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「おはよ~、ユウさん」

「おはよう、なんであんたがここに?」


 翌朝、アルマーン商会の前で待っていたのは、裏門警備の男だった。

 そう言えば、まだ名前も知らなかったな。


「そりゃあね~、街の重鎮が森に行くって言うんだから、体ひとつではい、さよ~なら~、とはいかないでしょう」

「まあ、そうだな、ということは、あんたが一緒に来るのか」

「そうだね、よろしく頼むよ~。改めて自己紹介しようかな、ディルスランです~、よろしくね」

「こちらこそ、でいいのか? まあ、よろしく頼む」

 リムが微妙な表情をしている。まあ、従者設定だからなあ、移動の間の行動が制限されるのも窮屈な話だ。悪いことをしたかな。

 さっき欠伸を噛み殺していたし、寝不足でご機嫌斜めなだけかも知れないが。


 そう言えば、俺はある意味、しもべのお陰で無限の体力だけれども、エルメタール団の皆は疲れも溜まるか。

 ガラマールの一件からこっち、ノンストップでここまで来たからなあ。ちょっとは骨休めを考えないといけないな。

 まあ、アルマーン老の視察を乗りきってからになるだろうけど。


「お待たせしたか」

 そこに、旅支度を整えたアルマーン老がやって来た。護衛に二人、男女を連れている。

 見事なまでに、全員装備がバラバラだった。


 アルマーン老は革製の頑丈そうな服に、長い杖、香港映画とかで見る棍のようにも見える。今日は最初から片眼鏡を掛けていた。

 護衛の男性は、鎖帷子を金属プレートで強化した鎧に、片手直剣と円形の楯、いわゆるラウンドシールドだろうな。

 女性の方は、要所に魔珠が埋め込まれた革鎧に、レイピア、細身の刺突剣を帯びている。


 ディルスランは、護衛の男性より頑丈そうな金属鎧を軽々と着込み、身の丈ほどありそうな巨大な段平を背中に負っていた。

 翻ってこちらは、細身の片手剣と短剣の二本差しがリム、鎧は魔獣の革製の武骨なもので、俺は言うまでもない。太郎丸は重装モードである。刀を使うのは俺だけだ。

 装備から考えると、女性が本当の意味での身辺警護なんだろうな。


「リックだ」

「ミレイアと申します。以後、よしなに」

 護衛の二人が名乗る。

「祐だ。こちらはリム、よろしく頼む」

 護衛の二人が頷くのを見届け、アルマーン老が仕切る。

「では、参ろうか」




 一言で言えば、うるさい道中となった。

 金属鎧の男が二人いるのである。隠密行動など望むべくもない。


 そう言えば太郎丸の重装モードは、ディルスランに負けず劣らず金属質だが、鈴音の力で俺の動きが最適化されているお陰か、実は全く無音で動ける。アルマーン老たちにはあまり、驚かれなかったが。


 ふと、リムが目配せをしてきた。

「気付いた?」

「ああ」

 俺の返事に、リムが小さくため息をつく。


 俺が気付いたということは、見付かったということを意味する。

 そうなのだ。

 いくらリムが先んじて魔獣を見つけても、このやかましさでは回避が出来ないのだ。

 実は、もう二度目の遭遇戦である。


 一度目は、俺がやった。どの程度の脅威度だったのかは分からない。瞬殺したからだ。

 さて、今回はどうしてくれようか。

 いくら護衛付きとはいえ、今回の案内人は俺だ。露払いは俺の役目だろう。


 それに、俺の品定めを、している筈だ。俺が、賭けるに足る相手かどうか、盗賊狩りが妄言ではないかどうか。


 今回は六頭らしい。どうせ群れなら狼だと有りがたいのだが、そう都合良くはいかないか。

 猿と犬の合の子のような小鬼、ファンタジー的に言えば、コボルトかゴブリンといったところか。一頭一頭がリムと同等の動きをしているから、実はそれなりに強いのかもしれない。ゲーム初期の雑魚モンスター、という訳ではないようだ。少なくともエルメタール団だけでは手こずった覚えがある。


 もちろん俺の、俺たちの敵ではないが。


 さて、いくか。

「あっ、ちょっと待ってよ~、魔獣だよね? 今回はこっちに任せてもらって良いかなあ。まあ、ちょっとした小遣い稼ぎ程度にね~」

 おっと、これはどういった風の吹き回しかな?

 まあ、楽できるならそれに越したことはないか。

 エルメタール団と違い、腕に覚えがある者たちの戦いぶりを見られるのも、得難い機会と言えるだろう。


 少し開けた森の中に陣取り、先に立つ男二人と、アルマーン老のそばに寄り添う女。俺とリムは、一歩離れて戦場を俯瞰する。


「気に入らない」

「なんだ、藪から棒に」

 二人きりで、少し皆から離れた途端、リムが仏頂面で愚痴りだす。

「本当なら、避けられた戦い」

「まあ、そうは言うがな、狙いも、あると思うよ」

「なに」

「俺の実力確認のために、わざと魔獣を集めやすくしてるんじゃないかと思ってるよ」

「じゃあなんで今はあの人たちが戦うの」

 えらく胡散臭そうな顔で突っ込んでくる。だが、正直答える言葉を持たない。推論なら言えるんだがなあ。


「まあ、実力確認はお互い様、ってとこかな。いざという時のため、お互いの力量を知っておくに越したことはないだろう?」

「そうだけど。あと、貴方の口調がいつもと違って気持ち悪い」

「おいおい、気持ち悪いとは、ご挨拶だな」

「偉そう。大言壮語は好きじゃない」

 なんだよ、本当にご機嫌斜めだな。何にでも突っ掛かってきてるぞ。


 しかし、偉そうか、これは失敗だったか?

「そいつは悪かったな。舐められたら困ると思って、気張りすぎたのかも知れないな」

「そう、いつも通りでいい」

「分かった、ありがとう」

 確かに、芝居がかった口調を敢えて意識していた部分があったのだが、気持ち悪いとは、相当だった。地味に傷つく。

 ちょっと格好いいんじゃないかと思っていたんだが。まあ、過ぎたるは及ばざるが如し、とも言うからな、少し肩の力を抜くことにしようか。

 アルマーン老の威圧感には引きずられそうだが。




 先制はディルスランからだった。


 こいつらは、群れとはいっても個体戦力頼みで、狼のような連携はとってこない。狼が恐れられる理由でもあるだろう。

 思い思いに六頭が向かってくる。


 そこに、むしろ群れの中に突っ込む勢いでディルスランが踏み込んだ。軽く地面を蹴っただけに見えるのに、すごく勢いが乗っている。

 あれ、目の前でやられたら、相当驚きそうだ。

 そして、その勢いのままに、体全体を使って、大きく剣を薙ぎ払った。その範囲がおかしい。体の周り全周を、一回転させたのだ。


 森の中に突然現れた直径六メートル近い剣風。

 なんの悪夢だ。

 木々をも巻き込み、三頭があっさりと、上半身と下半身に泣き別れた。

 ギリギリ引っ掛けたのか、もう一頭も、脇腹から血をしぶかせ、体勢を崩している。

 後詰めはリックだ。コンパクトな動きで、剣先を掠めさせるように、一頭の額を割った。


 もう一頭を狙おうとした時だろうか、ディルスランに体勢を崩されたやつが、倒れかかるようにリックに飛びかかった。

 横で見ていると、不意打ち気味にも見えたが、リックは動じず、かすかに楯を動かし、その突進を簡単に受けきる。即座に頭を割る剣の動きも小さい。


 残った最後の一頭はさすがに動揺したようだ。気持ちはわかる。

 迷うように周りを見渡し、最後の獲物、女と老人に狙いを変える。

 うん、だが、それは悪手だぞ。


 体の前で構えたレイピアを突っ込む小鬼に向けるミレイア。

 その切っ先が、ぐるりと渦を巻くように円を描いたかと思うと、鋭い突きが小鬼の喉元に決まった。その一撃にどれ程の威力があったものか、首の後ろの肉が弾け飛び、体も、前ではなく、後方に倒れていったのだった。

「お見事」

 思わず感嘆の言葉が出る。


 特に連携したわけではない筈なのに、お互いの穴を補い合った、見事な瞬殺劇だった。

 動きだけ見ていれば、まるで約束組手のようだ。

 アルマーン老がじっと俺を見つめている。なんだろう、感想でも言った方が良いだろうか。


 だが、それ以上に気になる事があった。

 今の皆の動きは、かなり洗練されたものなんだろうと思うが、それでも、動きの早さや威力などは、見た目以上の力が籠っていたように思える。これは何だろうか?

「なあリム、スキルとか、技とかって、あるのか?」

「何を言っているの? 武芸を修めれば、技の一つや二つ、身に付けられると思うけど」

「いや、そうじゃなくて、こう、魔力を使ってすごい効果を出すとか……」

「魔法回路のこと?」

 ううむ、なんと説明すべきか、いや、それとも、この説明の通りにくさ、ゲーム的な必殺技はないと考えるべきか?


「武芸、か」

「武芸と魔法回路は違う」

「ああ、そうだな」


 ふむ、心踊る響きだ。この世界、魔珠で強化して、物理で殴るだけかと思ったら、ちゃんと武術があるらしい。流派同士で切磋琢磨とか、燃えるテーマである。


 まあ、時代小説に書いてあったが、様々な剣術の流派や理合があっても、終極的には太刀行きの速さ、それが全てだということらしい。

 太郎丸のパワー、鈴音のスピードがあれば、俺には必要のない話か。

 パワー、スピードのない人間が、格上に勝つために作られたのが武芸とも言うしな。


 ディルスランたちの動きは、鈴音に強化された感覚でしっかりと見ることが出来た。すごいな、とは思うが、勝てないと思うほどでもない。いや、むしろ負けるとは思えなかった。

 鈴音と太郎丸、うむ、紛うことなくチートである。


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