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お待たせしました。

少々短いですが。

「さて、本題に入ろうか」


 詐欺商会の処遇は決めた。もはや用はない。

 改めて華桑から戻ってきた理由に片をつけてしまおう。


「さっきも言ったがこの後の予定を大きく変更する」

「我が君の御心のままに」

「はい、ではどのように」

 ぶれない二人が首肯して会議が始まる。


 とは言っても実質俺を含めて三人しかこの場には居ないんだが。


 アルマーン老やツェグンなど隊長クラスがいれば話は別なんだが、今のところみんな出払っているしな。ザイオンは風の谷の隊長なんだがまあ、こいつは現場でこそ活きる男だ。いなくても問題はない。

 今は絶賛反省中である。そっとしておいてやろう。ケアはジークムントに丸投げだ。


「俺と凛だが、ギルニーの護衛依頼を受けてリストに行くことになった。首都まで行く訳じゃないが、カリスト火山辺りまで行く予定だしな、結構かかる予定だ」

「なるほど、ハル山脈を迂回する必要がありましょうし、移動の距離だけでかなりのものになるでしょうな」


 おお、さすがジークムント。ルーデンスに偏らず各国の伝承に詳しいが、地理もきっちりと押さえている。

 まあ、いずれリストまで行くというのはずっと前から話していたことだし、予習もバッチリなのかもな。


「まあ、山があろうが河があろうが俺にとってはさして問題にならんし、ちょくちょく様子くらいは見に見に戻るよ」

「いえ、局長、それには及びません」


 ん、どういうことだ?

 こちらのことはお任せください、という気持ちがあったとしても万一への備えをおざなりにする訳には行くまい。ヴォイドがそこを押さえない筈がない。


 となると、様子見に代わる何らかの手段があると考えるべきだな。


「ああ、もしかして届いたか?」

「お察しの通りかと。ちょうど良い折りでしたな」


 そうかそうか。

 待ちかねたというほど大袈裟ではないが注文していた品がようやく入ってきたらしい。これで縹局の即応性は格段に向上するだろう。

 つまりは伝信の魔道具がやっと入ってきたのだ。俺が直接移動するのに代わる連絡手段が確保できたわけだな。


 果たしてヴォイドが取り出してきたのはA4タブレットくらいの木の板である。


「この魔道具を起動すると、こちらの本拠に設置した本体と道具の表面とが距離を問わずに同期するという仕組みだそうです。従いまして何かを書けばそれを相手も同時に確認できるというわけですな」


 ふむ、なるほど。複数の端末でモニターを共有しているようなものか。

 文字のみならず静止画を共有できるという訳だな。その気になれば簡単な地図や似顔絵なんかも共有出来るかもしれない。


 ううむ、無線や電報とか飛び越えていきなり通話アプリに進化したぞ。それでいて音声通話は不可能とか、ホログラムの発展といい技術の進化方向がよく分からなくなる。

 いや、まあ俺の知る地球の技術が全ての情報を電気信号に置き換える方法論で進化してきただけとも言えるか。ルーデンスにはルーデンスの、魔法技術の方法論があるのも当然なのだろう。


「魔珠の消費量はそれなりにかかりますが惜しむべきではありますまい。本拠の本体は常時起動させます。個別の道具は随時確認という運用方法になるでしょうな」

「まあ、妥当なとこだろうな。端末はクズ魔珠で動くのか?」

「端末、ですか? ああ、個別の道具を端末、と……。なるほど、良い総称ですな」


 おお、無意識に使ってしまったがもしかして名付け親になってしまったか?

 試作中の技術らしいし商品名も確立していない。ケータイとか名付けてやろうか、なんてな。


「個々の端末は確かにクズ魔珠で起動します。末端の運用は費用的にもさして難しくはないかと。定時連絡も可能と考えます」

「うん、それでいいだろう。問題が出たらその時はその時で」

「我が君の御心のままに」

「はい、ではそのように」


 さて、じゃあ問題は誰に預けるかという話になるんだが。


「端末の数の都合上、現状は各同盟につき一つずつが限界ですな。増産され次第分配するつもりでおります」

「うん、そこは任せる」

「局長が拠点とされるなら華桑にも届けようかと」

「あー、どうかな。華桑との連携は縹局とは切り離した方がいいかもしれん。今のところはそこは置いておこう」

「はい、ではそのように」


 ちょっとした打ち合わせが済み、ふと議題が途切れる。


 さて、いい加減本当の本題に入らないとなあ。覚悟を決めるか。


「サルディニアの連中だが、早ければあと三日ほどでここに着く」

「カルナック殿から大まかな予定は聞いておりますが、少し早まりましたか」

「連中の足は早いからな。行きと違って帰りは寄り道なしで全速で戻るそうだ」


 ふむ、と一度頷いたジークムントが苦笑をこぼす。

「いずれにせよ後宮の設営は間に合いますまいな」



 ……それだよ。


「どこまで聞いてる?」

「はい、カルナック殿からはサルディニアより32名が輿入れされる、と。奥方様からも呉々も粗相の無いよう受け入れ準備を進めよと指示されました」


 凛!

 絶対に断れないと言っていたが、もうそこまで話を進めていたのか。参ったね、腹の据わり方は凛の方が上か。


 結婚式での祝賀奉納の舞は同時に俺への顔見せでもあったわけだが、あれが全員ハーレムメンバーとか俺の方が途方に暮れる思いである。

 ああ、全員とか言って(きょう)静蘭(せいらん)まで含めてしまったら思いっきり殴られそうだな。彼女は将軍であって巫女ではないからなあ。


 それに今後俺に仕える、という体裁で来た面々が舞とはいえ俺を演ずるわけにもいくまい。ゼルガーン相手に演武する身体能力も併せて考えれば喬静蘭は最適の助っ人だったと言えるだろう。

 決して嫁候補などではないのだ。


「ああ、それだ。サルディニアの各氏族から一人ずつ風の巫女がやって来る。ゼルガーンの姪を筆頭に32人になるんだが、しかしまあ正直それだけ入れる場所が足りんだろう」

「そうですな。ですのでアルマーン殿やカルナック殿とも(はか)り新しく宮を建てる計画でおります。巫女として輿入れされるというのであれば神殿とした方が相応しいかもしれません。今は場所の選定と測量を進めておりアルマーン殿はそちらに入っておりますね」


 なるほど、アルマーン老は商談ではなく後宮造りに行っていたのか。ならばそろそろ戻ってくるかもな。近くにいるというのなら俺が戻った報せも多分届いている頃だろうから。

 まあ、それはともかく。


「その後宮というか神殿造りだが一旦中止だ」

「我が君の御心のままに」

「はい、ではそのように。現場には如何様(いかよう)に説明いたしましょうか」

「彼女たちは風の巫女であると同時に竜神の巫女ともなる。それでドルコン達から提案があったんだが」


 言葉を切ればジークムントの顔に納得が広がっていく。


「なるほど、奉竜兵団(ほうりゅうへいだん)の悲願ですな?」

「そうだ。エスト山脈、ミルミーンを復興させ風の神殿を再建する」


 これはずっと以前から挙げられていた願いだった。竜胆(りんどう)の里に受け入れられて安定しているとはいえ、ミルミーン氏族たちの故郷を追われた記憶は全く色褪せるものではないらしい。


 このあたり俺には実感の乏しい話だった。日本のことは好きだし時代劇に憧れもあった。少なくとも華桑の風景に狂喜乱舞するほどには。

 だが、帰属意識があったかと問われれば世界で最も執着が薄いと言われてしまうほどに縁が薄かったのも間違いないだろう。


 あいつ個人に郷愁は山ほどあるが、少なくともルーデンスに来てからこっちホームシックの気配は欠片もない。言ってしまえばむしろあの砦の方にこそよほど俺の執着があるだろう。


 それでもドルコンたちミルミーンの想いも理解できる。だからこそこのチャンスは逃したくなかった。


「我が君の御心のままに」

「主戦力はリムと大和で行く。後詰めに奉竜兵団をつけるから山の下はどうしたって手薄になるだろう。通常の依頼への態勢は調整を頼む」

「はい、ではそのように」


 うむ、よし。

 華桑への対応、風の神としての振る舞いにはどうにか大まかな道筋が見えてきた。これでやっと縹局に集中できるってもんだ。

 縄張りの確立、安定、リストからモス・ロンカへのルート開拓、タントへの浸透、すべき事は鈴生(すずな)りだ。


 まあ、それで一番最初にやることが新婚旅行なんだけどな!

続きは不定期投稿になります。

なるべくお待たせしないよう鋭意努めてまいります。

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