表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/168

41

お待たせするつもりでしたが、急遽連載再開です。

これより第二部を投稿開始します。

当面は毎日更新を目指しますので、どうぞ、よろしくお願い致します。


充電期間を頂くつもりでしたが、思わぬ高評価を頂き、気持ちはフル充電されてしまいました。

感謝の思いも込めて、走れるところまで走ろうと思います。

 遥か、眼下に広がる大パノラマ。

 霞の向こうに見えるのは、大都市ルドンだろうか。森を貫いて、街道が走っているのが見える。


 森の広さを考えれば、人類の生息域がかなり狭い事が分かる。

 なるほど、生きにくい世界だ。

 さて、我が砦は何処だろうか?


「おい、ハク。俺をずっと見ていたと言ったな。じゃあ砦の場所は分かるか?」

『ふむ、容易いことよ。あの小さき者共が集うたところであろう? 我に任せるが良い』

「今はお前の方が小さいけどな」

『さ、このまま真っ直ぐ飛べい』

 スルーかよ。ま、いいけどな。


 やっぱり空を飛べるって、いいなあ。

 遥か高みから全てを見下ろす。


 ぐるりと周囲を見回せば、遥か彼方に巨大な一つの山が見えた。

 平地の真ん中に一つだけ、そびえ立つその姿。

 なんだか見覚えのあるシルエット。

 まるで富士山だ。


『うむ、あれこそが神山ローザよ』


 そうか、ここからじゃあ、距離も分からないくらい遠くだが、いつか行ってみたいなあ。

 さて、気を取り直して、行くか。


 魔獣との遭遇もない、直線距離での移動。

 それでも、かなり時間がかかった。


 というより、この距離を、魔獣と戦いながら、一週間で走り抜けた太郎丸の機動力の方が化け物過ぎたのだ。


 遠くに見える都市がファールドンらしい。

 だとしたら、それよりも山脈寄りに砦はある筈だ。

 うん、鈴音に強化された感覚で、よく見える。


 おお、騒然としているみたいだぞ。はは、俺が空から帰ってくるなんて、夢にも思うまい。


 あれ、なんか見覚えのない集団がいるなあ。

 揃いの甲冑姿だが、どこの部隊だ?

 あれ、弓を構えてないか?


 まさか。

 まさか砦が、占拠されたのか?


 遠く、微かな弓弦の音。おいおい、まだ三百メートルは離れているだろう。

 まあ、風の防御があるし、気にせず行こう。それよりも、砦は無事なのか?

 下を走った方が早いか?


 その瞬間、鈴の音が鳴り響いた。


 なんだ?

 ヤバイのか?

 ただの矢じゃないのか?


 鈴音に強化され、引き伸ばされた時間感覚の中、矢が迫ってくる。


 どうする?

 いや、考えるまでもない。

 うん、鈴音を信じる。


 俺はその場で子狼を手放した。多少高度があるが、まあ、こいつなら大丈夫だ。

 即座に太郎丸を重装モードに。その時には、甲冑幼女が目の前に飛び出してくる。


 今の俺たちは自由落下するしかない。空中で制御は利かない。

 矢は、受け止めるしかないか。

 狙い違わず、俺の胸元に吸い込まれるように飛んでくる矢。


 ちょっと待て、風の防御をすり抜けてきたぞ?

 マジでヤバイんじゃないのか。

 抜き打ちに、鈴音で斬り払う。


 その刹那、違和感を感じた。


 矢の矢羽がぶれて見える?

 いや、数が多いのか!


 気付いた時には、鈴音を振り抜いていた。


 刃返しは間に合わない。

 そして、斬り払った矢の影から飛び出してきたもう一本の矢が、太郎丸に突き刺さったのだった。


 マジかよ、なんだこれは。

 何が起こっているんだ。


 まあ、突き刺さったはいいが、太郎丸の防御には勝てず、砕け散ったのだが。

 ただ、偽装モードのままなら間違いなく、貫通していただろう。


 こいつら、只者じゃないぞ。

 何者だ。

 砦は無事なのか?


 くそ、きっと第二射が来るぞ。

 最初に矢を放った奴を先頭に、他の奴らも弓を構えている。


 だが、俺が矢を弾いたのが見えたのだろうか?

 なにか動揺しているような感じがする。


 それでも、今度来るのは一本どころではあるまい。次は針ネズミになるかもな。

 まあ、太郎丸がいれば大丈夫だろうけど。いや、セオリー通りなら、次は徹甲弾タイプ、貫通力特化の矢がくるかもしれない。


 よかろう、受けて立ってやろうじゃないか。

 そんな負けん気が胸に湧いてくる。ただ、勝負よりも優先すべきは他にあった。


 空中制御、出来るじゃないか。

 俺は、俺自身を突風で地面に向けて吹き飛ばした。

 そうとも、一瞬でも早く、砦にたどり着かなくては。


 あれ?

 物見櫓に飛び出してきたのは、ジークムントじゃね?

 他にリムもいたか?


「我が君!」

 さすが詩人、よく通る声だ。


 地面にめり込むように着地。木々に隠れて、砦はもう見えない。

 けれども、あいつらは元気そうだったし、砦は無事な気がする。


 取り敢えず、まずはこいつを宥めようか。

 殺気立ち、今にも砦に突撃しそうな子狼を抑えながら、まずは一旦、俺は矛を納めることにしたのだった。





「誠に申し訳ござりませぬ」

 正門前の広場に皆が勢揃いして俺を待っていた。


 そして、誰かは知らないが、立派な甲冑姿の若武者が真っ先に土下座で俺を迎えてくれたのだった。もう、何が何やら。


 本当に、全員勢揃いしているんじゃないのか?

 エルメタール団をまとめているベルガモンの陰で、ルクアが小さく手を振ってくれている。


 その横には、何故かアルマーン老までいた。シャナはその後ろに控えているようだ。

 リックたち護衛の面々も見えるし、驚いたことに、ディルスランまでいる。


 この十日ばかりの間に、何があったんだろう?


 リムは、物見櫓にいるようだな。全員が門の前に集まっているんだ。一人で見張りを引き受けてくれているんだろう。

 ガン見しているらしい視線も感じるが。


 そして、問題の一団だ。


 ディルスランたちのものとは明らかに違う、どことなく太郎丸に近いようなデザインの鎧姿。


 土下座している一人はともかく、他の面々は中心に一人の女性を戴いているようだ。

 まるで姫みたいだな。


 そのお姫様っぽい人は、これがなんというか凄まじい美人だった。しかも、これ以上ないくらい日本人に見えた。


 こないだの華桑人っぽいメイドさんは、ハーフみたいだったが、こちらは純粋な日本人のようだ。

 瓜実型の細面に切れ長の瞳、通った鼻筋に、引き締められた唇。

 凛と胸を張って、少しばかり鋭い視線でこちらを見ているようだが、目が合うと、向こうの方からきっちりと礼をしてきた。


 ちょっと気圧されるくらいの美人だが、まあ、礼を返さないわけにもいくまい。


 さすがのお侍集団だが、何となく落ち着かない風情だった。

 他の皆も、視線が定まらない。

 何しろ俺の横には、馬よりもでかい狼が控えているのだ。肩には甲冑幼女が乗っているしな。


 エルメタール団の面々がビビりあがっている。ごめん、そりゃそうだよな。

 しかもまだ、殺気だったままだし。小さい唸り声が聞こえる。


 姫さんの視線は、俺に集中しているようだが。

 子狼にも動じていない。たいした肝っ玉のようだ。


 そして、まあ、ジークムントだが、彼は甲冑の面々に取り押さえられていた。


 非常に丁寧に取り押さえられているようだが、あまり、気分のいい話ではないな。

 予想するに、俺を射った若武者に斬りかかったんじゃないだろうか。


 ふう、これだけ勢揃いされると把握するだけで一苦労だぞ。

 これだけの面子が俺の帰還を待ってくれていたというのは、素直に嬉しいが。


「盛大な出迎えだなあ。まあ、なんにせよ、無事に帰ってきたよ」

「お帰りなさいませ。無事のご帰還、重畳にございます」

「ありがとう、ジークムント。もう落ち着いてくれていいぞ。あと、放してやってくれないか」

 後半は取り押さえている甲冑の面々に言ったのだが、驚いたことに、すぐに従って控えてくれた。

 ジークムントはもう落ち着いている。


「さて」

 少しだけ、姫っぽい女性に目線をやってから、土下座中の若武者に向かい合う。


「こちらは無傷だ。遺恨はない、と言っても、顔はあげてくれないか?」

「はい、知らぬこととはいえあなた様に弓引いたるは事実、許されるものではございませぬ」

 なんとも極端な。


 というか、何で俺がそんなに尊重されているんだ。心当たりなんてないぞ。

 だが、この場が断罪の場として期待されているのは間違いあるまい。


「では、聞こうか。何故いきなり射った?」

「申し開きの場をいただき、感謝に堪えません」


 彼は決して、伏せた身を起こそうとはしない。

 少しだけ震える声。思い当たることが、ないでもない。


「翼を持つ巨大な狼型の魔獣が迫ってきたと、未熟にも思い込んでしまいました故……」

 って、ちょっと待てい!

「それ、俺のせいじゃん!」


 しまった。

 子狼を前に抱えていたら、そりゃ下からはそう見えるよなあ。


 うわあ、聞こうか、なんて偉そうに言える立場じゃなかった。恥ずかしすぎる。


 こんな、こんな俺のポカミスで、こいつは死ぬのか?

 そんなこと、許せる筈がない。


「お前、陰腹斬ってるだろ」


 若武者は無言、同じ甲冑の面々も動じた様子はない。

 ルーデンス側の面々は、良くわかっていない様子だ。本当に、独自の文化を守ってるんだなあ。

 こいつらには、これが当然なんだ。


 まったく、どこの時代小説だよ。


「忠義、見事なり」

 こいつの忠義はおそらく姫さんに向かっている。というか、俺に向かう謂れがない。

 だとすると、姫さんが訪ねてきた相手をいきなり殺しかけたという話になるわけだな。


 なるほど、そりゃ切腹ものだわ。


「せっかく捧げられた命だから、ありがたく貰うことにするよ、構わないかな」

「御随意に」

 俺の言い回しには、多分、違和感がある筈だ。別に切腹は命を捧げる行為ではない筈だからな。

 それでも、問いかけた俺に、姫さんらしい女性は応じてくれた。少し低めだが、澄んだ、美しい声だな。


 さて、一芝居、打つか。


 エルメタール団の連中には、意味の分からないやりとりだろうしな。

 身を起こせば、腹の下は血の海なんだろうけど、こいつの命はまだ保つだろう。

 全員に向かって、少しばかり声を張り上げる。


「さて、エスト山脈に行ってきたわけだが、頂上にはドラゴンがいてな」

 みんな、ポカンとした顔をしている。まあ、脈絡もなくいきなり話し始めているしな。

「戦って勝ったら力をくれた」

 はしょり過ぎだが、間違ってはいない。


 まあ、百聞は一見に如かずってな。

「太郎丸、さがれ。ハク、来い」

 場を圧して広がる竜の翼。はは、さしもの姫さんも顔色が変わっている。


「知っているか。竜の血は、認めた相手に不思議な力をくれるんだぜ」

 言いながら、爪で胸を切り開き、心臓を露出させる。


 物見櫓の方から悲鳴が聞こえた。あ、これもリムは初めて見るのか。

 これは、埋め合わせが要るなあ。


 さすがに唖然とした若武者の手を取り、身を引き上げればわずかに苦痛の表情を浮かべる。

 腹の下は血の海だ。凄い精神力だな。


「忠義、見事なり。俺は認めたぞ」

 若武者の手を、心臓に触れさせる。


 感じるのは、確かな拍動。

 みるみる戻っていく顔の血色。驚愕に染まる表情。

 よし、あともう一手。


「この血がなければ死した命、見事拾ったな。天命、未だ尽きまじ。励めよ」

 我ながら偉そうだが、そうでもしないと、責任感をいつまでも引きずりそうな気がする。


「ないわ~。言葉もないわ~」

 外野、うるさいぞ。


 しもべの能力を隠すために、より大きな地雷を踏んだ気もするが。

 まあ、いい。


 さ、太郎丸。

 偽装モードでいいから、早く来てくれ。


 格好良く決めてるけどな、俺、全裸なんだよ。

 ああ、締まらないなあ。


先走った気持ちのままにこんな時間に投稿してしまいましたが、明日以降はまた、いつも通り16時投稿を狙って参ります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ