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「なるほどねえ、春やら夏やら聞いた時点で、四季かなあとは思っていたけど、春夏秋冬で四水剣なんだな」

「そうです。攻めの夏、守りの冬、近接の春に、源流を継承する秋で四水になりますね」


 アルマーン老を待つ間、俺たちは天幕の外で騎士たちと話し込んでいた。

 最初は隊列を崩そうともせず、固く張り詰めていたようだが、手近な騎士に話しかけていたら諦めたのか、一番近くにいた小隊が俺の接遇係になったようだ。

 今は天幕前で車座になっている。


「守りの冬かあ。四水剣というからには、剣で守る技術なんだよな?」

「そうですね」

「盾を使うのは別の流派か」

「そうですねえ、盾を使う有名どころで言えば、ブロート流盾術が一番でしょうか。冬水剣の亜流の中に、盾を使う一派があるとも聞いたことがありますが、定かではありません」


 ふむ。

 さて、リックはどちらだろうなあ。

 もしもリックが冬ならば、あと見ていないのは秋だけか。


 大和の腹を枕に寄りかかりながら、空を見上げる。俺の後ろで寝そべっている大和の首には、リムが絡み付いていた。

 車座になっている騎士たちも、思い思いに足を崩してのんびりしている。

 陣全体の空気も、張り詰めたものはもうない。


 いや、騎士たちの名誉のために言っておくが、決してだらけてはいないぞ。無意味な緊張がなくなっただけだ。

 まだ大和は怖いだろうけど。


「王宮騎士団は全員四水剣士なのかな」

「そうですね。全員同門になります」

「夏水剣士のディルスランって知っているか?」

「いえ、私は存じませんが……」

「私は知っております。確かルドン方面軍に所属していた筈ですね」

「ああ、そうか。やっぱり知り合いもいるよなあ」

「あの、彼がなにか?」

「あ、ごめん、特に何かある訳じゃないんだ。俺に最初に四水剣を見せてくれたんだよ。ファールドンではすごく世話になっていたんだ」


 あれ、騎士たちの表情が微妙だ。

 もしかして。


 武侠小説のネタにされていたが、遺恨がある相手を、世話になった相手、と表現してお礼参りとか揉めるシーンがあったけど、それと思われてやしないだろうか?

 四水剣をどう見せたか、って話だよな。

 戦った相手とか解釈されたかな。


「いや、本当に悪い意味じゃないぞ? 仲良くしてもらってるとは思うし、何しろ、俺の結婚式では立会人になってくれたりしてるしな」

 うん、どうやらフォローは成功したか。

 騎士たちが目に見えてホッとしている。


 ふうむ、言葉って難しいなあ。

 まあ、アルマーン老が戻るまで、俺たちはそうしてのんびり過ごしていたのだった。





 団長のライフォートとアルマーン老が戻ってきて、俺たちは帰る準備を始めた。

 陣の雰囲気の変化は明らかだったが、ライフォートは何も言おうとはしない。まあ、騎士たちがお仕置きされずに済んで良かったよ。


 俺たちの準備に合わせ、騎士たちも撤収を開始する。

 さて、それをじっと見つめている視線があるんだが、果たして気付いているのだろうか?

 鈴の音が聞こえる。

 敵意が、あるぞ?


「なあ、ライフォート。四水剣総帥の指示というものは、どの程度尊重されるものなんだ?」

 もしも俺の推測が確かならば、最大限尊重される筈と思うんだが。


「申し訳ないが、質問の意図が理解できません。我々が総帥の意志のもとに動いていることは、ご理解いただけていると思いますが?」

 うん、そこは疑ってない。


「城壁からな、狙われている。多分、じきに来るぞ」

「なんですと?」

 ライフォートの瞳が、スッと細められる。


「全身甲冑の部隊だな。三十人ほどだから、この騎士団とは比べ物にならんが、やる気に満ちている。中心に見えるのは……」

 鈴音の力に支えられれば、遥か彼方の城壁の上からこちらを睨み付ける鎧武者がはっきり見える。


「凄いな、全身金色だぞ。周りの連中より二回りくらいでかいし、あれが隊長格だろうな。角付きの立派な兜で顔までは分からんが」

「くっ、よもや……」

 心当たりはあるみたいだな。苦々しげな顔になっている。


「全軍に通達、守護方陣を敷け。エルゼールが来るぞ!」

 即座に副官に指示を飛ばす。


 ふうん、俺の言葉を、疑わないんだな。

 ちょっと嬉しいぞ。

 撤収を開始していた騎士団の動きに、一瞬で芯が出来る。

 見事な練度だなあ。


「ユウ、来る」

 リムの言葉に頷いて返した俺の視線の先、城壁の上に突然、金色の光の爆発が起きた。


 全身甲冑の部隊全員が、なんだろう、オーラとでも言えばいいか?

 金色の光を全身にまとわせながら、城壁から飛び出してきた。

 最上段から下まで飛び降り、爆発的な勢いで直進してくる。

 まるで、重装モードの全力ダッシュみたいな勢いだな。


 王宮騎士団は俺たちを守る陣を敷こうとしている。ううむ、内輪揉めさせるのも申し訳ないよな。

「目当ては俺だろう。通してくれて構わないぞ。アルマーン老だけ守ってくれ」

「いいえ、大人しくしておいて下さい。これは、王国の問題です」

「違うだろう。根っこにそれがあっても、やっぱり引き金は俺さ。俺の客だ。総帥の言葉を思い出せ。俺の意志に、最大限配慮してくれるんだろう?」


 さあ、迷ってる暇はないぞ。

 ちょっとだけ、言葉をいじってやったけど、さて、受け入れてもらえないかね?


「……そう来ますか。ならば、お手並み拝見といきましょう。本陣、前進する」

 俺とリム、そして大和を加えた本陣が金色の光に向かい、前衛が道を開ける。薄めた分、後衛を厚くしてアルマーン老たちの乗る高速馬車をしっかりと守る形になった。

 まあ、相手の移動速度が半端ないから、本陣としては移動はほとんどしていないけれど。


 エルゼールとやらからすれば、自分の進む先から騎士団が道を開けていくのだから、きっといい気分だろうな。

 そして待っているのが俺たちなわけだが。


 さて、ご対面だ。


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