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「なあ、魔導器ってなんだ?」

「なんだ、藪から棒に」


 本丸へと戻る道すがら、ブラウゼルは胡散臭そうな目でこちらを見ている。


 会食会は、あのあとも滞りなく進み、特に波風も立たずに終わっていた。

 ギルニーとはほとんど会話をすることもなく、まるで凛と初めて会ったときのブラウゼルのように、当たり障りのない、社交的な挨拶を交わしたっきりである。

 まあ、特に盛り上がりもしなかった分、昼食会に雪崩れ込むこともなく、ごく短時間で終わってしまったわけだが。


 軽食のわりにはソースとか、結構手が込んでいたなあ。ルドンでカルナックに奢ってもらった飯もかなり高級だった筈だが、それよりも上等なものだったんだろうな。さすが王室御用達。

 ブラウゼルに言わせれば、ルクアの飯の方が旨いらしいが。

 もちろん、俺にも異論はないが。


 ただまあ、ルクアの言う通り、素材の違いがあるのだろう。

 エスト山脈の魔獣の肉にあのソースをかければ、またグッと旨くなりそうな気がする。


 ……もしかして、ルクアも料理を勉強したいとか思っているんだろうか。

 ヒノモトに帰ったら、聞いてみるのもいいかもしれないなあ。


 ともあれ、首脳会談はごくあっさりと終わってしまっていた。

 まあ、目的を果たしたから、と言えるとも思う。

 恐らく、あの場は俺とフェルクを会わせるために開かれたのだろう。

 リングラードの驚きから考えれば、フェルクが直接姿を見せるとは思っていなかったようだが。


 本来ならば、リストとの繋がりを含めて秘匿してしかるべき存在であろうし、騎士を偽装させるとか、ギルニーも思いきった手を打ったものだ。

 その結果、どうやら俺は伝説の騎士に、一定の評価を受けたようには思うが、さて、これはギルニーの思惑ではどう想定されていたのだろうな。


 まあ、どう思われようと構いやしないわけだが。

 いや、と言うよりも、俺が考えても仕方のない話か。


 相手は権謀術数渦巻く王宮の主たちだ。巨大な国家を率いる権力者たち。ついでにみんな年上で、どんな人生経験を積んできたものやら知れたものではない。

 彼らが何を考えているのかなど、俺に量り知れる筈もないよな。


 だから、俺のしたいことはたったひとつ。周りが何を企んでいようとも、それだけは変わらない。

 俺は、きっと、それでいい。


 権力者の思惑など、想像するだけ時間の無駄だ。

 いざとなれば、俺には鈴音と太郎丸がいる。ハクもいる。

 凛だって隣に立ってくれるし、ヒノモトまで帰れば皆だっている。

 そう、恐れるものは何もない。

 いざとなればただ、食い破ればいい。


 かくして、俺は幽玄の間へと戻っているのだった。


 で、魔導器だ。

 フェルクが太郎丸を見て思わずこぼした一言。

 槙野忠輝が言うように、太郎丸は付喪神なのだから魔導器とやらではあり得ないわけだが、いったい何と勘違いしたのやら。


「魔導器か。あまり良い言い伝えはないが、端的に言えば、重鉄姫を破壊するために作られた強大な兵器、と聞く」

「へえ、そりゃまた穏やかじゃないな」


 あのフェルクは重鉄姫のいない状態で遥か高みに立つ恐るべき騎士だった。

 何しろ、俺や凛が目指すべき槙野忠輝をさらに上から見下ろすような、成長した子どもを誉めるかのような高みにいたのだから。


 そんなやつらが重鉄姫に乗るとか、鬼に金棒と言うか、過剰戦力というか、オーバーキルもいいところだろう。

 そして、それを破壊するために作られたとか、もはや何を目指していたのだか。


「茶化すな。全ての魔導器は破壊されたと言われているが、そのために多くの犠牲が必要だったとも聞いている」

「破壊、出来たんだな」

「犠牲も多かったと言ったろう。世界を守るべき重鉄姫の、そのほとんどが失われたのだから。山を砕き、大地を砂漠と化す天変地異とも呼べる戦いだったと、伝承には謳われている」


 ん?

 サルディニアを砂漠にしたのは滅びの獣だか蟲だかとの戦いだったよな?

 当事者のハクが言うんだから間違いはないだろう。

 おかしな話だ。


 そう言えば、凛の話では大陸に生きるもの全ての共通の敵である筈の滅びの獣、それを伝えているのは華桑だけという話でもあった。

 共通の敵に対する危機感がないから、ルーデンスは国同士で争っている、と。


 とすると、伝承は何か変えられているのかもしれん。

 ジークムントの話では、伝承を残したのはローザの加護を受けた語り部たちだった。


 ……くそローザめ、いったい何をしやがった。


 歴史は勝者によって書き換えられる、というのは歴史小説や戦記ものではほぼ常識とされている。

 つまり、伝承はその伝え手によってある程度自由に改竄できるということだ。

 ローザにとって都合の悪い何か、それがあったんじゃなかろうか。


 やはりローザは殴るべきだ。くそ、二度と会うことはないとか抜かしやがって。


「っと、そうこうしてたらもう本丸か。……話し足りないな」

「貴様、何を考えている」


 何を、と言われれば、それはまあ、なあ。分かるだろ?

「このあとは暇か? 飯でも一緒にどうだ?」


 すると、ブラウゼルは盛大に溜め息をついた。

 なんだよ、そんなに変なことを言ったか?


「……恐るべきは陛下の慧眼、なのだろうな」

 あら、そっちかよ。これはもしかして。


「どうかしたか」

「貴様を送るよう命を受けた時に言われたのだ」

「なんて?」

「貴様を本丸まで送り届けた後は夕刻まで非番とする、とな」


 ふうむ、やっぱりそうか。

 リングラードはこうなること、予想していたということだな。


 ライフォートがいない状態でブラウゼルを非番とするとか、二枚の切り札を手元から敢えて手放すようなものだよなあ。

 普通はあり得ない話だ。

 まあ、いいか。

 御配慮、有り難く頂くことにしよう。


「なら、問題ないな。じゃあ行こうぜ」

「まったく、貴様には遠慮の欠片もないな」


 あら、そうかなあ。

 まあ、遠慮などするつもりもないけど。

 曲輪の門をくぐり、幽玄の間へと向かおうとしたとき、ふと、ブラウゼルが呟いた。


「思い出した」

「ん、どうかしたか?」

「魔導器を表すに最も適した一節があった」

「へえ、どんな?」

「重鉄姫は世界のために乗り手を選ぶ。魔導器は主のために、世界を変える、だ」

「なるほど、な。そういう違いか」


 ……魔導器、やっぱり鈴音の方だよなあ。


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