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 ツァガーンは気持ちのいい男だった。それはお互い様だったのか、俺たちはよく食べ、よく飲み、よく笑った。

 俺は素面だが。


 組織の拠点に連れ込まれ、差し向かいで飲みながら、次から次へとやって来る挑戦者を返り討ちにしていく。

 さすがのツァガーンも、へべれけとは言わんが、相当酔ったようだ。


「で? あんたが長で合ってるのか?」

「おう、気づいてたか」

「そりゃあ、分かるさ」

「嘘はついてねえぞ。俺は一度も長じゃないとは言わなかったろ」

 子どもかよ。


「ああ、その通りだな。その代わり、長だ、とも一言も言ってないけどな」

「そうだったか?」

「この分だと、長から連れてこいと言われたって言うのも、あれだな?」

 お互い、ニヤリと笑って、声を合わせる。

「鏡に向かって言ってから来たんだ」


 ピッタリと重なった声に、思わず吹き出す。

 なんだ、こいつは。

 サルディニア人はみんな、こんな感じなのか?


 こんなにも息の合う感じは、本当に久しぶりだ。

 馬鹿話で笑うなんて、この世界に来てから初めてではなかろうか?


 その後も続く挑戦者との戦い。

 いつしか酒だけでなく、腕相撲や、まさに相撲の相手もこなす破目にはなったが、三つのしもべの名にかけて、容赦なく全員、叩き潰してやった。ツァガーンも含めて。

 そうとも。俺に敗北は許されないのだ。

 なんてな。





 接待役の女こそ断ったが、宴席においては普通に給仕の女たちがいた。

 ちなみに、一緒に飲んだ連中の中にも何人か女傑がいたのだが、まあ、今は屍と化している。

 その給仕役の女たちに、惨状の後始末を任せて、俺はアルマーン商会に帰った。

 「また、飲もう」、そう言付けて。


 これもルドン名物と呼べるのだろうか?

 むしろサルディニア名物のような気もするが、今回、久しぶりの味覚に再会出来たのだ。また飲まない手はない。

 久しぶりに食ったのは、チーズやクリームだったのである。

 牛なのか、馬なのか、または知らないナニかなのかはさておいて、乳製品を食えたのは地味に嬉しかった。


 商会に戻れば、精力的に動いているアルマーン老が待っていた。

 もしかして徹夜だろうか?

 悪かったな、と思わなくもない。まあ、何回やり直したとしても、俺はノルドを殺すだろうが。


「無事に戻ったか。戦果はどうだったね」

「ああ、『明の星(あけのほし)』の了承は得たよ。今回の顛末を、サルディニアは支持するそうだ」

「ふむ、ありがたい。サルディニアが味方になるなら、二対一になる。タントも黙認に動く公算が高いの。まずは局長として、よく収めてくれた。見事、だな」

 ううむ、ひたすら飲み食いして笑っていただけな気もするが、だがまあ、サルディニア『明の星』の連中と打ち解けられたのは確かにでかい。


 それに、思った以上に気に入られた感じがする。

 特に『明の星』が、俺たちを認める決定を下した切っ掛けだ。

 俺がルドン領主を全く無視していることを、いたく気に入ったらしいのである。


 言葉の端々に、ルーデンスに対する反発や反骨が透けて見えていたが、成る程、潜在敵国の根は深そうだった。

 まあ、それ以上に、自由を愛する心意気に、共感出来たわけだが。

 草原を吹きわたる風のごとく、一つ処に留まらず、常に形を変え、とらわれることなく駆け抜けて行く。

 うん、なんという浪漫。


 ただ、それが馬賊に繋がり、自由の名のもとに略奪に来るあたり、決して許せるものではないが。

 リムと家族のあの苦しみを思えば、サルディニアを気に入った、で終わらせていい話ではないと思う。


 ルーデンスとの敵対関係だよな、根っこは。

 エスト山脈から遠い宿営地にいるときは、そちらで生活が完結するのだから。

 数年周期で大氏族が移動してくるという。

 前回が六年前だから、そろそろか。

 それまでに縹局を完成させる必要があるな。


 あれ?

 意外と余裕なくね?





 それから数日、平穏な日々が続いていた。

 今のところ、元グリードの縄張りを含む俺たちの領域は、安定を見せていた。ルドン、ファールドン間は、もはや護衛なしで移動できるほどである。


 ただ、それはそれで問題だった。

 もちろん、自前で資金調達できている部分もあるが、実際はアルマーン商会、そして今ではカルナック商会を含むルドンの組織がバックアップしてくれているのが現状だ。

 周辺の安定が商業活動の活発化に繋がる以上、先行投資してくれている面もあるが、いつまでもボランティアで治安維持するわけにもいくまい。

 そもそも、本来は国の役目だろうしな。


 縄張りの維持そのものはこちらのプライドにかけて実行するが、護衛料を取るということも、視野に入れる必要があるのかもしれない。

 通行税とか言い始めたら、武侠小説の悪役まっしぐらっぽいから、悩みどころではあるが。


 ふうむ、割り切るか。


 俺がちょっと頑張れば、資金面で困ることはない筈。

 ニーアの成果次第でもあるが、うまくいけば、俺だけの資金源が確保できる。

 俺たちの屋台骨は、俺が支えれば済む。


 縹局は経済網、経済圏の構築に専念し、協力してくれる商会を募ろう。

 特別な護衛とかに別料金を設定すればいいよな。

 その代わり、依頼の完遂は絶対条件になるが。

 治安維持部隊と精鋭の依頼対応部隊に分ければ、余程のことがない限り失敗することはあるまい。最悪、俺がいく。


 ああ、あと、忘れていた。

 この世界では突発的な魔獣の出現がある。護衛を完全になくすのは、難しいだろうな。


 ふむ。

 縹局は正義の味方。

 それでいいじゃないか。

 よし、それでいこう。いいよな、ヴォイド。


「分かりました。組織の向かう大方向は、ユウ様のお望みのままに。あと、対外的な肩書きを考えておく必要があるかと思います。試案はここに」

「うん、ありがとう」

 さて。


 局長、小鳥遊祐。

 副長、ジークムント・エルメタール。

 参謀、ヴォイド・ベルスナー。

 直衛遊撃隊、リム。

 一番隊、エルメタール団。

 二番隊、雪嵐団。

 三番隊、風の谷。

 四番隊、ミュラー傭兵隊。

 五番隊、ミルミーン奉竜兵団。

 以下、募集中。

 ははっ、いい感じだ。燃えてきた。


 人数のばらつきはこの際無視だ。

 隊の番号も、あくまで順番であって、序列にするつもりはない。

 だから、円卓を使う予定である。


「試案って、もうこれでいいじゃん。文句はないぞ」

「ありがとうございます。では、これで公表して参ります」

「うん、頼む。ミルミーンの連中は、もう着いたのか?」

「先程斥候から報告がありました。間もなく到着かと」

「分かった。迎えに行くよ。ハク、頼む」

「うむ、望むところじゃ」


 さて、どんな大騒ぎになることやら。

 竜胆の里を訪ねたときの大騒ぎを思い出しながら、俺は部屋をあとにしたのだった。


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