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本日13部一挙投稿【9/13】

「これは、予想外ですな。いえ、さすが我が君」

 累々たる屍を乗り越えたその先で、俺たちは途方にくれていた。ジークムントの慨嘆にも、力がない。

 頭を下げているのは、調子に乗った料理人たち。経緯を考えれば、俺もその列に並ぶべきなのだろうが。


 概ね予想できているかとは思うが。宴会から一夜明けて、平常運転には戻らずさらに一夜明けて今、食糧が、底をついていたのだ。

 さすがに肉だけはまだ充分に備蓄があるが、人は肉だけで生きるに非ず、といったところか。


 幸い、俺も、食えば食っただけ腹に入るけれども、食わないなら食わないで、全く平気だった。他の仲間たちと同じ一食分で、充分に満足できたものである。

 毎日あの量が必要なら、俺たちは即日、破産していたことだろう。


 それでも、早急に対策が必要だった。

 端的に言えば、稼ぐ必要があった。


「ともかくも、急ぎで金が必要でしょうな。当面は、マジク兄弟の遺産で凌げるでしょうが」

 うむ、皆の顔が暗いな。この世界で手っ取り早く金を稼ぐ手段はあるのだろうか?

 魔獣を狩って魔珠を売るとか、それくらいなら俺でも力になれそうだが。食い尽くした責任は、間違いなく俺にあるしな。


 いや、待てよ、マジクの遺産か。

「確かマジク兄弟には賞金がかかってるとかいう話じゃなかったか? 賞金、貰えないかな」

「いえ、我が君、それはあくまで我が君のものです。我々の食い扶持は我々で稼がねばなりますまい」

 なんと。

 なんだよ、水臭いな。いや、やっぱりまだ、所詮は余所者ってことか。


 くそ、負けてたまるか。ここで仲間にならずして、いつ仲間になれるというんだ。言え、祐。頑張れ、俺。


「寂しいこと言うなよ、ジークムント。あれだけ酒を酌み交わしておいて、俺だけ蚊帳の外ってのは少しばかりつれないんじゃないか?」

「いえ、我が君! 決してそのような……」

 よし、乗ってきた。


「じゃあ、受け取ってくれないか。賞金、もらっちまおう。大体、ほとんど食ったの、俺じゃないか。仲間に入れてもらえるなら、一蓮托生、変な遠慮はしないでくれよ」

 それに、この話の流れだと、きっと計算外になっている筈だ。

「あのでっかいのの魔珠だって、売ってくれて良いんだぜ」

「なんだって? そりゃあちと、気前の良すぎる話じゃないですかい?」

 口を挟んできたのは、俺と意地の張り合いをした料理長、ベルガモンだ。


 禿げ頭の厳つい筋肉ダルマでありながら、繊細な包丁捌きを得意とする、ギャップに満ちたおっさんである。酒の肴に話してくれた事によると、元傭兵であり、気に入らない上官と揉めて、勢い余って殺して逃げてきたという。話によると、どうも民間人を虐待しようとしていたところを、ベルガモンが止めに入ったという話らしいが。

 いいやつなんだか、悪いやつなんだか、良くは分からないが、気持ちのいい男である事は間違いない。

「魔珠は武芸者の生命線じゃあないですかい。己を高めるために使うも、売って明日の糧に使うも、そりゃあんた次第だが、あんたが狩った、あんたの魔珠だ。俺はあんた自身のために使うべきだと思いますがね」

 うん、なるほど、ベルガモンは通すべき筋にこだわる人間なんだな。上官と揉めたのも、その関係かな。


 でも、魔珠に対する感覚は、これが一般的なんだろうか。他のやつらも、異論が無さそうなんだが。エルメタール団、お人好しに過ぎないか?


「ふむ、俺自身のために使っていいなら、やっぱり売ってくれて構わないぞ。今の俺の食い扶持は、ベルガモン、あんたにかかってるんだからな」

「そりゃ、そう言っちまえば、そうなんですがね……」

 よし、俺が居候すること自体は問題なく受け入れられているようだ。あの宴会で随分と打ち解けられたとは思うが、地味に嬉しい。


「それにな、俺の力は魔珠に依存しない。俺に魔珠は必要ないんだ」

「そりゃ本当ですかい?」

 あれ、地雷だったかな?

 やらかしたか?


 皆の驚き方が半端ない。この世界の武芸者の強さは、そんなに魔珠に頼ってるのか?

 鈴音と太郎丸に頼りきりの、俺が言うのもなんだけど。

 魔珠、どんだけ重要アイテムなんだ。強化の一手段程度かと思っていたが、認識を改めなければならないらしい。

 いや、ジークムントだけは訳知り顔だな。俺の事でジークムントだけが驚かないのに慣れすぎていたが、心当たりでもあるのかも知れん。


「やはり、我が君は華桑の血を継いでおいでですか」

 また出たな、華桑か。話し振りからは、どこかの国か、民族といったところか。俺の出身を誤魔化すのに使えるかな。

「華桑か。それは国の名か? 俺の国が外からなんと呼ばれているかは知らないが、俺の国は俺たちは日本と呼んでいたぞ」


 さて、どうだ?

「日本、寡聞にして存じ上げませぬな。華桑は古き詩に歌われる滅びし東方大陸にございます。黒髪黒瞳で反りの入った細身の剣を用い、その剣技は瞬速にして、変幻自在。古き時代の華桑の剣士は、魔珠を用いずに魔獣を圧倒した、と歌われております」

 よし、これは使えるんじゃないか?


 異世界から来ました、で納得して貰えるわけがないし、滅んだ大陸なら、適当なことを言っても、誰にも分かるまい。

「確かに、俺に一致する点が多いよな。と言うか、俺の国は、大陸の中でも東方の辺境だったから、実はルーデンスを知らないんだが」

「なんと!」

 いかん、またやらかしたか?


 ジークムントが本気で驚いている。

「華桑の末裔ではなく、よもや華桑大陸から来られましたか? ルーデンスはルーデンス大陸の中央国家。かつては大陸全土を支配した時代もございます。この大陸の東方辺境にはエルトゥリア諸島がありますが、華桑の文化とは似ても似つかぬものですな。聞き覚えはおありですか?」

「いや、ないぞ」

 よし、開き直ろう。堂々と、堂々と。そうとも、嘘はついていないのだからな!


「やはり、別の大陸から来られたとしか思えませぬな。華桑とは、我らが呼び習わしている名に過ぎませぬ。ルーデンスに多くの国があるように、華桑にも華桑の国があると考えた方が自然でありましょう」

「けど、どうやって? ここは内陸。ルーデンスを知らずに海から来れるとは思えない」

 おおう、リム、いたのか。ジークムントの影で気づかなかった。どれだけ張り付いているんだ、お前は。


 しかし、ここは内陸なのか。海からの距離がどれだけあるか分からないが、確かにルーデンスの中を抜けてきたなら、ルーデンスを知らないなんて有り得ないよな。疑うのも良くわかる。

 ふっふっふ。だがな、甘いぞ、リム。

 俺には必殺技があるのだ。


「そこんとこなんだがな。実は俺も良くわからん。気が付けば、森の中にいたんだ。直前まで、家で寝ていたと思ったんだがなあ」

 案の定、リムの眉がひそめられる。

「夢うつつに、誰かの声が聞こえたような気はするんだ。確か、最後の加護とかなんとか……」

「神の声をお聞きになられましたか! では、我らが出会いはローザ神の導きでありましたか」

 よし、計画通り。

 ジークムントが拾ってくれた。


 加護を乱発していたあの神の事、いざとなれば、とは思っていたが、これが本当の、困った時の神頼みだな。

「いや、夢の中で声は名乗らなかったが、そうか、あの声はローザ神というのか」

 今となっては確かめるすべはないし、あの神だか天使だかが、どのようにルーデンスと関わってきたのかなど、知る由もない。でもまあ、せいぜい利用させてもらうとするさ。


「確かに、結界の中に、突然現れた。嘘は、ついてない?」

 ボソボソと呟くようなリム。ごめんよ、困らせたい訳じゃないんだがなあ。

「ああ、嘘は、ついていない。この刀に誓ってもいい」

 太郎丸に誓ったのなら、あとで太郎丸に怒られるかもしれないな、とはちょっと思った。嘘はついてないが、本当のことも言ってないからな。

 けど、これで押し通すしか無いだろう。


「で、結局、稼ぎの話しはどうしたらいいんですかい?」

 置いてきぼりにされていたベルガモンが、困ったように突っ込む。


 そうだった。

 現実逃避していたという訳ではないんだがな。


 そうして、話しは振り出しに戻ったのだった。


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