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本日13部一挙投稿【8/13】

ゆうだよ」


 申し訳なさが手伝い、俺は自分から名乗っていた。御輿みこしになりに来たわけではない。俺はちゃんと向き合いたくなったのだ。ジークムントと、その愛する仲間たちとに。

「俺の名前、祐なんだ」

「我が君、ご尊名を拝する栄誉を賜りましたこと、心より感謝申し上げます」


 ……出会い方がもう少し違っていたら、と思ってしまう。もっとも、そうなったら殺し合いだったかも知れないけど。考えても詮無いことなのだろうな。

 洗脳が恐ろしすぎる。あの場で他に選択肢はなかった訳だが。

 価値観の置き所が変わっただけで、人格まで歪めたわけではない事が、果たして慰めになるものやら。あのままマジク兄弟の言いなりになっていたよりは、幸せそうではあるのだが。他の団員を含めて。


 そういう意味では、俺がここに受け入れてもらうためのハードルは高い。


 強さを盾に居座るようなら、ただ名前が変わっただけで、マジク兄弟の再来である。団員達も、懲りていることだろう。腫れ物扱いも、元より望むところではない。

 手段としては、エルメタール団の頭領として、俺がジークムントを立ててやること。ひとまずはその路線で行こうか。

 打算に過ぎるかな。

 原点に帰るか。俺はただ、仲良くなりたいのだ。俺が死ぬ時、惜しんでもらえるように。


「凄い活気だな。あのでっかいのは、さっきの?」

「左様です、我が君。久し振りの大物ゆえ、皆も喜んでおりますね。当分食うに困ることもありますまい」

 そうか。

 解体しているから、そうなのだろうとは思っていたが、魔獣、食えるのか。


 お、食うとか考えた途端、腹が減ってきた。

 盛大に腹が鳴る。

 よほど遠くまで響いたものか、結構距離のあった者たちの顔にも笑みが浮かぶ。

 ジークムントも晴れやかな笑みを浮かべていた。


「健啖なご様子、重畳ですな。平行して料理も進めておりますゆえ、少し早いですが、始めてしまいましょうか」

 ジークムントのその言葉に、気の早い幾人かが歓声をあげる。活気に輪がかかったようだ。

「ああ、それと我が君、その装束はルーデンスの騎士伝統の古装なのですが、とても良く、お似合いですぞ」

 よせやい、照れるじゃないか。




 なしくずしに始まった宴会は、かえって和やかなものになったかもしれない。どうしても急ぎで処置しなければならない作業中のものに、差し入れに行ったり、あるいは向こうから走ってきて、勢い良く料理を掻き込んだかと思うと、また走って作業に戻るものがいたり、と、ざっくばらんな雰囲気がとても良い。


 気がつけばいつの間にか、俺の横にはシャナがいて、料理を取り分けてくれたり、酒を注いでくれたり、となにくれとなく世話を焼いてくれていた。頬が緩んでしまうのもやむを得まい。


 料理は野趣溢れるもので、大きく切り分けた肉の、丸焼きやら、香草詰めやら、何かと煮込んだものや、パンに挟んだものや、なんやらと、とにかく肉中心だった。しかも、これがまた旨い。

 大型の猪だけに大味なのかと思いきや、しっかりと肉の旨味が凝縮しており、肉汁も豊か。ただ焼いただけでも、塩味だけで充分に美味しく頂くことが出来た。


 おまけに、生食さえ出来たのである。

 確かに目の前で出現し、瞬殺したのだ。新鮮さについては折り紙付きだろう。醤油がないのが、とても残念だ。


 しかし、食事が、宴会が、こんなにも楽しいものだったとは。


 全部で30人足らずだろうか。次から次へと名乗られても、正直全く覚えきれないが、犬耳少女がリム、というのだけは覚えた。覚えたはいいが、彼女は忠犬よろしくジークムントにべったりである。いっそ潔いほどに絡んでこなかった。もしかしたら、俺のことを、マジク兄弟の再来にならないよう、一番警戒しているのかも知れないな。

 そう言えば、獣っぽいやつは何人かいたが、獣人らしい獣の耳や特徴を持つのは、シャナとリムの二人だけだった。


 料理は次から次へと運ばれ、あちらこちらで談笑の輪ができている。宴会芸を披露し合っているやつらもいるようだ。あちらでは、俺がいかに猪を倒したか、というのを随分と脚色して熱弁を振るっている。実際は受け止めて斬った、ただそれだけの一瞬の交差であり、話の種にはあまり向かないように思うのだが。と言うか、鈴音の冴えなど、見えた筈があるまい。


 ジークムントは、作業が一段落したのか、今は俺と差し向かいで飲んでいる。

 飲んでいる。そう、酒だ。


 ぶっちゃけてしまえば、俺はこうして酒を飲むのは初めてだった。大人の目を盗んであいつと一緒に試したことはあるが、その程度だ。


 正直、俺が幾つまで生きていたのか、記憶は定かではない。あいつを失った16の時から、俺の時間は止まっていたのだろう。

 惰性で4年も生きられたとは思えないし、多分未成年ではないかと思うのだが。


 それにしても、旨いものだな、酒とは。

 これはウィスキーとかの類いなんだろうか?

 一口ごとに、喉と腹に焼けるような快感がある。


 エールというのだろうか、ぬるくて甘い、でも味のある、ビールのような酒も旨かった。

 嬉しいことに、酔うような感覚が全く無かった。酩酊せずに、ひたすら旨さを味わい続けられるのは、凄くお得な気がする。


 いつの間にか、周りが静まり返っていた。

 ジークムントだけは我が事のように嬉しそうにしているが、他の全員の表情は、驚愕以外の何物でもない。


 うん、分かるよ。俺もおかしいとは思っていた。

 さっきから、来る料理を片っ端から俺が食い続けている。いったいどれだけ入るのか、と、俺も聞きたいくらいだ。もういい加減みんな満腹だろうし、とうに潰れたヤツも散見される。

 でも、俺はまだまだ食える。

 うん、絶対おかしいよな。

 太郎丸、お前のお陰か?


 太郎丸は俺に筋力と耐久力を与えてくれている。胃腸や肝臓も、強くなっているのかもしれないな。

 いや、それともこれは、第三のしもべの力だろうか?

 心臓の辺りに思いを馳せる。実は、第三のしもべは、俺の心臓と一体化している設定なのだ。そして、毒や怪我など、あらゆる侵害刺激に対する高い耐性を与えてくれるのである。

 外から俺を守るのが太郎丸なら、第三のしもべは内にあって俺を助ける、言わば、生命維持装置みたいなものと言えるだろうか。できるだけ少ないキャラ作成点で、いかにルール的に有利な形で、どれだけ主人公を不死化出来るかという実験で作ったような部分があり、人格なども一切削ぎ落とした機能の塊みたいなもので、鈴音や太郎丸ほど、設定も膨らませようがなかったし、あまり思い入れもなかったのだが。


 それでも、こいつは、ずっと俺を守ってくれていたのかもしれない。アルコールが侵害刺激なら、こいつが絶対に守ってくれる。

 俺は、まだまだ飲める。


「どうした? もうお開きかな? 俺は、まだまだ行けるぜ」

 その瞬間、全員の顔色が変わる。

 そこからが、地獄絵図の始まりだった。

 俺と料理人の意地との戦いが始まった。合わせて、俺以外の全員が、俺を酔い潰そうと総掛かりで襲いかかってきたのである。

 戦績は、敢えて伏せようと思う。もし何かが襲いかかってきても良いさ。俺が何とかしてやるよ。


 ああ、一つだけ。

 シャナだけは節度を守り、正体を失うようなことはなく、最後まで俺の相手をしてくれていた。


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