行けば間違いなくバカです」
「へえ」
ミヤコの視線の温度が下がった。
キリュウが舌打ちする。
「んだよ、文句あんのかよ」
「いいえ、バカにつける薬はないものね」
「ケッ、分かってんじゃねえか」
ドームの出口に向かって歩きながら手をひらひらさせる。
「俺はもう飽きた。後は勝手にやってろや」
「はいお疲れ」
キリュウが出ていったところで、ミヤコはマキにも解散の合図を出した。
「あなたももう戻っていいわよ。後はわたしがやっとくから」
「わかりました」
マキも姿を消し、二人だけになったドームで、祐司はあらためて緊張に体を硬くした。
そんなこちらを気にする風もなく、ミヤコはすっと背筋を正す。
「そういえば正式な自己紹介が遅れたわね、ミヤコ班の教官を務めさせてもらってるミヤコよ。よろしくね」
「は、はい」
「ところで本当はさっきから気になってたんだけど……」
そのすらりとした指が祐司の右肩を示す。
「その小鳥は何?」
その青いセキセイインコは、うとうとと体を揺らしていた。
「いや……これは僕にも全くわからないです……」




