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 話のあと、ツァガーンはもう吹っ切ったのか、いつもの雰囲気に戻っていた。

 挙げ句の果てに晩飯まで食ってから帰っていきやがった。


 俺に死んでほしくないとか言っていたが、実際はルクアの飯が目当てなんじゃないか?

 来たときは必ず食っていくからなあ。

 気持ちは分かるが。


 まあ、それはともかく、翌朝、俺は円卓会議を召集した。

 偉そうに言ってみたが、実際のところは朝のミーティングみたいなものだけど。


 皆、予感はあったのだろう。

 対サルディニアに動く方針は、特に問題なく了承された。

 今、護衛任務についている連中も、順次戻ってくる予定だ。


 縹局の方針は問題ない。

 だが、実際に動く段になって、別の問題が見えてきた。

 ヴォイドが総括する。


「最終的に問題になってくるのが、機動力の差でしょう。サルディニアは馬を用い、こちらとは桁違いの移動範囲と速度を持ちます。襲撃に対応しようとしても、辿り着いたときには去ったあと、ということが充分にあり得ます」


 なるほどな。

 だから騎士団は、馬賊対応を捨てて、本陣を迎え撃つというわけか。

 騎士たちも馬を使っているらしいが、ようやくそれでトントン、ならば追いかけっこはいたちごっこになってしまうよなあ。

 ルーチンワークと化すくらい繰り返されてきた歴史だ。ここで俺がいきなり解決策を思い付ける筈もない。

 巡回頻度をあげて即応力を高めるくらいしかないぞ。

 斥候を捕まえるという手もあるが、現状の縹局のマンパワーでは、カバーできる範囲もたかが知れている。

 俺とリムが広域レーダーになって、可能な限り早めの指示を出すことは出来るだろうが、抜本的な解決策とも言いがたい。


「ふうむ、馬賊の集結点を見つけられれば話は早いんだろうがなあ」

「それは難しいと思います。サルディニア軍ならともかく、馬賊は個々に動きますので」


 え、あれ、そうなの?


「済まん、認識に差があるかもしれん。馬賊ってなんだ? サルディニアの先遣隊とは違うのか?」

「申し訳ありません、失念しておりました。馬賊とサルディニア軍とは連携することもありますが、基本的には別物、と理解しております。サルディニアは遊牧を生業にしていますが、国境付近の遊牧民のなかには、他国に対する略奪を常習的に行うものが多く、それらが馬賊と呼ばれております。大氏族の侵攻で被害が増すのは、王国の守備が軍相手に集中している分、行動の自由度が増すから、でしょう」

「じゃあ、サルディニア軍自体は、馬賊ではないのか。戦争を仕掛けては来るが、略奪が目的ではない、と?」

「いえ、彼らの通ったあとには何も残らないと言われているくらいですが」


 なんだ、それは。

 結局、サルディニアは略奪に対する忌避感がないということか。


「なら、馬賊との違いはなんだ? 大氏族に直結した指揮系統が有るか無いか、かな?」

「仰る通りです」

「ふむ、つまり、大馬賊集団がやって来る時に小馬賊も尻馬に乗って活発に動き回る、ということか。大馬賊と直結はしていないから潰したところでサルディニア軍には影響がないし、サルディニアが撤退しても馬賊はお構い無しに暴れ続ける、って訳だ」

「慧眼、恐れ入ります」


 なるほど、これは面倒だ。

 だからこそ国は、馬賊の被害には目を瞑って、より大きな敵、サルディニア軍に集中するんだな。

 ならば、縹局の相手は小馬賊にしたいところだが、今度はマンパワーが足りない、と。


 仕方ない、割りきるか。

 背伸びしても意味がないからな。

 全部を救えないからと言って動かないのは愚の骨頂だ。

 無理こそしなくていいが、俺たちは俺たちに出来る最大限、馬賊を狩ればそれでいい。よし、竜狼会はそれで行こう。


「了解しました」

「ジークムント、戦力配分は任せる」

「我が君のみ心のままに」


 俺自身は、強力な点を前提とした作戦立案に自信なんてない。その点、実はジークムントがうちの面子の中では最も長けていた。

 昔の戦記に詳しいのだ。

 過去の事例を誰よりもよく知っている。

 個人パーティーで魔王を倒すような、ゲームみたいな戦力バランスが成立してしまうこの世界。

 英雄たちを活かすために動き、支える軍隊、国家という関係が、どちらかと言えば普通なのだ。


 俺やリム、ザイオンといった強力な点、これを活用しながら縹局が動くとなると、過去の英雄譚は教科書みたいなものだ。

 ジークムントに骨子を決めてもらい、ヴォイドが現場に合わせて調整する。そして、俺は指示通りに暴れる、と。

 うむ、理想的だ。


 一兵士、この辺が俺の器だよなあ。





「そうだ。今の流れはよかった。力は要らないんだ。力みは滞りに繋がる。何度も言うが、流れゆく水の如く、だよ」

「とは言うものの、緩急はつけるだろう。急のためにはやっぱり、力を入れてしまうな」

「そうだろうな、よく分かるよ。だが、考えてもみろ。たゆたう流れも、早瀬の急流も、水自体が何か力を調節していると思うか?」

「ううむ、理屈は分かる。落差とか、環境、周りの動きが流れを変えるんだよな?」

「うん。水はただ、あるがままだよ。操ろう、逆らおうと思うから、力が必要なんだ」


 その感覚を、俺は既に知っている筈だった。

 太郎丸と離れ、グリードと死闘を繰り広げていた時に、力を使わない動きを体感したのではなかったか?


「あと一つ、貴方は勘違いをしているよ」

「そうなのか?」

「貴方は急、の時に力が要ると思っているけれど、貴方の体は、緩の時の方が力んでいる」


 なんだって?

 そうなのか?


「……つまり、流れを塞き止めようとして無理をしてるってことか?」

「そうだ」


 なるほどねえ。力を入れなけばゆっくりになる、というわけではないんだな。

 難しいもんだ。

 力を入れる、抜く、の概念そのものが、俺の認識とは微妙に違うのかもしれない。


 まあ、いずれにせよ、俺に出来ることは、凛を信じて教えられるままに動くこと、それしかないが。

 完全無欠の素人なんだから、下手な考えが凛に通用する筈がない。

 千年を越える歴史を持つ武術だ。俺程度が思い付くことは全て、検証されていると考えるべきだろう。


 凛の教えを俺が受け止め、鈴音に修正されながら、ただひたすらに型稽古を繰り返す。

 結婚してからこっち、早朝の修練が俺達の日課となっていた。

 もう、心臓に足を向けて寝ることなど出来ない。

 疲労を考慮しなくて良いということが、どれ程チートであることか、俺はようやく実感出来るようになっていた。


 凛と共に汗を流し、ルクアの作ってくれた朝飯を食べる。なんという幸福者だろうか、俺は。

 給仕をしてくれるのはシャナなんだが、なかなか召し使い枠から出てきてくれないなあ。

 とても楽しそうに世話してくれるものだから、仕事を取り上げるのも何か筋違いなような気もするし。

 勝手にくつろいでいるリムくらい、傍若無人になってくれてもいいと思うんだが。


 と、そんな朝の時間に、斥候からの報告が入ってきた。

 無粋だなあ、と思わなくもないが、ここで報告を後回しにしだすと、まあ、漫画とか小説とかで主人公にやられる側まっしぐらって感じだよな。

 即座に、報告を聞く。


「ジェニングス商会の高速馬車が、こちらに向かっております。ルドンではなく、ヒノモトを目指しているとの報告です」

「分かった。迎えには俺が出よう。戦線からは外れる。ジークムントに伝えてくれ」

「了解いたしました」

「聞いての通りだ。リム、今日は俺の分も頼む。動けるようになり次第、すぐに追いかける」

「分かった」


 さて、誰が来たかな?

 やっぱりゴートかな。


 アレが完成したのなら、リムにも関係ある話なんだが、今は馬賊対応の方が優先だからなあ。

 とりあえず、会ってから考えよう。


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