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「済まない、もう一度言ってくれないか」

 あまりの衝撃に、思わず聞き返す。


 ノルドを殺し、散発的な抵抗をすべて粉砕した俺は、そこでしばらく考え込んでいた。

 さて、この後始末をどうしてくれようか?


 戦争を起こすなら、このまま暴れ続ければ済むんだが、そうでないなら、うまくまとめる必要がある。

 あの女たちの、姉妹も救い出さないといけないしな。


 もし俺がこの場を納めようとするならば、その手段は力ずく以外にはない。だが、それでは「うまく」まとまるわけでないのは明白だった。他に手はないだろうか?


 こんなとき相談できる相手に、俺は、アルマーン老以外の心当たりを持たなかった。ヴォイドは連れてきていないしな。

 そして、おっとり刀で駆け付けてきてくれたアルマーン老は、タントやサルディニアにつけこまれる前に組織の体裁を取り戻せるノルドの後継者として、驚きの人事案を俺に告げたのだ。


「組織の長に、カルナックをつける」

 やっぱり、聞き間違いじゃなかった。

 あまりに大胆すぎる、予想外のアイデアだよ。


 だが、聞いてみれば、確かにそれ以上の方法は思い付かなかった。

 ネームバリュー、権力の強さ、そして裏社会との繋がり。

 アルマーン老に首根っこを押さえられてはいるが、ルドンの連中からすれば、新興のアルマーン商会よりよほど恐れられている。

 組織そのものも複数の商会が連合して作り上げているようなものだし、いきなり現れたアルマーン商会がそのトップになど、立てる筈がない。


 グリードという武力こそ失ったがカルナック商会はまだまだ有力な大商人ではあるし、付き合い方次第では縹局が協力者になることもあり得る。

 カルナックにしてみても、アルマーン商会の丁稚で終わるよりもルドンの裏組織をまとめる方がやりがいもあるだろう。

 どの程度までの野心を許すかは、今後の手綱の握り方といったところか。

 利に聡ければ、敢えて俺たちを裏切らなくても、十分に儲けられる筈だ。

 俺たちが、利をもたらすと思わせ続ければ済む話ということだな。


 ならば、話は簡単だ。

 縹局のこれからを、見ていてもらおう。

 きっと、こちらから頼まずとも、協力してくれるだろう。


「しかし、ノルドの野郎、あっさり殺しにかかっていたが、あれで俺が死んでいたら、どう言い繕うつもりだったんだろうな」

「なあに、簡単な話よ。全力で歓待したら調子に乗りすぎて腹上死なされた、といったところだろうな。どれだけ疑わしくとも、それでルドンを敵に回してまで復讐に来る組織は、まあ普通はあるまいよ」


 なるほど、えげつないな。

 えげつないが、妥当な話だ。まあ、俺たちには当てはまらなかったわけだが、それはこちらが規格外過ぎただけだと言えるだろう。


 そうだよな。

 毒が全く効かないなんて、それなんてチート?





 後始末に動いたアルマーン老のスピードも凄いものだったが、他の組織の対応も早いものだった。

 念のためルドンに残り、アルマーン老の護衛をしつつ事の推移を見守っている俺のもとに、今度はサルディニア側から使者が訪ねてきたのである。


 ツァガーンと名乗ったその偉丈夫は、伝令を名乗ってこそいたが、風格といい、佇まいといい、何処からどうみても、組織の長っぽかった。

 それが単身、俺を訪ねてきたのだ。


 ふむ、好感度の点で、ノルドとは雲泥の差があるな。

 本当にツァガーンが伝令なのだとしたら、長はもっと凄いということか?

 それだと組織の層が厚すぎじゃないか?


 よく日に焼けた彫りの深い顔立ちに漢臭い豪放な笑み。剽悍な身ごなしは、めちゃくちゃ強そうに見える。

 実際に出来るかどうかはともかくとして、軽鉄騎を駆るミルズと生身で取っ組み合いが出来そうだ。そんな雰囲気がある。


「あんたがユウか。長から連れてこいと言われてきたんだが、ノルドを殺したんだってな」

「ああ、そうだな」


 聞く人によっては無礼な物言いなのかもしれないが、まあ、俺自身、人のことを言えた義理ではない。

 それに、何となく不快感を抱かなかった。

 なんだろう。まあ、こいつならこんなものだろう、って感じか?

 我ながら、よくは分からんが。


「勿体ねえな、ここのもてなしは、そんじょそこらで味わえるものじゃねえって話だ。せっかく誘われたんだから、堪能すりゃあ良かったんじゃねえのか?」

「そんなにいいものじゃなかったよ。あんただって、実際に味わった訳じゃないんだろう? 噂には尾ひれがつくものさ」

「ふうん、ノルドが噂ほどじゃなかったのか、あんたの目が肥えてんのか、どっちだろうな」

「さてな。まあ、ノルドは余計な気を回しすぎたんだろ」

「俺たちのもてなしは受けてくれんのか?」


 さて、こっちはどうだろうか?

 俺だけなら間違いなく、何があっても大丈夫なんだがなあ。

 けど、なんだろう。こいつらには、あまり裏がなさそうだ。


「受けよう。ただし、女は抜きで頼む」

「何ガキくせえこと言ってんだ、ノルドにもなびかねえし、まさか不能じゃねえだろうな」

 なんと失礼な。


「うちで三人の嫁さんが待ってるんだよ」


 この答えはよほど予想外だったのだろうか?

 一瞬、ポカンとしたツァガーンは、だが、途端に爆笑する。

「そうかそうか、身持ちのかてえ話だな、気に入ったぞ。じゃあ、女は抜きでやろう。酒はいけるんだろうな?」


 ううむ、嫁が三人でも、身持ちは固い方なのか?

 まあ、いい。


「酒の神が相手でも潰してみせるよ」

 俺の心臓がな!


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